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太陽と19の巨人   作者: 満足気
1/6

イルディゴ暦 200年と19日


 今日、私は出会った。

これは神の如何な思し召しであろうか。

聖火の元でこれを書いている今も、手が震えている。

順を追って書いていかなければならない。私の心を落ち着かせるためにも、神の心を推量するためにも。

 おお、神よ。我に御加護をお授け下され!


今日は1日の間、からりと晴れ上がっていた。

正午ごろまでは、何も起きなかった。

私が干した魚の昼食と祈りを終えた頃、西から一人の男が来た。

男は、この神殿へ西から2日かけて来たといった。妻が病気で亡くなったので、彼女の持ち物を神殿で清めるためだと言った。

これはしばしばあることだ。

悪気に憑かれ亡くなった者の遺品は神の火で清めなければ悪気は広がる、預言者イルディゴはそう仰ったからだ。

彼の妻の遺品を聖灰で以て清める間、彼は熱心に祈りを捧げていた。

彼が神殿を発ったとき、確かまだ太陽は傾いていらっしゃらなかったはずだ。

私は彼の置いていった少しばかりの食べ物を、納屋に入れた。

そのすぐ後に、大水の迫るような轟音がし、地面が揺れた。

神殿の外へ出ると、巨大な箱のようなものが地面をえぐって落ちていたのが遠くに見えた。

私はそれへ向かって荒野を走っていった。

私がすぐ近くまで来たときその箱から、巨人が出てきた。

私は恐怖から、その場に座り込んでしまった。

巨人は全裸で、2人であった。

彼らは私を見ると不思議そうに歩み寄ってきた。私の目の前に着くと、跪いて顔を近付けてきた。

それは男性のようだった。でこぼこした体をしていて、毛が無かった。

私はそのとき何か譫言を言っていたはずだが、よく覚えていない。

「ーーーーー」と私を覗き込んでいた巨人が話しかけたように思う。

地響きのような重い音だった。

繰り返しそうしていたが、もうひとりの巨人が何か言うと黙り込んだ。

私は恐ろしかった。巨人の口は私を飲み込んでしまえるだけの大きさがあったのだ。


そうしていると、先の男の声が聞こえた。神官さま、なにがおきたのです、そのようなことを叫んでいた。

その声を聞いたのだろうか、巨人が立ち上がり、彼の方を向いた。

彼らの入っていた箱で遮られていて、そこで初めて巨人の姿を見たのだろう。彼が恐怖の叫びを上げたのが聞こえた。

巨人が彼の前へ屈み込んだ。私からは彼の姿が見えなくなった。

少しすると、彼の声が止んだ。たぶん、この時彼は亡くなったのだろう。

巨人が立ち上がると、私は彼の体が巨人の手の中に握られているのを見た。

指の間から、血が流れていた。

巨人は遺体に、私に先にいたように話しかけているような素振りを何度もしていた。

巨人が声を出す度に、私の腹の奥が揺さぶられるような感じがしたのを覚えている。

しばらくすると、彼が死んでいることにようやく気が付いたのだろう。

巨人は遺体を地面へ慎重に置いた。とても慎重にだった。

彼の体はめちゃめちゃになっていた。それ以上は書きたくはない。

巨人は振り向くと、再び私を見据えた。

しかし今度はもうひとりの方が近づいてきた。

こちらは、毛があり、女性のようであった。

彼女は跪くと、腕を体の前で振り始めた。

私はただ茫然としてそれを眺めていた。

その内に、私はようやく意識がはっきりとしてきた。

すると逃げなければ、ということだけが私の心に浮かんできた。

私は逃げ出した。必死に神殿へ駆けて行った。思い返すとこれが良かったのだろう。

私は一度も振り返らず、必死に走った。

私が神殿の広場へ転がり込んで、そこで初めて後ろを振り向いた。巨人はすぐそこに居た。

私はもうだめだと思った。

しかし、先ほど私に近づいてきた女性らしい方が、私を覗き込んで笑った。多分、私に笑いかけたのだと思っている。

私が震えている前で、2人は神殿の外壁を乗り越え、内側から外壁に寄りかかった。そして抱き合うように寝転がった。

私は神殿の建物にほうほうの体で入った。

すぐに私は陽が沈むまで聖火へ祈りを捧げた。

その後、自室に戻ってこの記録をつけ始めた。

外からはアムラ河の流れるようなゴオオ、という音がしている。巨人の寝息だと思う。

今日はもう聖火へ薪を捧げて終わりにする。

これからのことは太陽が昇ってからにするつもりだ。


神よ、その光で以て悪を滅し給え。そして我らに御加護を。



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