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LASKA  作者: 朝舞
第四章 不思議な出会いー後編ー
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もう一つの別れ


「うわぁ……☆」


感嘆の声が聞こえ、ラスカはそちらに意識を向ける。夜は冷えるから、とレイが火を起こしたところを、ヴァルクがじぃっと見つめていた。琥珀の瞳が炎を映して、鮮やかに彩られている。


「ヴァルクさんも、旅をしていたんでしょ?焚き火は珍しくないと思うんだけど。」

「あ、僕、生れつき目が見えないらしいんだよね☆だから、初めて見たんだよ☆」

「……え?」


言葉は聞き取れていたが、思わずラスカは聞き返してしまった。


「目が見えないんですか?」


見えないどころか、暗い場所でも障害物を認識しているようだった。確かに、よく転んでいたが……


「あれはね、魔力を薄ーく放出させることで、物のある場所を把握していたんだよ☆」


草原の民のところにいた聖獣も、似たような方法で侵入者を認識していたことを思い出した。超音波のようなものだろうか、と、ラスカは蝙蝠やイルカを連想する。


「最初は難しかったんだけど、精度を上げるうちに魂まで認識出来るようになったみたいなんだよね☆そのおかげで、魔法も使えるようになったんだよ☆」


人は、視覚から大部分の情報を得ている。それが無かったヴァルクは、魔法を発動させるために必要な想像力が乏しかった。魔力を通して物の性質を認識出来るようになったことでそれを補い、魔法を扱えるようになったという。


「うーん……私も、魔法が扱えないんですけど、やっぱり想像力が足りないんでしょうか?」

「初級の魔法から練習するか、それも難しいなら基礎から見直す必要があるかもね☆『火の種』とか『一滴の水』とか☆」

「なんですか、それ?」


聞いたことのない言葉に首を傾げるラスカに、ヴァルクは一瞬固まった後、可笑しそうに笑った。


「何って、魔力を具現化する練習☆これができないうちにいきなり魔法の練習をするなんて、数の分からない子供が計算を覚えようとするようなものだよ☆」


さらに、ラスカが練習していた初級魔法『ファイアボール』なども、詠唱がかなり短縮されていたらしく、一般的には「燃え盛る火の玉、我が前に出で放て、ファイアボール」らしい。


予想以上に恥ずかしい台詞だった。


詠唱はイメージしやすくする為のもので、何度も使って慣れていたら短縮できる場合もあるということだった。ディークリフトのように無詠唱できるのは、稀だという。


「短縮とか無詠唱は、それこそ複雑な計算を暗算しちゃうようなものだからね☆」

「えぇー……」


ふと見ると、不機嫌そうな様子のディークリフトと目があった。ヴァルクはどこか困ったように笑う。


「あー、ディークリフトのは凄すぎて、どうしても初心者に教えるには向かないのかも☆」

「……」


フォローしたつもりだったようだが、彼はふいっと顔を背けてしまっていた。




☆★☆★




「……火の種!」


ラスカは集中する為に瞑っていた目を開け、指の先を見る。


「うぅっ……出来ません。」

『だいじょーぶ、だいじょーぶ』


項垂れる彼女の頭を撫でながら、ルイが慰めている。


ヴァルクから教えてもらった基礎を何度も練習しているのだが、「火の種」も、「一滴の水」も、「小さな芽」も、だめだった。

あまりの才能のなさに落ち込んでしまう。


「魔法に拘る必要はないと思うが。」


退屈そうに様子を見ていたディークリフトが口を挟む。


「イメージが重要なのは魔法だけでもない。」


彼の目線と、くいっと僅かに顎先を上げる動きで、ラスカは自分が背負っている剣を示しているのだと気がつく。


ーー私の場合は、これなんだろう


そう思うと、気持ちが軽くなった。結果的に、彼にも励まされたようだ。


その時だった。


『あ!』


弾かれたようにしてルイが立ちあがり、すっかり夜に呑み込まれた森の中を見つめる。


『みつけた!』


これまで浄化してきた中で、まだ遭遇していないものがあった。

暴走による、最後の犠牲者。

『失望』に伝染してしまった魂。


ソフィーの、遺志だ。


ラスカは知らず知らず、唇を噛んでいた。

『失望』に伝染した彼女が助からなかった事は、ルイから聞いていた。死へ、引き寄せられてしまったのだ。


ただ、何に失望し、その感情を引き出されてしまったのかは分からなかった。


ーーソフィーさん……


彼女を想い、ラスカはヴァルクの側を飛ぶ妖精をちらりと見る。アンジェリカの遺志は、救われた。


ソフィーの想いも、受け止めなくてはならない。


『らすか!うえ!』


そんなラスカの強い想いに引き寄せられたのか、黒い何かが真っ直ぐに彼女をめがけて迫ってきていた。

翼らしきものが生えているのは分かるが、はっきりと形は認識出来ない。ラスカの視力の問題ではなく、まだ形が出来てさえいない人形ドールなのだ。


武器を構える。


普段は本能的に動かしているだけの剣と身体に、ラスカはイメージを流し込んだ。


無駄な力を削ぎ落とし、剣の一点に集中する。得物と肉体が一つになり、身体が軽くなるような感覚。


剣を振る。


筋力と遠心力だけではなく、全体を収縮することで生み出される瞬間的な速さと、標的に当たって初めて発揮する、全力を込めた爆発的な力が加わり、


それが真っ直ぐに、人形ドールの核へーーー




☆★☆★




ーーー!




爆発。


その現象は、それ以外にどう言い表すことが出来ただろう。


「ごほっ、ごほ…っ、……っラスカ!」


とっさに防御壁を展開したレイは、吹き上がった土埃にむせ返りながら叫んだ。ディークリフトが少女のいた辺りへ駆けながら、風の魔法を放ち煙幕を掻き消す。


「……っおい!」


地面に横たわるその姿を見つけ声を上げるが、全く反応はなかった。ルイが素早く手をかざし、ラスカの身体が治癒の光に包まれる。


ーー何が起きた……?


ヴァルクがおろおろとしているのを横目で見ながら、レイは思考する。ラスカの周りにも防御壁をつくった。自分がつくったものだからこそ、それが壊れる瞬間も分かった。


内側から崩壊したことが。

彼女を中心に、爆発が起こったことが。


「……一度、聖域うちに戻る。レイはヴァルクを。」


光が消えてもなお動かないラスカを抱き抱え、ディークリフトは短くそう指示するとゲートを開く。

今まで人前では聖域への扉を開かなかった彼のその行動に、レイは驚きを隠せない。


「……分かった。」


その返事が彼に聞こえていたかは分からない。ルイと共にすでに姿を消した、彼のいた空間を見つめていたレイの頬に、ポタリと冷たい物が落ちた。


ーー雪……


ぶるりと震える。

言い知れぬ不安が、レイの身体中を冷たく駆け巡った。





人形ドールは、跡形もなく消えていた。



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