表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LASKA  作者: 朝舞
第五章
51/55

消えた痕跡


「まさか、成果なしとは。」


初日の活動を終えて宿に戻った彼らは、現状に困惑していた。感染者たちは皆亡くなっているか完治しているかで、脅威は既に去った後のようだった。


「しかし、このまま終わって良いのでしょうか。」


兄さんに問いかけられ、最初の発言から瞑していたディークリフトは目を開ける。ややぼんやりとしていて、ここではないどこかを見ているようだった。


「気になることがあるようだな。」


一点を注視しながら言う彼に、「ええ。」と兄さんは頷く。


人々が、何かを隠しているーーそのことに、皆気付いていた。

それは、放っておいていいものではないのだろうという事も。


「何かが、あるはずです。それも、今回の伝染病に少なからず関係している。」

「ああ。」


ゆっくりと、ディークリフトは息を吐く。霞んだ青い瞳に、強い光が見えた。

話をしながらも別の思考をしていたのが、まとまったらしい。


「病原だけははっきりさせておきたい。感染者がいないなら、違う方法で病原を特定するしかないな。」




ーーー




次の日。

兄さんとキットは、昨日訪れた家々を再び巡っていた。


「息苦しいにゃあ……」

「こればかりは仕方ありませんよ。」


うんざりと言う少年に頷きながらも、穏やかな声で答える。感染防止のために、目以外はほとんど露出がない格好をしているのだ。

普段は軽装であるキットには、苦痛だろう。


ただ、獣人特有の耳や尻尾が見えないので、周囲からの奇異の視線はない。


平和ではあるが、人族と獣人族の溝は未だに残っている。例外はあるものの、獣人への差別の風潮は消えていないのだ。


「にーちゃん、また難しいこと考えてるにゃ?」

「貴方のことを考えていたんですよ。」

「わしゃのこと?にゃ、にゃんか、照れるにゃあ……」


嬉しかったのか、跳び跳ねるように前を行くキットを、ほんわかとした気持ちで見る。


「……あ、キット!通りすぎてますよ!」


少年を呼び戻しながら、兄さんは目の前の家の扉を叩いた。


出てきた住民に再び調査の協力を求め、勝手口の方へと向かう。一般的に、生活していく中で出された廃棄物は、そこから棄てられる。二人は、それを収集していた。感染者がいない現状で、その痕跡を見つける為だ。


廃棄物の、表面に堆積している部分を除き、やや古い方を瓶に入れる。


「これでよし、にゃ!」


キットは瓶の封をすると、肩から提げていた鞄の中にしまった。まだ容量には余裕がある。


「今度は私が鞄を持ちましょうか。」

「大丈夫にゃ。これくらい重くにゃいにゃ!」


元気よく答える少年に、兄さんは少し困ったように眉を下げる。


「ええ、そうですが……」


歩くたびにガチャガチャと瓶が音をたてているのを、不安に思いながら聞くのだった。




ーーー




サーシュは一人宿に戻り、単純な作業に勤しんでいた。感染者を三つの分類に分けて、印をつける作業。

治った者、命を落とした者、そして、もうひとつはーー


(サーシュ)

「……うん?」


頭の中に響く声に答えると、珍しく柔らかい口調で尋ねられた。


(もう休まなくてよいのか?)

「うーん……そうだね……」


曖昧に言った後で、ふっと頬を緩める。


「煌、もしかして……気をつかってる?」

(魔力を使いすぎてしもうたからのぅ。怠いじゃろう?)

「うん……眠っていたい、けど……たくさん休むと、余計に……疲れる。」


サーシュは先程まで、この町の墓地で調査を行っていた。遺体に手掛かりが残っていないか調べるためだ。魂を視るルイには劣るものの、彼も魔力を使ってそれに近いことができたので、任されたのだ。


(結局、実行したのは妾だがのぅ。)


呆れたような声が聞こえたが、返す言葉もない。いくら埋葬されている状態とはいえ、遺体を調べる勇気は無かったのだ。

サーシュは説教の気配を察して、首を竦める。


(なにも、墓を掘り返したりはしないのだぞ?いつかの日にディークリフト達にしたように、魔法を使うだけじゃ。お主はもうちいっとしっかりせんか。)

「……努力、します……」


結局、いつもの調子に戻った煌に、欠伸を噛み殺しながら答える。


「……」


印で埋められていく地図を眺めて、サーシュは違和感を感じていた。


ーー何だろう……何か、変だと思ったけど……


じっと見つめてみるものの、瞼がだんだんと重くなってくる。魔力を消耗した倦怠感は、思ったより大きかったようだ。


ーーやっぱり、もう少し……眠っておこう……


作業を中断し、サーシュはそのまま眠りに落ちた。




ーーー




『なにも、みえないよー』


目を擦りながら、ルイは力なく首を振った。


「今日は、このへんにしましょう。」

『うん……』

「……その様子じゃ、歩きながら眠ってしまいそうですね。」


どこかおぼつかない足取りの少女を見て、ラスカは背中を向けてしゃがむ。


『……おんぶ、するの?』

「嫌ですか?抱き抱えてもいいですけど……」

『おんぶにする』


さすがに抱き抱えられるのは恥ずかしかったのか、大人しく身を任せるルイを、ラスカは軽々と背負う。

少女の柔らかな髪が首筋に当たり、少しくすぐったかった。

落ち着かないのか、最初はもぞもぞと動いていたが、それもすぐに治まる。


眠ったのかな、と、ラスカは背中の温もりに意識を向ける。ルイ曰く、魂を視るという使徒特有の感覚は、人の姿のまま使うととても疲れるらしい。


ーーまだ早いけど……


穏やかな午後の日差しを尻目に、宿へ戻ろうとしていると、通りの反対側の方にディークリフトとレイが見えた。

向こうの方も気がついたようで、二人の元へと近づいて来る。


「何か分かったか。」

『……なにも、みえなかったの』


ディークリフトの声に、ルイが顔を上げて答える。突然少女が動き一瞬動揺したが、ラスカは穏やかな声で尋ねた。


「ルイ、起きてたんですか?」

『うん』


調査が進展しないことを気にしているようで、ルイは珍しく項垂れている。


『なにか、おしえてくれるひと、いないかなぁ……』


そう言って、行き交う人々を眺める。


感染者や、その家族は、何かを隠している。

おそらく、重要な手がかりをーー


「っ……ととっ!ルイ?どうしたんですか?」


突然上体を起こした少女を危うく落としそうになり、ラスカはたたらを踏んだ。ルイは反応を返さず、ただじっと何かを見つめている。


『あっち!』

「え?」

『ついていくの』


ラスカの背中からするりと降りると、少女は興奮ぎみに小さな路地を指差す。レイがその手をとり、なだめるように言った。


「ルイ、落ち着いて。何を追いかけるの?」

『おにぃちゃん』


一瞬少年の方を見て答えた後、再びその路地に目を向ける。


『しろいおにぃちゃんなの』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ