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LASKA  作者: 朝舞
第五章
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それは人為的に


ーーー




宿に戻る頃には、夕暮れになっていた。ディークリフトはレイとルイを伴い、閉め切った一室に佇んでいた。


「植物学者は、何代前だったか……。これの事を知っているといいんだが。」


呟きながら、瓶を机の上に置く。冷たい輝きを放つ氷の中で、花は鮮やかな色を保ったまま咲いている。


「……始めるか。」

『うん』

「いつでもいいよ。」


じっと青い花を見つめてから、青年は静かに目を閉じた。浅く息を吐き、そのまま詠唱するように言葉を紡ぐ。


「大いなる意思の子、同じ名を持つ者。力を貸せ。ーー《翠の学徒》」


ずるずると、彼の身体から陽炎に似た影がたちのぼる。背後に集まったそれは、ゆっくりと人の形に変化した。


銀髪に、灰色がかった瞳。どこか人間離れした雰囲気。

ディークリフトと似ているが、彼とは違う人物。


老木を連想させるその老人は、青年と重なった。





《いいとも。力を貸そう。》



目を開けた《彼》は、穏やかな笑みを浮かべた。




ーーー




「兄さんの具合いはどう?」

『まだ、ねつ、ある?』

「熱は引いたみたいです。」


ベッドの方を向いていたラスカは、隣室から戻ってきたレイとルイに目を向ける。


「随分と、部屋に籠っていましたけど……」


言いかけて、一緒にいたはずの青年がいないことに気がついた。


「あれ……?ディークリフトさんはどうしたんですか?」

「眠ってる。明後日まで起きないと思うよ。」

「明後日まで?」

「……よく、眠るんだね……」


ラスカとサーシュが驚くのを見て、少年は苦笑いした。


「ちょっと特殊な魔法を使った、反動みたいなものだよ。おかげで、いろいろ分かったんだ。」


ことりと、花の入った瓶を机の上に置く。それを囲むようにして、自然と皆が集まった。


「この花は、トモナシグサ。珍しい植物で、この辺りには自生しない。これを見つけたのは、本当に奇跡的だね。」


資料の文字を辿りながら、レイは必要な情報を探す。


「ほぼ全ての部位に毒があって、主な症状は……発熱、悪寒、意識障害、痺れや痙攣も時々あるみたい。ーーオレ達が調査していた感染症の症状と一致している。」

『もしかしたら、しゅーだんちゅーどく、なの。』


感染症ではなく、集団中毒。


この花が見つけられなかったら、その可能性には至らなかっただろう。


「それなら、考えられる原因は……」


ラスカは指折り数え始める。


「誤って食べた、毒草を食べた動物の肉等を食べた、飛ばされた花粉を吸った、毒に汚染された土や水から……」

「水……?」


僅かに反応したサーシュに、一同の視線が集まった。


「ーーあ……えっと……、たしか、井戸が……。」


萎縮しながらも、地図を取り出して広げてみせる。


『これ、なぁに?』


それにびっしりとつけられている印に、ルイがすぐに興味を示した。


「……感染者を、分類分け……してみた。丸は……治った人。……バツは、亡くなった人……。」


指差しながら、それらが何を意味するのかを説明する。


「……黒い、丸は……いない人。」

『いないひと?』


ゆっくりと頷き、言葉を選びながら続けた。


「亡くなった……らしい、けど……。……お墓の、中には……いなかった。」

「遺体が無かったってことだね。……けっこう多いみたいだけど。」


黒い丸の数を確認し、レイは不可解な事実に顔を曇らせる。サーシュは、印の集中している場所の中心を指差してみせた。


「ここ……。」

「じゃあ、この井戸から、毒が広がったのかにゃ?」

「……ちょっと待って。」


レイの表情が険しくなる。睨みつけるに近い視線が、地図上に注がれていた。


「これ、おかしいよ。」


ゆっくりと、密集した印を囲むようにして指でなぞる。街を歩いた時には気がつかなかったが、そこには、明らかに境界線があった。


多少まばらになってはいるもののーーその、範囲は。



井戸を中心とした、綺麗な()()なっていた。



「毒が広がった。ただそれだけなら、こんな形にはならないはず。」


びくっと、サーシュが小さく肩を震わせる。レイの声に、冷たい雰囲気を感じとったのだ。


「すごく、人為的なものを感じるね。」

『……れい。』

「あ。ごめん、つい。」


裁きを与える使徒としての本能が疼くらしい。ルイに指摘されいつもの調子に戻ったものの、垣間見えた少年の本性に、サーシュは硬直したままだ。


「……レイ、こわい……。」


結果、そっと距離をとられていた。




☆★☆★




「……とりあえず!」


ひとまず話を纏めようと、少年は咳ばらいをする。


「人為的にされた形跡があるなら、事件性もあると考えた方がいい。分担して、また明日から調査しよう。ディークから指示は受けているんだ。」


彼は、明日の調査には加われないことを分かっていて、既に準備を整えていたようだ。


「オレは、神官様に会いに行く。兄さんの看病は、ルイとラスカでお願いできる?」

「それにゃら、わしゃも……。」


キットはすがるようにレイを見たが、静かに首を振られる。


「気持ちは分かるんだけれど……。キットとサーシュさんは、もう一度調査に行ってほしいんだ。」

「うにゃ……」


しゅんと項垂れる尻尾を横目に、サーシュが控えめに挙手をした。


「何を……調べる……?」

「毒草を広めた手段だよ。」


意図的なものだとしたら、どのような手段が使われたのか。


「うにゃあ……」


机に顎を乗せたまま、キットはじーっと、例の花を見つめた。その花びらの色は、よく晴れた日の空を彷彿とさせ、小さな瓶の中に春を感じさせる。


「プレゼントしたんじゃにゃいかにゃ?綺麗だし、毒があるにゃんて思わにゃいにゃ。」

「たしかに。小さい花瓶で飾るとかわいいと思います。」


想像してみると、なぜかゴートが思い浮かんだ。ラスカの脳裏に、繊細に花を活ける彼の姿が甦る。


ーー……あれ?


一瞬、何か思い出した。


ラスカは、薄れゆこうとしていたその一瞬前の記憶の端を辿る。




花を飾っているゴート。


   『活け直しているんだよぉ。』



      花を片手にくるくると回るマスター。


()()()()のがぁ、ちょっと萎れてきちゃったからねぇ。』


           飛び散った花粉。   

  くしゃみをするキット。



僅かな花の香り。




「ーー花祭り。」


マスターとの会話を思い出すと同時に、消えようとしていた閃きが甦った。


ーーでも、花祭りって……何?


あくまで、ただ言葉が出てきただけで、ラスカにはそれが何を意味するのか分からない。


「そうか!」

『らすか、すごーい!』

「にゃるほどにゃー」


皆が納得しているなか、彼女は一人首を傾げる。


「……花祭りは、大切な人……お世話になった人に、花束を……贈る、風習。」


サーシュの説明に、はっと息をのむ。


「まさか、その中に?」


たくさんの花束。

それに紛れる、毒草。


「時期的に考えても、間違いないと思うよ。花祭りの直後から発熱者が出ているから。」


そう言うレイの視線は、地図に浮かび上がった円を突き刺している。


「花束の送り主を調べてーー絶対に、突き止めよう。」


少年の瞳には、再び刃物のような光が宿っていた。


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