表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LASKA  作者: 朝舞
第五章
55/55

送り主を探して


ーーー




朝。

夜が残した涼やかな気配を纏っていた太陽が、それをすっかり脱ぎ捨てて、照り輝く本来の活力を取り戻した頃。


ようやく、それぞれが行動を開始する。


いつもと比べると遅い時間帯なのだが、ラスカはふわりと欠伸をしていた。


昨夜はよく眠れなかったのだ。言葉には出さないものの、他の皆も同じらしく、僅かに顔色が沈んでいた。


「……」


通りを歩いていた彼女は、すっと脇に剃れる。一歩足を踏み入れれば、そこは細い路地だ。


地図を持ってはいるものの、それにはほとんど目を向けずに、変わらぬ歩調で進む。


複雑に絡む路地裏は、周囲を建物で囲まれている為、あまり日が差さない。表の通りに比べるとひんやりと湿っぽかった。昨日と雰囲気が違うのは、時間帯によるものだろう。


夕方にあったじっとりとした感じが、夜の間に露で洗われて、日の光に浄化されたかのような。


朝の清々しさは、このような場所でも感じられるものだ。


「着きました。」


そう、声をかける。


「……ここ、が……そうなんだ……?」


彼女の後ろをついてきていたサーシュは、顔をあげた。同じように地図を見ながら歩いていたようだが、現在地も分かっていなかったらしい。



調査をするなら、協力的な人を頼った方がいい。



そういう理由で、この小さな家を訪ねて来たのだ。


「ラスカおねぇちゃん!」


二人が玄関までたどり着かないうちに、扉が勢いよく開いて白い少女が飛び出してきた。


「あそぼうよ!いっしょにあそぼ!」

「ハンナちゃんは、今日も元気ですね。」


顔を綻ばせるラスカの手を、少女は力強く引く。溢れる喜びに弾けるように、跳びはねながら。遅れて出てきた母親が声をあげた。


「まぁ!いらっしゃい、ラスカさん。ごめんなさいね、この子ったら……。」


「落ち着きなさい」と娘を嗜めつつ、二人を中に招き入れる。


「驚いたわ、また来てくれるなんて。ここは、そう簡単には来られない場所だから。」


女性の声には、ハンナと同じような喜色が滲み出ていた。見るからに来訪者は少ないだろうし、その反応は当たり前なのかもしれない。


ハンナにせがまれてラスカが遊び相手になっている間、サーシュが女性にここを訪れたことの顛末を話す。


「それなら、心当たりがあるわ。」


話を聞いた彼女は、あっさりと言った。


「一つだけ、花束が届けられたのよ。送り返そうとしたんだけれど、送り主が分からなかったから、それもできなくて。」

「……なんで……送り返そうと……?」

「ここに郵便物が届いたことはないからよ。間違いだと思ったの。」


配達員でさえもこの辺りは迷ってしまうことがあるらしく、迷惑をかけないようにと、郵便物は夫の経営する飲食店に届くようになっているらしい。ここの住所は誰にも教えていないという。


「やっぱり、そう簡単に送り主は分かりませんか。」


ラスカは少女と遊びながらも話は聞いていたのか、サーシュの方に一瞬視線を送って言った。


「……でも、変な花束が……送られていたのは、分かった。……これは、重要な……事実。」

「そうですね。」


ここに来る前に郵便局でも調べたが、不審な物は無かった。


ーーということは……


送り主は、直接花束を配ってまわったのだろう。




ーーー




「君か……。もう、驚いたじゃないか。」

「…………えっと、ごめんなさい?」


その人物のあっさりとした物言いに一瞬戸惑った後で、レイはとりあえず謝罪する。


「……あ。」


少年の目の前の人物ーー神官は、はたと動きを止めた。

ややあって、こほんと一つ咳ばらいをする。


「……突然背後に気配がしたので、驚いてしまいました。」


何事もなかったかのように、柔らかい微笑を浮かべた()()()()神官がそこにいた。

傍らで、星詠みが淡々と話す。


「……素が出てましたよ。『神官モード』に切り替わっても、たぶん遅いすよ。」

「『神官モード』?星詠みはおかしな事を言いますね。私はいつもこうですよ。」

「そうすね。」


神官の言葉を受け入れているのか、聞き流しているのか。おそらく後者だがーー星詠みは、それっきり閉口する。

本題に入るために、意図的に会話を絶ちきったのだ。


レイはそれに気がつき、改めて二人を見上げた。


「本来なら然るべき手順を踏んで来なければならないんですけど、」

「構いません。」


少年の言葉を途中で制し、神官は真っ直ぐな眼差しを向ける。


「用件は何ですか?急いでいるのでしょう?」


見抜かれている、と少年は神官の目を見つめ返した。


ぞんざいな性格と聡明さ。一見異なる性質をあわせ持つこの人の人格の根底は、レイにも分からない。


ーーそれはともかく


「神官様に、確認したい事があるんです。」


いくつかの質問をするだけだ。

ただ、レイにとっては、その答えだけが重要な訳ではない。


何気ない会話の中で、仕草、表情、僅かな目の動き、質問に答えるまでの間ーーあらゆる情報から相手の心理までを見極めるのだ。


答えの信憑性を、確かめるために。


観察とは注意深く見ることだが、その対象に悟られてしまっては意味がない。

あくまで自然に。

だから、相手は分からない。


狩られる直前まで。



狩られても、理解していない。


なぜ、捕まったのか。

なぜ、狩人がいるのか。

ーーいつから、観られていたのか。




ーーー




ーーお願い、目を覚まして


ぐったりとしているキットを、ぎゅっと抱きしめる。

弟のような存在だから。家族のような、大切な仲間だから。


だから、もう失いたくない。


顔を上げると、少年の姿は消えていた。その代わりに、不安そうに私を見上げていたのは、見覚えのある子供達。



ーーあぁ。


いつのまにか、場所が変わっていた。


檻の中。大きくて狭い、あの場所。

何もかもを失った私に、与えられた場所。


足を見る。鎖で繋がっている。


ーーなぜ?


これは、()()()()私。


『ここから出ようと思わないのか?』


古風な着物を着た少年が、私の顔を覗きこんできた。


この光景を知っている。

この少年と入れ替わるようにしてマスターがやって来て、私と子供達をここから出してくれた。


そう、私はここを出たはず。

これは、私の過去の記憶。


『そうじゃ。』


少年が、あの時とは違う事を言った。


『これは、そなたの夢ーー




ーーー




「よかった、気がつきましたね。」


いつのまにか、紅茶色の目の少女が側にいて、私は彼女をぼんやりと見ていた。

彼女が誰なのかを脳が認識するまでに、少し時間がかかった。


「……ラスカ様?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ