表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LASKA  作者: 朝舞
第四章 不思議な出会いー後編ー
47/55

深層の少女


★★★★★


天も地も、音も光も、生命も死さえも。

なにも感じる事のできない、それは、どこか深い場所。


押し潰されるような重さと、ただ漂う不安定さを合わせ持った、海の底を思わせる場所。


彼女の意識は、そこに沈んでいた。ただぼんやりと有るだけ。



そこに


ゆらり、と、波紋は突然現れた。



その波紋と共に光が近づいてくることに、彼女はようやく気がつく。どんどん大きくなる輝きは、この場所がいかに暗かったのかを知らしめる。露になったのは、長い長い鎖のようなものに絡みつかれている自分の姿。


彼女は、自分の姿をさらけ出した光を、ただ見つめる。その中心には、翼をもった人の姿があった。



ーー美しい


ーーあの御方も素晴らしく美しいと聞く。……このような姿をしているのだろうか。



そんなことを考えていると、巻き付く鎖で意識が更に重くなる。



ーー……あの御方、とは、誰だっただろう。




翼をはためかせ、すぐ目の前に、輝く人は降り立った。

透き通る白い肌に、金糸のような髪。印象的な碧い瞳。

ただ、波打つ水面に映されているように、はっきりとは見えない。


霞んだ視界では、見ることができない。


『お前は何者だ』


朧気な意識にも、その声は届いた。届いてはいるのだが、答えようにも思考が働かない。



ーー私は……何者でも、ない



なんとか答える間にも、鎖はさらに重くのし掛かってくる。


『ーーを、ーーーよう、し……るのか』


押し潰されて、聞き取れない。


『殺そうとしているのか』


意識が完全に沈む直前、その言葉だけははっきりと響き、彼女の思考を引き戻した。



ーー殺さない。誰も殺さない、殺させないと、彼と……



『彼』。

その言葉が出てきたとたん、ずるずると鎖が伸びて、一瞬だけ浮上していた彼女の意識を淵に落とした。




★★★★★




ディークリフトは、眠り続けるラスカをただ見ていた。ルイは命に別状はないと言っていたが、あれから朝になり、夜が訪れ、それが三回繰り返されても彼女の意識は戻らなかった。淡々と、生命活動を繰り返しているだけ。


そういえば、聖域に落ちてきた時もこうだった、とディークリフトは回想する。あの時も数日間目を覚まさなかった。今回で二度目のはずなのに、なぜ時間が長く感じられるのかが分からなかった。


最初にラスカが目を覚ました時の事を、今でもディークリフトは覚えている。




あの日、彼女は一瞬戸惑うような様子を見せたが、驚くほど冷静だった。じっとこちらを見るその大きな目に、見定められている、とディークリフトは感じた。

彼女は、自分の置かれた状況と立場を、すぐに分析しようとしていたのだ。


騒いだり、弱さを見せたりはしない。


面白い奴だ、と思った。


それから少女は居候することになり、ディークリフトはしばらく観察することにした。


一見、普通の少女なのだが、その身のこなしは細かな体重移動に至るまで無駄がない。素性が分からないということもあり、念のため数日は見張っていたのだが、彼女は敏感なようだった。最初に目覚めて以来彼女の寝顔は見たことがない。何かの気配を感じると、すぐに起きるのだ。




『食事ができましたよ』


ディークリフトの部屋まで、彼女がそう伝えに来た事があった。


『持ってきてくれ』


もともと、食事は自室で摂っていた。それに対し、彼女は一緒に食べないのか尋ねてきた。


『なぜだ』


食事を共にする理由が分からず聞き返すと、少女はこう答えた。


『ディークリフトさんは、部屋にいる事が多いので……食事くらいは一緒にしたいです。』


ディークリフトは屋敷にいる間、ほとんど自室で魔法の研究を行っていた。食事まで自室でとなると、他者との関わりは少ないどころか無いに等しい。


『それに、食事を持ってきても、ディークリフトさんはいつ食べるのか分からないですから。料理は、作りたてがおいしいですよ。』


その時の彼女の言葉に、自分が観察していたはずが、こちらも観られていたようだと気がついた。


部屋に食事を持って来ても、ディークリフトは作業をしている事が多く、没頭しているうちに冷めたり、時には食べそこねたりしていた。それを見抜かれていたのだ。


『分かった。ダイニングに準備してくれ。』


それから皆で食事を共にするようになり、互いに力を高め合うようにもなった。




『かっこいいと、おもいました。』

『すごく綺麗でした!』


彼が巷で最強と噂されていた魔道士だと知った時も。

人形ドールを喰べるのを目撃した時も。

彼女は無垢なのか、彼を恐れ、距離をとろうとすることはなかった。


かえって、その距離は縮まっていった気がする。




そして今は。


ラスカは再び長い眠りについている。


沈黙の中、部屋のドアがノックされる音が響いた。


「ディーク?」

『はいっていいー?』


どこかへ出掛けていたレイとルイが帰ってきたようだ。


「ああ。」


二人が入室するのを確認すると、ディークリフトは視線を少女に戻す。


「……おい。」


もう何度目かになる、その言葉。


「……起きろ。」


ぴくりと、初めて反応を見せた後、少女はゆっくり瞼を開いた。大きな瞳は側にいたディークリフトを最初に映す。あの時と同じ、冷静すぎる瞳。

まだ血色の悪い唇が、動く。


「……誰ですか。」


ふうっと息を吐き、まどろむように目を閉じる。再び開いた目には、いつもの輝きが少し戻っていた。


「……う……ん?ディークリフトさん?」

「…………脅かせるな、馬鹿。」


ディークリフトは詰まりかけていた息を吐き、ベッドにもたれかかるようにうつ伏せになる。


「あれ……?いきなり、暴言を……吐かれたんですけど……?」

「うるさい。俺は眠い。」

「えぇ~……」


彼の言動に納得いかないラスカもまた、一つ欠伸をした。レイが、すでに寝息をたて始めているディークリフトにも布団を掛けながら、穏やかに微笑む。


「寝ずに看ていたから、疲れたのかも。ラスカももう少し休んでていいよ?」

「……ありがとう。まだ……少し……眠い………」


ふにゃふにゃと呟いた彼女は、すぐに眠りに誘われる。


それを確認して、レイは微笑みを崩して固い表情になった。






「……ルイ、見た?」

『うん』


『……誰ですか。』そう尋ねた時の、あの雰囲気。

眠っているラスカの意識の深層で視た、『彼女』と同じ。


ラスカが記憶を無くす前の、『彼女』だった。


「ラスカは……彼女の記憶は、あの鎖で封じられているように見えた。」


ラスカは目覚めても、本当の彼女の意識と記憶は眠っている。


そして、気になる事がもう一つ。


「確か、ヴァルクさんがオレ達を魔神だと思ったのは、魂……本質を視ていたからだ。」




それならば、機械人形と表現された彼女は

一体、何者なのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ