第10話 死神の生い立ち・後編(一華視点)
真大は明らかに動揺した顔をしている。自分のしている話を考えれば無理もない。
少し間をおいてから、私は続きを話し始めた。
「アネモネが名前の由来だってさっき教えたけど、あれの花言葉知ってる?『見放された』『辛抱』『薄れゆく希望』……なんて名前つけてくれたんでしょうね。見事に呪われてしまったわ」
自殺した自分にこの世への未練などあるはずが無く、まっすぐ天国へ案内された。
しかしそこにも大人は沢山いる。一定期間過ごせば転生できるらしいが、あんな人生を送るのはもう嫌だった。
私は天国に行くのを拒否した。すると別の場所へ案内された。天国の更に奥、神様の御前に立たされたのだ。
大人の姿をしていたらまた倒れていただろうが、配慮してか元からなのか、後光が強くて姿は見えなかった。そこで、死神の仕事をしてみないかという提案をされたのだ。
「相手は自分より年下限定」という条件付きでそれを受け入れ、私は死神になった。
「ざっとこんな感じかな。うん、予想はしてたけどそんなに泣く?大丈夫?」
「だいじょばないいい」
話の終盤から真大はポロポロと涙をこぼしていた。
「だって、僕は両親とすごく仲良しって訳じゃないけど好きではあったし、友達も一人だけどよく遊んだしいろいろ話もしてた。それが無いってどれだけ辛いんだろうって考えて、でも僕には想像できなくて混乱しちゃった」
鼻が詰まって苦しくなったのか、話すのを中断して真大はティッシュで鼻をかんだ。ティッシュも持参しているとは、女子かとまた突っ込みたくなった。
「しかも自殺って……僕がさっき死んだ時も滅茶苦茶痛かったのに、それを自分でするくらい追い詰められるって、そんなの辛すぎるよお」
そこまで言うと真大はまた泣き出してしまった。
私は呆れ顔で真大をなだめたが、心の中はなんだか暖かかった。
自分の事を思って泣いてくれる人なんて初めてで、嬉しくて私まで泣きそうだった。
「ごめんね、落ち着いてきたよ。話、してくれてありがとう」
「こちらこそ、聞いてくれてありがとう。今まで誰にも話さず溜め込んできたんだけれど、なんだかすっきりしたわ」
死神になってから、願いを叶えるための最低限の会話をするだけで対象をぼんやり眺めているだけだった私には、こんなにおしゃべりをして楽しい、嬉しいと思ったことはとても久しぶりだった。
いや、もしかしたら人間だった頃を思い返しても、ここまで満ち足りているのは初めてかも知れない。
こんなに面白くて優しい人と友達になれて、私の人生もまだ捨てたものではないかもしれないと感じた。まあ、だいぶ前に死んでいるのだけれど。
「一華さん、未練とか夢が無いって言ってたけど、今も無いの?」
「え?」
感傷に浸っていたところへまたしても、真大は突拍子もないことを言ってきた。
「生きてる間には無かったかも知れないけど、それから願いを叶える仕事をしてきたんでしょ?それを聞いて『こんな事やってみたかったな』って思ったりしなかったの?」
確かに私は、今まで様々な願いを叶えてきた。大切な人ともう一日過ごしたい、大好きな食事を食べたい、行きたかった所へ遊びに行きたい……。それらを楽しむ子供たちを見て、多少の憧れは抱くこともあるものの、自分もやりたいとまで思えるようなことは無かった。
むしろ、夢に溢れた子供たちを見て自分の惨めさに苦しむことの方が多かった。自分も転生したらこんな風になれるのかと考えることもあったが、その度に様々なトラウマが蘇ってきてすぐに諦めていた。
「ううん……やっぱりないかしら」
「じゃあ行きたいところとかは?生きてる時によく行った場所とか」
「ああ……それなら」
念押しをされてもう少しだけ記憶を辿ると、ある場所を思い出した。
学生時代、門限までのわずかな時間で遊ぶためによく訪れていた場所。久しく行っていないから、どうなっているか少し気になる。
「久しぶりに行ってみたいところ、あるかも」
「本当!?じゃあ残りの動物見たら次はそこにしよう!」
「いいの?真大の時間を使っちゃうのに」
「うん、デート初めてだから実はもうネタ切れで……。なら、一華さんが楽しめるところが良いかなって」
「正直なのか気が利くのか。でも、ありがとうね」
思いついた場所は正直、デートという雰囲気にはならないだろうけど、そう言ってくれるならお言葉に甘えるとしよう。
「話過ぎて喉乾いちゃった。真大も泣いたから水分足りないだろうし、飲み物買ってくるわ」
それに、今こうして真大と遊べることが、やりたかった事かもしれない。
私ももっと、この時間を楽しみたい。
暗い話から気持ちを切り替えるように、私はベンチから立ち上がり、売店の方へ駆け出した。
予告通り、土日は休載します。よい週末を(`・ω・´)




