パワーワードファンタジー! 叫んで走りたくなる世界
そこは良い異世界だった。
不思議なことに、異世界なのに言葉は通じるし、味覚や衛生観念も違いがない。非常に都合の良い異世界だった。【ある事】を除けば……。
俺は、どうしても【ある事】が我慢できなかった。そのためだけに、現実世界へ戻るべく魔王打倒を目指したのだ。
そして魔王との最終決戦が始まった――
「くっ、なぜだ!」
……魔王!
「何故、絆バラバラ友情愛情ブレイカーを喰らって立ち上がれるのだ?」
何だよ、そのわけのわからない技は……。
「ガハハハハ」
……戦士!
「わし達の熱い友情の前には、そんな技は屁でもないわ!!!」
出たよ……。自分で友情とか言ってしまう?
「わし達は数多の死線を駆け抜けた真の戦友じゃ!」
パーティー組んで一週間ぐらいだけどね……。
「勇者は命がけで自己を省みず、わしを何度も救ってくれた!」
命かけてないし自分が一番大事です。ごめんなさい。
「わしは最初から思ってたよ。こいつなら魔王を倒せるってな!」
最初は偽勇者扱いしてたよね?
「そうよ!」
……女僧侶!
「私と勇者様の真実の愛!」
重い……重いよ……。
「その麗しき愛があれば、どんな困難な障害だろうと私は負けない!」
ハーレムやりたくて5又してて、ごめんなさい……。
「あれは運命の出会いだった。私は一目で恋に落ちたの……」
初対面の時、ゴミを見るような目してたじゃん。
「私はすぐに理解したわ。勇者様は私の白馬の王子さまだって……」
プレッシャーがすごいよ……。
「海よりも深く誓った永遠の愛!」
え? いつの間にか式挙げたの!? 誓ってないよ……。
「その愛の前では魔王! あなたは愚かで儚く、とても醜き存在!!!」
言い過ぎ! 言い過ぎ!
「フッ……とんだ甘ちゃん揃いだな。」
……盗賊!
「ヤレヤレ。このお人好し達には、何を言っても無駄だぜ」
こいつが一番苦手なんだよな……。
「しかし、こいつらは裏切った俺を……快く受け入れて信じてくれた!」
また裏切るかもと疑ってるけどね……。
「世界を敵に回し……鬼畜道に堕天した……どうしようもないクズの俺を!!!」
せこい置き引き常習だっただけじゃん。
「だからこそわかる。俺たちの絆は……何があっても崩れない前世からの絆だ!」
本当やめてくれ……頼むから……。
「クッ! なんて奴らだ……」
あれ? 魔王弱ってる?
「眩しい……貴様らの純粋で深い絆を見ていると力が抜けていく……」
どんな特異体質してるんだよ……。
「今じゃ! あの奥義を出すんじゃ!」
「勇者様! チャンスです!」
「また、お前に良いとこ取られちまうな!」
いやだ。あの奥義を出すのは……。
究極無限永遠絶対零度宇宙聖域運命剣を出すのは……。
この奥義。声に出して言わないと発動しないから……絶対に嫌だ!
「かましてやれ! 究極無限永遠絶対零度宇宙聖域運命剣だ!」
「今です勇者様! 究極終焉永遠絶対世界果聖域運命剣を!」
「終わらせな! 究極無限永遠絶対零度銀河犠牲悪運剣で!」
おい、奥義名変わってるぞ……。
「どうした?」
「もしかして!」
「お前ってやつは……」
『魔王に情けを!?』
綺麗にハモったな……。
「この魔王に情けだと……貴様らを見ていると、はるか昔を思い出す……」
回想入っちゃったよ……。
「あれは、半年前。まだ人間と共存していた頃だ」
え? そんな最近だったの!?
「我にも、将来を誓った人間の恋人がいた」
その恋人を人間に殺されてしまったのか?
「しかし、我はフラれてしまった」
……だと思ったよ。
「その時に誓ったのだ。虐げられし魔族のために人間供を殺戮するとな!」
思いっきり私怨だな。魔族のせいにするなよ。
「しかし、お前らの絶対の愛を見ていると……その誓いが崩壊していく……」
「ウオオオオ!!! そんな血塗れの歴史があったとはの……」
「グス……なんて悲劇的な痛みなの……魔王! まだ闇から引き返せるわ!」
「俺の罪も許されたんだ! お前だけじゃない。この世は誰もが咎人だぜ!」
「お前たち……許すというのか……この暗黒に落ちた惨めな我を!!!」
……………………好きにして。
結局、俺は魔王を倒せなかった。
異世界に残って身悶える毎日を送っている。
毒される前に、この異世界から脱出せねば……。
「フッ……この輝ける麗しの異世界で暮らすのも悪く無いか……あれ?」