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LASKA  作者: 朝舞
第四章 不思議な出会いー後編ー
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ヴァルクとアンジェリカ

「あぁ~、間に合わなかった……☆」


遠くまで見渡してみても、既に馬車の姿は見えなくなっていた。荷物を降ろしてへたりこむヴァルクの周りを、光の尾を引きながら妖精が回る。


『ゴメン、ゴメン』

「アンちゃんのせいじゃないよ☆気にしない、気にしない☆」


微笑する青年は、たしかに、それほど気落ちしていないようだ。


「伯爵のおじさんは、アンちゃんと別れるのが寂しかったんだよ☆あんなに……その、えっと……大切に、想っているからね☆」


おじさんが涙ぐみながら駄々をこねる光景を思いだし、ヴァルクは微妙な表情を浮かべる。


あれだけは、見ない方が良かったのかもしれない。


あの時、ヴァルクは妖精から借りていた力を消し、すぐに視力を切った。魔力を通じて『視た』二人は、美しかったのだが……。


「『見る』のと『視る』のとでは、時には全く印象が違うんだってことが学べたよ☆アンちゃんも、嫌がっているように見えたけど、照れ隠しだったんだって分かったし☆」


からかうように言うと、妖精は赤くなってぷいっとそっぽを向いてしまった。




☆★☆★




急ぐ必要もないから、と、ヴァルクはのんびりと歩いて移動していた。


『アトスコシ、アトスコシ』


正確に表現するならば、今は登っていた。


そこは、小高い山の中。最初は道らしい所を進んでいたのだが、どこを間違えたのか道無き道を進むはめになっている。

目的地の方向は何となく分かるので、強行突破しているのだ。


「っよいしょ……ふぅ☆」


ちょっとした崖を登りきり、仰向けになって寝転がる。じめじめとした地面が、火照った身体に心地良かった。


「着いたみたいだねー☆」


仰いだ空が少し開けているのを見て、ヴァルクは呟く。起き上がって周囲を確認すると、質素な墓を見つけた。


「前領主と、もう一人のアンちゃんの眠る場所だよ☆」


視てみたところ、偽アンジェリカの魂は残っていなかった。全く未練はなかったようだ。


「手掛かりがあると思ったんだけどね☆」


ここまで綺麗さっぱり無いと、拍子抜けしてしまう。


『テガカリ?テガカリ?』

「ソフィーさんの事だよ☆彼女は、アンちゃんは別荘で亡くなったと聞いたって言っていたんだ☆伯爵のおじちゃんでさえ真実を知らなかったのに。」


言い聞かせる、というよりも確かめるように、一人で話している。


「そもそも、アンちゃんとすり代わって犯罪を犯すなんて、簡単にできることではないよね?変装したって、身近にいる屋敷の者にばれるでしょ?まぁ、ほとんど辞めさせられたって聞いたけど。そこは前領主も関わっているだろうね。」


いつのまにか、明るい雰囲気が真剣なものへと変わっているが、ヴァルクはつらつらと続ける。


「でも、前領主も偽物のアンちゃんも亡くなった。二人が共謀した事なら、真実を知る者はいないはずなのに、ソフィーさんは誰から話を聞いたんだろう?」


落ち着かない様子で歩き回っていた彼は、ふと足を止めて妖精に目を向けた。


『?』

「つまりね、ソフィーさんは、アンちゃんが別荘にいた形跡を消すために、()()に利用されたと思うんだ。『本物』がいた証拠が無くなれば、『偽物』は『本物』になれるから。」


そして、真実は闇に消える。


しかし、それは失敗に終わった。ヴァルクとラスカの話を聞いたソフィーは矛盾に気がつき、悟ってしまった。


自分は、犯罪の証拠隠滅をさせられているのではないか、と。


それがきっかけで、『絶望』に伝染してしまったーーー


「まぁ、所詮は推測だけどね☆」


とにかく、ソフィーの絶望の原因を解決しなければならない。浄化したので彼女の魂は残っていないのだが、ヴァルクは、遺志は最後まで引き継ぐようにしている。


死してなお残る遺志は、どれも強い思いなのだ。

視てきたからこそ分かる。


『最期にあれが食べたかった』という遺志には、その料理を供え、

『あの人に会いたかった』という遺志には、相手を訪ねて、亡き人がどれだけ慕っていたかを伝えた。


実にさまざまある遺志を継いでは、代わりに果たしてきた。そうして初めて、魂は救われると思っている。


「行こうか、アンちゃん☆やるべきことが、たくさんあるんだ☆」


負の感情の暴走があったあの場所で、魂達と約束したことが、引き継いだ遺志がかなりある。


ーー彼らの代わりに、やり遂げないとね。


ヴァルクにとって、これは義務でもなんでもない。聖職者でもないのに、なぜここまで魂のことを気にするのか、と、今まで何度も言われてきた。

それこそ、亡き者からも。






べつに、大したことではない。

普通の人には視えない彼らを、ただ救いたいと思っただけだ。



生まれながら盲目の彼は、捨て子だった。

とある老夫婦が見つけてくれたからーー見捨てずに、普通より多くの手間と愛情をかけて育ててくれたから、生きてこれた。


両親が与えてくれたこと全てが、ヴァルクにとっての『世界』だった。


そしてアンジェリカは、その『世界』をより広く、美しく彩ってくれた。



『ヴァルクは、足音で誰なのか分かるの?すごいねー!ねぇ、私の足音はどんな音なの?』


『赤いもの?えっと、りんごは赤いよ。あとは……うーん……夕日!太陽はね、沈む前に赤くなるの。昼間?昼間は、明るすぎて見えないの。目が痛くなっちゃうから見ちゃダメなんだよ。』



そんな幼い頃の思い出を、しみじみと思い出す。


子供だったヴァルクは、いつしか『世界』を見たいと思うようになった。

魔法の存在を知った時、これなら何とかできるのではないかと考えてーー魔力を使って『視る』事ができるようになった。


『世界』を与えてくれた人達がいたから。

『世界』を広げてくれた人がいたから。


そして、今では『見る』事もできる。


「僕はなんて幸せ者なんだろうね。」

『?……シアワセ、シアワセ!』


妖精は不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに嬉しそうに飛び回っていた。



ーー僕の視る『世界』が、美しいものであってほしい。悲しい魂を視るのはつらい。それだけなんだ。



ヴァルクはもう一度、墓石に目を向けた。


小さく、簡素なそれが、両親のものと重なる。旅立ちの前に立ち寄った、大切な人達の眠る場所。



ーー父さん、母さん……いってきます☆



記憶の中の老夫婦に、もう一度告げる。最後の最後でついいつもの調子に戻ってしまったが、しんみりとした雰囲気はがらじゃない。



『ヴァルク、ヴァルク』


立ち止まったままの青年を、小さな妖精が呼ぶ。


「はいはい、今行くよー☆」


長くなるであろう旅路を想い、ヴァルクは一歩踏み出した。


「あーーー」




…………転んだ。

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