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LASKA  作者: 朝舞
第五章
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毒と花


☆★☆★




「この子も、熱が出たのよ。」


しばらくして、女性は少女の白い髪を撫でながら話し始めた。


「そこに、あの御方が……」


口ごもるのを見て、ルイがそっと僅かに震えているその手を握る。


『だいじょうぶ。なにも、しんぱいしないで。』


柔らかく微笑む少女は、それだけで人々を魅了してしまう。女性の心も、春の陽気に包まれた雪のように、ゆっくりとほどけていく。


「ーー!」


ルイの胸元のブローチを見て、女性は瞠目する。ブローチは淡い輝きを放ちながら、神殿の紋章を浮かび上がらせていた。


「称号者……?」

「一応な。」


苦々しく答えるディークリフトに、女性の表情が少し和らぐ。


「でも、それなら……あの御方の意に反さないはずね。」


ゆっくりと深呼吸をして、女性ははっきりと言った。




「あの御方ーー神官様が、現れたのよ。」




ーーー




「騒がしいな。」


宿へ向かう途中、何やら人々がざわついていた。四人が顔を見合わせていると、彼らに気がついた数人が慌てた様子で呼び止める。


「あぁ、いいところに!ちょっと来てくれ!」

「急いで診てほしい人がいるんだ!」


ルイが勢いよく飛び出し、ラスカも少女の後に続く。ディークリフトとレイは状況の把握に努めた。


「熱で倒れた人がいるらしい。この辺りの人じゃないみたいだけど……」

「ディーク、まさか……」


レイが緊張した面持ちで青年を見上げる。

少年に対して何も答えず、ディークリフトはその民家の中に足を踏み入れた。


「ディークリフトにぃ!」


部屋にいた人の中で、小柄な影が声をあげる。すっぽりと身を包んだ外套に、顔も分厚い布で覆われているが、すぐに誰か分かった。


「キットか。」


荒い息で眠っているのは兄さんだ。漆黒の髪の毛は汗で肌に張り付いている。こちらは、いつもの普段着だった。


「にーちゃんが、にーちゃんが!」

「落ち着け、キット。」

「うにゃ……」

「……ルイがいるから心配するな。」


半泣きの少年に戸惑いつつ、少女を指し示して見せる。

ルイは落ち着いた様子で頷いた。


『だいじょうぶ。げどく、した。』

「解毒、ですか?」


予想外の言葉に驚くラスカに、「そうだ。」とこの家の主人が答える。


「毒を摂ってしまったと言っていた。最初は、その少年の方がぐったりしていたんだが、こっちの方が重症だったらしいな。」


医者を呼ぼうとしたが止められ、ディークリフト達を探して呼んできてほしいと頼まれたようだ。


「あと、これも。渡してくれって。」


受け取った資料をレイがパラパラと捲るのを見て、男性は安堵の息をついた。


「これで、頼まれていたことはやったよ。……全く、心配させやがって。」


ベッドに向けて穏やかな口調で言った後で、気を遣ってか家の奥へと姿を消す。


「流石だね。」


資料に目を落としたまま、レイは感心していた。


「兄さんは、ちゃんと手がかりを残してくれたみたい。」




ーーー




宿にいたサーシュに兄さんを任せ、キットを含めた5人は再び町に出る。レイは、兄さんが残した資料から地図を取り出すと、キットに見せる。一ヶ所だけ、印がされている家を指し示した。


「この家、覚えている?キットと兄さんが最後に行った場所なんだけど。」

「もちろん、覚えている……にゃ?」


首をひねるキットに、レイはゆっくり確認するように話す。


「キットの記憶は、途中で途切れているはずだよ。」

「そういえば、気がついたら、さっきのおじさんの家にいたにゃ。」


ラスカは、『少年の方がぐったりしていた』と、あの家の主人が言っていたことを思い出した。


「この印がされている家の調査をしている時に、キットは眠ってしまっていたんだよ。」

「……にゃっ!」


思い出したのか、小さく声を漏らす。


「確か、あの時……にゃんかいい匂いがしたにゃ。随分と雑草が生えている場所で……気持ちよくて、とろーんと……」

「って、眠っちゃだめですよ!」


本当に眠りそうになるキットの肩を慌てて揺すりながら、ラスカは少年の様子に既視感を持っていた。

前にも、同じような光景を見たことがある。


そう、たしか、初めて会った時ーー


「そういえば、前に薬草で酔っていたことがありましたよね。」

「そうだね。キットは特殊な感覚をもっているから。」


レイ相槌をうち、続ける。


「ただ、今回は薬草じゃなくて、毒草だったみたい。」


兄さんはそれに気がつき、茂みからキットを連れ出した。その時に外套がどこかに引っ掛かり、袖が捲れて、腕に葉で切り傷をつけてしまったらしい。

そこから毒が入ってしまったのだろうということだった。


「一応、応急措置はしたみたいだから、症状は軽減しているはずだよ。」

「にゃ……」

「キット。」


落ち込んでいる少年に、レイが少し大きな声で注意を向ける。項垂れていた彼がびくりと顔を上げたのを確認すると、いつもの静かな声で尋ねた。


「この家で合ってる?」


目的地に到着したようだ。キットがしょんぼりと頷くのに対して、レイは苦笑した。


「別に、誰も責めてないし、怒ってないよ。兄さんと一緒にいたのはキットなんだから、頼りにしてる。」

「……分かったにゃ。」


いくらかしゃんとしたキットは、家の裏手へと続く細い通路を指差した。今は空き家になっているこの家と、隣の家との距離は狭く、人が一人通れる程度だ。


「奥の方だにゃ。」

「壁まで蔓が伸びているな。ーーちょっと待ってろ。」


ディークリフトが一人で進んでいくのを、慌ててキットが追いかけようとする。レイがその腕を掴み、何とか引き止める。


「ちょっと!今行っても危ないよ。」

「でも、ディークリフトにぃは?」

「何か策があるんだよ。」


その間に、ディークリフトは奥まで進んで行く。


「凍てつけ」


たった一言で、右手の指輪が光を放った。



カツ、カツ……


彼が近づくと草花は凍りついていき


カツン、カツン……


通り過ぎた後には氷に閉じ込められた空間が広がった。


一番奥まで進んだところで、くるりと後ろを振り返る。



「ルイ。どれが毒草か視てくれ。」

『はーい』


呼ばれた少女は、慎重に、その氷のトンネルに入る。じっと周囲に目を凝らすと、すぐに青年に手招きした。


『これ!このはなのどく、にぃにといっしょ。』

「この青い花か。」


氷ごと花を折り、持ってきた瓶へ入れる。


「戻るぞ。」

「あれ、そのままで大丈夫なんですか?」


表へ出てきたディークリフトに、ラスカは氷漬けになった通路を指す。


「簡単には溶かされない。それなりに魔力は込めたから、半月はもつ。……これから、じっくり調べないとな。」


カラリと、瓶の中で冷たい音がした。


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