心機一転
「これでランク2に昇格し、星1つです。次回からはお気をつけ下さいね。」
「はい。ありがとうございました。」
ギルドの係員にお礼を言い、ラスカは恥ずかしそうな笑みを見せた。
ヴァルクからの依頼は達成できたのだが、彼からサインをもらい忘れてしまっていた為、無効となってしまったのだ。療養していた間にランク2の期限が切れ、一定期間依頼を受けていなかったラスカはランク1に降格していた。
もう一つ、ここ数ヵ月で変わった事がある。
「おめでとう……ラスカ。」
ゆるりと微笑みながら言ったのは、サーシュ。草原の民を訪ねたときに出会った、空姫と呼ばれていたあの人だ。魔法つかいがよく身に付けるローブがまだ新しいところを見ると、新米であることがすぐに分かる。
彼は王都に訪れ、このギルドで冒険者として活動していた。
「……これで、一緒……活動、できるね。」
「はい。よろしくお願いします。」
「……こちらこそ……よろしく。」
二人が、新たな決意を胸に握手を交わしあっていた時、少年の声が近づいてくる。
「ラスカ、サーシュさん。」
「……レイ?仕事ですか?」
別行動している時にわざわざ探しに来るときは、たいていそうだ。レイは頷いて肯定する。
「うん、依頼だよ。ついでに、拠点の移動をすることになったんだ。」
☆★☆★
「ああっ、ラスカさんだぁ!」
「にゃっ?!マスター、揺らすと花粉が……は、はくしゅんっ!」
「ご無沙汰しております。」
久しぶりにギルドの『裏』を訪れたラスカを出迎えたのは、以前と変わらない賑やかな声と、僅かな花の香りだった。
「こんにちは。ーー綺麗な花ですね。」
ゴートが意外と細やかにそれを活けているのを眺めていると、マスターが代わりに答える。
「花祭りの時にもらったのがぁ、ちょっと萎れてきちゃったからねぇ。こうして活け直しているんだよぉ。」
そして、その花を片手になぜかくるくると回転しながら接近してくる。
「でもぉ、僕はぁ、ラスカさんという花がぁ、また元気な姿を見せてくれただけでぇ、とっても嬉しいよぉ!」
「は、はい……?」
「はいはい、早速本題に入ってね?」
おそらくポーズか何かを決めようとしたのだろうが、レイが割り込みあっけなく流されていた。
だが、彼は落ち込むということを知らないらしい。
「じゃあ、とりあえず現状の説明からするねぇ。」
マスターによって集められた、特殊パーティー。彼らは、ギルドで達成出来なかった、もしくは一般人には対応できない依頼を請け負う。
しかし、肝心の依頼はぱたりと途絶え、今は日和亭という料理店で働いていた。
「それだけぇ、平和になったって事だねぇ。」
マスターはほのぼのと頷きながら話す。この場にいるのはメンバー達と、彼らと協力関係にあるディークリフト達。サーシュはそこにはいない。
「もうこの国ではぁ、危険そうな魔物の情報も無いんだよねぇ。」
マスター達に力を貸す代わりに、魔物の情報をもらう。その条件で協力関係にあるディークリフト達は、ここを拠点として活動していた。
「そこで、拠点の移動の案が出たのです。」
話を取り次ぎ、兄さんが世界地図を広げてみせる。今いるアレスティア王国の近隣の国を指差した。
「ここが良いかと。魔道の王国セレイーン。魔法だけでなく、魔道具も発展しているところです。首都は、水路が張り巡らされていることから『水の都』とも呼ばれております。」
ドラクレイオスが創ったギルドは世界各地に広がっており、この水の都にもあるという。
「地方にも支部があるくらいだからねぇ。けっこうすごいんだよぉ、ドラクおじさんはぁ。」
「それとぉ……」と、マスターは何かの書類をごそごそと取り出し、皆に見せた。
「セレイーンに行く途中のぉ、ギルド支部からの依頼だよぉ。ディークリフト達にとってはぁ、この国での最後の依頼だねぇ。」
『伝染病の原因究明』
依頼書の一際大きく書かれた文字を見て、ディークリフトは全く表情を変えずにマスターに視線を移す。
「専門外だろう。」
「あはは……さすがに僕もそう思ったんだけどねぇ。」
視線から逃れるようにして、マスターはおとなしく話を聞いている少女に目を向けた。
「ルイちゃんだったらぁ、何とか出来そうな気がするんだよねぇ。」
『?』
突然話に自分の名が出てきて、少女はきょとんとしている。
「原因だけじゃなくてぇ、治療法も分からないみたいなんだよねぇ。ルイちゃんってぇ、治癒とかは得意みたいだからぁ、その力だけでも借りたいなぁと思ってぇ?」
この青年は呑気そうでいて、意外ときちんと考えていることもある。
ディークリフトはぱらぱらと資料に目を通した後、ふぅと息を吐いた。
「伝染病か。確かに、驚異となるうちに潰しておきたい。……ルイ、できるか。」
『うん!』
ーーー
「行ってきます、ドラク師匠。」
「気をつけるんですぞ。」
ギルドマスターは愛弟子に目を細める。まるで我が子に向けるまなざしだった。
「第一に、身体に気を付ける事。無茶はいけませんぞ。」
「はい。」
ラスカが謎の爆発により意識不明になっていた事を知ってから、彼は何度も同じような事を言っていた。命に別状は無かったとはいえ、あちこちの筋や腱をズタズタに痛めてしまったのだから仕方がないだろう。
状況から見ると、彼女が身体強化という魔法の一種を使用した可能性が高かった。ラスカの受けたダメージはその反動。
しかし、彼女の魔力は相変わらず少なく、あの威力を出すことは不可能だという。
結局、爆発の原因は分からないままだ。
別れの挨拶を済ませると、ラスカは馬車に乗り王都を発った。
今回、マスターとゴートは王都のギルドに残っている。馬車はマスターが所有しているものらしく、兄さんとキット、ディークリフト達四人、それからサーシュがそれに乗っていた。
表面的には、ディークリフト達と共に行動しているのだ。
サーシュは特殊パーティーのメンバー達の事を知らなかったが、深く立ち入ろうともしなかった。
「だが、本当についてくるとはな。」
「……だめ、だった……?」
不安そうに顔色を伺うサーシュに、ディークリフトは肩をすくめる。
「……そういう訳ではないが。この依頼では俺達の出番はないと思うぞ。」
サーシュはディークリフトから魔法を学びたいとついてきているのだ。
「拠点……移動する、聞いたから……」
「ああ、そういう意味か。」
どうやら、水の都まで一緒についていくつもりらしかった。




