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LASKA  作者: 朝舞
第四章 不思議な出会いー後編ー
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新たな想い


「魂は具現化することがあるからね。」


レイの言葉に、ラスカは以前に聞いた話を思い出した。

負の感情に染められた、黒い魂は人形ドールに。清らかな白い魂もまた、形を成す。


『ようせいに、なったみたい』


掌に収まるほどの小さな女の子。それが元気よく飛び回っているのを、ヴァルクは嬉しそうにみている。


「懐かしいな☆アンちゃんは、いつも明るくて前向きで、僕の憧れだったんだよね☆またこうして会えるなんてね☆」

「大切な人だったんですね。」


それはヴァルクの言動からすでに分かっていることだったが、ラスカは改めて感じた。


「初恋の人だからね☆僕の人生の中で、唯一の☆」

「…………ヴァルクさんってさ、思いが真っ直ぐだとは思ってたけど……」


レイが居心地が悪そうに頬を掻く。


「……そこまでストレートだと聞いてる方が恥ずかしい。」

「え?」


見ると、妖精も両手で頬を抑えている。照れているようだ。


「そんな反応されると……僕もつられちゃうよ☆」


火照ったのか、頬が少し赤くなっていた。小さな妖精はそんな青年の目の前に来ると、そっと上目で見る。


『ソバ、イル、イイ?イイ?』


鈴の転がるような声はルイとよく似ていたが、言葉はかたことだった。


「もちろん☆僕もアンちゃんと一緒にいたいな☆」

『セイリツ、セイリツ』


女の子はくるくると嬉しそうに回る。その小さな額に、ぽうっと魔方陣のような紋様が浮かび上がった。


「主従の契約が結ばれたみたいだよ。」

「…………え?!」


本人も気がつかないうちに、そんな取引が完了していたらしい。


驚いた様子で妖精を見つめたあと、彼女の頭を指先で撫でながら、気恥ずかしげにはにかむ。


「えっと、ありがとう、アンちゃん☆僕で良かったの?」


こくりと頷き、妖精はすりすりとヴァルクに頬ずりした。


従魔契約。

知識として、ラスカも聞いたことはある。


「妖精……ということは、魔法とか使うんですか?」

『デキル、デキル』


得意気に胸をはり、彼女はくるりと回ると高らかに詠唱をしてみせた。


『テラス、ヒカリ、ウツス』


……


一見、なんの変化も無かった。ラスカはディークリフトの反応を見てみるが、魔法を得意とする彼も首をひねっている。






「?!」


ただ一人、ビクッと身体を跳ねさせた青年に、ラスカは思わずどきりとした。


「ヴァルクさん?」


声をかけると、彼は目を瞬かせ、ゆっくりと開く。常に細い目はやがて見開かれ、目の前に立つラスカに焦点が合った。その様子にホッとすると同時に、初めてはっきりと見えた彼の琥珀色の瞳に、目を奪われてしまう。


「大丈夫ですか?」


ラスカは青年を気遣いながらも、一歩引いて神秘の瞳から距離をとる。


「……これ、は……えっと…………見えてる?」


一呼吸の間を置いて、ようやくそんな言葉を絞り出した。

どこか夢うつつなヴァルクの顔を、妖精が覗きこむ。彼は恐る恐る彼女を掌に乗せ、震える声で問いかける。


「……アン、ちゃん?君が……」


こくこくと頷く女の子は、笑顔で青年の頬に抱きついてキスをした。彼の頬を、温かな雫が零れ落ちる。


「……っ、ありがとう……!」


泣きながら幸せそうに笑う青年に、妖精はその涙を拭うように、もう一度キスを贈ったのだった。




☆★☆




「ちょっと、休憩……☆」

『おつかれさまー』


へなへなと座り込む青年に、ルイが労いの言葉をかける。一行は、暴走の終息を目指して奔走し続けていた。

暴走は、負の感情を散らし、浄化を行えば収まる。


ヴァルクが契約した妖精は光の属性で、ルイと同じように浄化の力を持っていたので、一緒に作業を行っていた。


通常、浄化の練習は、弱い霊の徐霊から少しずつ難易度を上げるのが基本だという。環境が危険な為、実力が伴わないと身を滅ぼしかねないからだ。ヴァルクの場合、ルイと一緒ならその心配はないだろうと、いきなり実践をさせられていた。


「少し休もうか。ここら辺はほとんど落ち着いたみたいだしね。」


そう言い、レイもヴァルクの隣に座る。いつもディークリフトに付き従っている彼がこういった行動をとる時、大抵何かしらの意図がある。


「ーー暴走の原因は、アンジェリカさんの死が関係していたみたい。」


少し落ち着いた頃合いを見計らって、案の定、レイはそう切り出した。


「暴走が起こる前……ここには、自殺の名所、あるいは事故の多発地があったみたいなんだ。たぶん、最初は一つの死だったんだけど、浮かばれなかった魂がこの地に留まって、たくさんの人が引き寄せられてしまったんだと思う。それで、良くない感情が満ちている状態だった。」


ただ、それだけでは暴走は起こらない。それぞれの感情が集まり、嵐となるきっかけが必ずある。


「そのきっかけが、アンジェリカさんの死なんだよ。一際強い感情ーー意志が、遺志となって嵐を巻き起こした。」




ーーー




彼女は体調を崩しあの別荘で療養していたが、突然兵士たちがその身を拘束しに来た。領主と『もう一人の』アンジェリカが罪に問われ、姿を眩ましていた時期のことだ。彼女は兵士達の様子から、未来はほとんど残されていない……最期は近いのだろう、と直感した。


足の不自由な彼女は逃げるのに足手まといになるし、いずれは捕まる。だから館に一人立て籠り、使用人達を逃がした。限られた時間で、アンジェリカは『守る』ことを選んだ。


舘全体に作用する防御の魔方陣を自らの血で発動させ、兵士が放った火で館が消失することを防いだ。それは同時に、少しだけ先にあった最期を引き寄せることとなった。大量の失血によるものか、煙に巻かれたからか、どちらにせよ死は間近に迫っていた。


その時、アンジェリカは何を感じていたか。


使用人達を、舘を、守りたいと思っていた。

兵士たちが運んできた死に、恐怖を抱いていた。

覚えのない罪と、その状況を覆せない現実にーー言葉で表現しようのない、深い深い悲しみがあった。


ーーそれは、私じゃないわ。

ーーアンジェリカは、私よ。彼女は私じゃないわ。

ーー私は、ここにいるのよ。誰か、気づいて。

ーー誰か、私をーーーー


ーーーーたすけて




ーーー




「……っはぁ……」


気付かないうちに喉の奥で詰まっていた息を、ラスカは一度に吐き出した。ようやく見えたアンジェリカの最期に、苦しみを感じずにはいられない。まるで、喉が絞められるようなーー。それだけではなく、キリキリと爪を立てて絞めつけられるように『痛い』のだ。


もう一度浅く呼吸をする彼女の顔を、あの妖精がそっと見上げる。それに気がついたラスカと目が合うと、妖精はにこっと笑いかけた。


ーーアンジェリカさんの魂が、浄化されてこの小さな妖精となったと言うのなら……


ふわりと身を翻し、ヴァルクの周りを楽しそうに飛び回る彼女をを見て、ラスカは、彼女の魂は本当に救われたのだと思った。


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