イルディゴ暦 200年と21日 2
私たちはそれから語らった。
語らったというのは、本当に正しいのかはわからない。
彼らは言葉を理解しようと、私と親密になろうとしてたことは感じられた。
私が言葉を発する度、彼らは耳をそばだてるようにして真剣に聞き取ろうとしていた。
そして、必ず言葉を真似し、繰り返していた。
「お?」
一方の巨人が空を見た。
私ともう一方の巨人も、同様にそうした。
空に黄金の輝きがふたつ現れた。
一方は太陽だったが、隣のひとつは何ともつかなかった。
私たちはしばらくその光を見ていた。
いや、みていたのはおそらく私一人だったのだろうが。
輝きは一瞬だけ光を失い、それから今度はさらに大きく、きらめいた。
異様な轟音が響き、私の体は割れるかと思われた。そして巨人の一人が、灰色の目をしたほうが、私に覆いかぶさってきた。
ぶす、ぶすと液体を含んだ音が私の耳に入ってきた。私の視界は巨人に阻まれほとんどなかったが、かろうじて見えた足元に空の色よりも濃い、ラピスラズリのような青色の液体が流れ、広がりつつあった。
巨人が立ち上がり、断続的にうめき声らしき音を立てながら私に背を向けた。その白く、なめらかな肌の背から青い液体が流れ出ていた。
巨人は、私を明らかにかばっていたのだ。何が起きたのかはわからないが、彼は身を呈して私を傷つけまいとした。
「アイン!」
もう一方の巨人が叫んだ。アイン、と記したがこれはそう聞こえたままを記している。
そちらの巨人も、体は傷つき青い血を流していた。
巨人たちが向いた視線の先を追うと、先日彼らがいたらしい箱に似たものが落ちており、そこから這い出したものがあった。
巨人だった。腰よりも下は銀色の光沢がある毛に覆われており、上半身はなめらかな肌だけだった。
遠目だったので詳しくはわからないが、新たな巨人は目を見張ったようだった。
「アイン」
彼は先に金色の髪の巨人が言った音とほとんど同じ発声をして、一歩ずつ恐る恐るといった体で近づいてきた。
「クート」
と灰色の目の巨人がつぶやくように言った。近づいてくる巨人から視線は逸らさなかった。
ここで突然、灰色の目の巨人が突然崩れ落ちた。同時に私へ青色の雨が注いだ。
「デプス、ベリヲ!」
銀の巨人が空を見上げ、金の髪の巨人を指さしながら叫んだ。その瞬間、銀の巨人に灰の巨人が掴みかかった。灰の巨人の左肩に孔が開いて青い血が噴き出していたが、彼は神の怒りのような勢いで突撃した。
銀の巨人は仰向けに打ち倒され、灰の巨人に体の上にへ乗られる形となり、更に一方的に、殴られ始めた。
私の前のそれを呆然と見ていると、今度は左で巨人の叫びらしき音がし、見ると金色の髪の巨人が巨大な槍のような長物で、いつの間にか現れていた新たな巨人の胸を貫いていた。声はその新しい巨人のものだった。新しい巨人はすでに青い血にまみれ、どのような姿かは判別できなかった。
「デプス!」
そのように銀の巨人が殴られる合間に叫んだ。もう顔は彼ら二人の青い血でわからなかったが、銀の巨人は叫んだあと猛然と灰の巨人の左肩へ掴みかかった。
「「アアアアアアアアアアアアアアアア!!」」
と、彼らは大地が震えるような絶叫をし、互いに動いた。
銀の巨人の腕は灰の巨人の孔の開いた左肩をとらえ、血を絞り出すようにしていた。
しかし灰の巨人が右のこぶしで銀の巨人の顎を殴って、ゴリと怖気立つ音が鳴ると、左肩に伸びていた右腕がだらりと垂れさがり、地に落ちた。
灰の巨人はしばらく巨人の死体の上に座ったままだったが、やがて崩れ落ちた。
どちらも死んだ、ようだった。
私はその後浴びた血も落とさずにこれを刻んだ。
生き残った金の髪の巨人は歩き去って行った。