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LASKA  作者: 朝舞
第一章 はじまり
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現れた助っ人


月夜の魔導士と、百剣士。


それは、アレスティア王国で有名になってきている正体不明の魔道士と剣士のことだ。

興奮ぎみに、ラスカにそう説明するエレンとスーは、子供のように目を輝かせていた。今では誰もが憧れる存在が現れたのだから、仕方がないのかもしれない。


魔道士は顔を隠しているうえに、声さえ聞くことも珍しいらしい。

その人物は、黒いフード付きのマントを着ていた。服装は普通だが、顔は布で覆われていて見えない。おそらく、黒マントだから月夜の魔道士なのだろう。


そしてもう一人が百剣士なのだそうだが……


「今回は、ずいぶん小さいな。」


百剣士とは、"百の顔を持つ剣士"という意味。よくその姿が変わるからそう呼ばれているそうだ。魔道士と違い顔を見せることもあり、戦闘の際に一般人の避難誘導も積極的にするので、よくその声も聞かれている。もっとも、本当の姿や声は誰も知らないのだが。今回は、魔導士と同じように顔を隠している。


魔導士が魔物に向かって、次々と氷の刃を放つ。刃は雨のように降り注ぎ、容赦なく魔物の身体を貫いていく。


「わ……凄いっス……無詠唱で、杖も使ってないっス……」


普通の魔術士は魔法を放つ時、詠唱を行う。また、魔力を具現化させやすくするための道具が杖だ。スーも小さな杖を愛用している。


魔物がボロボロになったところで、百剣士が穴の中に飛び込んだ。細い剣を思いっきり魔物に突き刺す。


「……散れ。」


凛とした声と共に、剣が眩しく光を放つ。


跡には、何も残っていなかった。いつのまにか、百剣士は穴の中におらず、魔物によって作られていた穴は崩壊した。月夜の魔導士も、もちろんいない。


「あたし、初めて見たよ……」

「僕もっス……圧巻っスね……」

「……」


ラスカも呆然としていた。ドラクレイオスは満足そうに「いいものを見ましたな」と笑っていた。


「では、帰りますかな。きっと今日は夕食が美味しいですぞ。」



ーーー




エレンとスーとは小屋で別れ、ラスカはドラクレイオスとギルドへ向かっていた。倒した魔物の素材や魔石の換金と、巨大な魔物の出現と討伐完了の報告をするためだ。魔物の身体の中には魔石と呼ばれる石があり、魔道具を作る時等に使われる。


「む?ラスカ殿は、何をしているのですかな?」

「まちあわせしているんです。」


ラスカはディークリフトとレイが来るまでギルドの中で待っている。二人とはここで待ち合わせしているのだ。理由は、ラスカは一人で聖域に帰れないから。


「あ!」

「おお!我が同志ではないか!」


現れた人物に、二人同時に声をかける。彼らに声をかけられた人物、ディークリフトがわずかに眉を上げた。


「お前、ドラクと組んでいたんだな。」

「はい。ふたりは、しりあいですか?」

「我らは同志ですぞ、ラスカ殿。」

「ど、どうし……?」


答えになっていないが、ディークリフトは否定はしていない。あながち、間違いでもないのだろう。……肯定してもいないが。

そこへ、レイが三人のもとへやってくる。


「おつかれー……あれ?ドラクさん?

ギルドマスターの仕事はいいんですか?」


目上の人にはしっかりと敬語を使うレイが、ドラクレイオスを見てそう言った。


「えっ……?どらくししょう、ギルドマスター、なんですか?」

「ほっほっほっ……」


レイとラスカの言葉に、ギルドマスター……ドラクレイオスは、なにかを誤魔化すように笑っただけだった。




ーーー




「ふぅん……あの人が太鼓判を押すのなら、かなりの実力の持ち主だねぇ?」


ソファに身を沈め、青年は口元を緩ませる。

癖のある金髪を指先でくるくるともて遊びながら、青年はその情報を持ってきた黒衣の人物をじっと見る。


「僕は、信用してもいいと思うんだけどぉ……まあ、念のためにしばらく様子を見ていようかなぁ?」

「それが賢明かと。」


黒衣の人物も短く答える。


「彼女もこっちに引き入れたいなぁ。でも、まずはそれに相応しいかどうか……とりあえず、観察よろしくねぇ。」

「承知しました。」




ーーー




ーーオレ、何をしているんだろ……?


人混みや物陰に身を潜め、レイはため息をつく。少年の視線の先では、ラスカがせっせと大きな箱を運んでいた。


ラスカがドラクレイオスとパーティーを組んで魔物を討伐したと知ったとき、レイはかなり驚いた。彼女は初心者のはずだが、戦闘に慣れている様子だったときく。


これならディークリフトとレイが協力している組織のメンバーにも認めてもらえるだろうと思っていたのだが、彼女は驚くべき行動にでたのだ。


「しばらくは、ぼうけんしゃいがいの、いっぱんのいらいを、うけようとおもいます。」


ラスカいわく、自分は街の人達に受け入れられていないと考えているようだった。「パーティーも、ドラクさんしかさそってくれなかった」と、彼女は寂しそうだった。もちろん、パーティーメンバーを募集している集団を見つけては声をかけたそうだが、相手にされなかったらしい。


それは、ラスカが冒険者に見えなかったのと、とても戦力にならないように見えるせいなのだが、彼女はそれに気がついていない。


「まちのひとたちと、しんらいのために!」


はりきってそう言う彼女に、レイは何も言えなかった。


それからというもの、ラスカは一般依頼を受け毎日働いている。


ーー街道の掃除、子供のおもり、家畜の世話の手伝い、時々魔物の討伐……そして今日は荷物運びか。


レイは自分の仕事の合間に、ラスカの様子を見守っていた。ディークリフトはというと、新しい実験に取りかかっているようで、屋敷の自室にこもっている。


ーーあ、終わったかな


ラスカが依頼主であろう男にお辞儀をして、歩き始める。レイもそのあとを追いながら、彼女があちこちから声をかけられていることに気がつく。


親しみをこめられた声や笑顔に、ラスカも手を振ったりして応えている。


ーーいつのまに……


彼女は、ディークリフトやレイが知らないうちに、街人との繋がりを得ていたようだ。

その時、何やら騒がしい声がレイの耳に飛び込んできた。




☆★☆★




「やめてください!」


女性の悲鳴があがり、ガラガラッと何かが崩れる音が響いた。ラスカは騒ぎのする方に駆け寄ると、その光景に唖然とする。

憲兵とおもわれる男達が、女性の店を荒らしているのだ。


「ふんっ下賤が。」

「獣人のつくる食い物なんて、獣臭くて喰えねぇよ。」

「それにさ、ほら、所場代は?税金もまともに納めてないだろう?」

「誰のおかげでここにいれると思ってんの?」


この王国は多民族国家だが、種族の差別や偏見がまだ見られる。領主が彼らに不当に高い税を課したり、嫌がらせをしたりというのもあるそうだ、とラスカは聞いたばかりだ。


周りの人達は巻き込まれたくないようではあるが、怒りと、怯えた表情で彼らを見ている。

ラスカは人の波を掻い潜り、憲兵達と女性の間に立ちはだかる。


「ラスカちゃん、だめだよ」


何人かの街人達が声をかけるが、彼女は男達を見上げたまま動かない。


「正義の味方のつもりか、お嬢ちゃん?」

「まるで俺達が悪役ってか?」

「しょうひんのうりあげで、ぜいきんをおさめています。しょうひんをだめにすると、うりあげがへります。うりあげがへると、のうぜいできない。だれがぜいきんをはらっているおかげで、あなたたちがしごとできると、おもってんですか?」


男達の言葉を聞かず、ラスカは冷静に言葉を並べる。


「それと、しょばだい。そんなきまり、ほうりつは、そんざいしません。これは、きょうかつです。」

「黙れ、小娘が!」


一人の男が、ラスカに剣を向ける。


「へいしが、むていこうの、いっぱんじんにぶきをむけることは、きんしされています。」


これ以上はやめておいた方がいい、と周囲から声が聞こえ始める。

ラスカは男達を落ち着かせようと、まあまあ、となだめていた。彼女の言うことは正論で、憲兵達はここで立ち去るべきなのだが、恥さらしにあい頭に血が登った彼らは少女に掴みかかろうとした。


キイイィィンッ


剣が上空に弾き飛ばされ、憲兵は一瞬呆ける。そのまま勢いよく地面が背後に迫り、すぐそばでグサッと何かが刺さった。

男は首を動かしそれを見て、ようやく現状を理解する。

自分は地面に倒され、右肩のあたりに剣を突き立てられたのだと。しかも、服の下の肩にはスレスレで剣の背があった。身体は傷ついていないのに、男は一瞬で恐怖を味わった。

他の男達も、同じような状況だ。


「失礼。妹が面倒をかけたみたいだね。」


見ると、ラスカよりも背の高い青年が歩いてくる。

紅茶色の髪に、ややつり上がった目。確かに、ラスカ似ている。眉をひそめるラスカを見ずに、青年はこの惨状に不思議そうに首を傾げる。


「うーん?なんかよく分からないけど、君達の隊長には連絡を入れといたからね。何があったのかは……証言者はたくさんいるようだし、問題ないよね。」

「隊長に……?!」


青年の言葉を裏付けるように、彼らの上司達の声が近づいてくる。青年が嘘をついてないことを知り、憲兵達の顔が青くなった。隊長のことを気安く話す青年に、畏怖の表情を向ける。


青年は彼らのもとに近づくと、その顔をのぞきこんだ。


「本当は、君達にこの手で罰を与えてあげたいくらいなんだけどね。あいにく、クズの為に使う時間はないんだよ。ま、今後このような事を見かけたら、その時はたっぷりとお仕置きしてあげるから。」


冷たい冷たい、絶対零度の瞳が彼らを射ぬいた。青かった彼らの顔は、すぅっと紙のように白くなった。


「……じゃあ、帰ろうか。」


何事もなかったように笑顔になった青年は、ラスカの手を引き姿を消した。

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