疼く違和感
「と言っても、処刑された訳ではない。」
言葉を失う三人に、伯爵はそう否定して続ける。
「裁判の日まで留まられる予定だった牢にて、亡くなられた。ほとんど御遺体の残らない程の爆発があったと聞いている。建物もほぼ全壊したようだ。」
爆発は内部で起こったものだった。自害かと思われたが、もちろん危険因子は全て排除しており、二人はそれほどの威力の魔法も使えない。
しかし、厳重な警備がされていたのも事実で、外部の者の仕業とも思えなかった。
「あの事件は、不可解な事がいくつかあったが、そのなかでも一番の謎は……」
一層厳しい表情になり声を潜める伯爵に、ラスカも聞きのがさないように集中して耳を傾ける。
「そもそもアンジェリカが……あんな罪を犯すはずがないのだッ!!」
「ふぇっ?!」
「話は終わったようだな。帰るぞ。」
『はーい』
伯爵の暴走が再び始まる前に、三人はさっさと部屋を後にした。
ーーー
ゲートを通って聖域の屋敷に戻り、留守番していたレイと久々に四人で夕食をとった。翌日、ラスカとルイは再びあの辺境の地を訪れたが、ディークリフトは「面倒くさい」と屋敷に残っていた。
ーーまぁ、片道でも、あの長い馬車の旅路をついてきてくれたもの。
引きこもりがちなディークリフトの事を考えれば、それだけでも珍しいことだったのだと今更ながら気がつく。
移動中常にあった他者の目がない今、屋敷に気兼ねなく戻れるようになったので、これ以上の彼の同行はないだろう。
その日は一日かけてアンジェリカについての話を聞いて回り、集めた情報を集めることにした。
彼女は聡明で、研究熱心な人物として認識されているようだった。数年前に体調を崩して別荘に療養に行った時も、屋敷内にあった研究中の魔道具を全て持って行ったほどだという。足が不自由だったようだが、義足も作ってしまったらしい。
そのような話も聞きながら、必要な情報……捕まった彼女とその後の出来事をまとめていく。
『アンジェリカと領主は、牢の内部からの爆発に巻き込まれて亡くなった。その威力が凄まじく、ほとんど遺体も残っていなかった。原因は未だに不明。遺体の一部と思われるものと遺品を集め、二人は一つの墓に埋葬された。獄中で、『最期まで共にいる』と語らっていたのを皆知っていたからだ。
アンジェリカはセルジオ伯爵の一人娘で、領主はその婿であり、二人の間には子供はいなかった。そこで、彼女の叔父が次期領主となった。
領地は以前と特に変わりはない。ただ、焼かれてしまった別荘に、彼女の幽霊がでると言われるようになっている。周辺の住民は転居してしまい、その地は廃れてしまった。』
結局たいした情報は集まらず、爆発の真相は分からなかった。彼女に関する悪い噂はほとんど聞かなかったが、罪を犯したのは事実であり、彼らも認めていたという。
横領していたお金は私財として使われており、領民の目の届かないところで贅沢な生活をしていたらしいが、話を聞く限りのアンジェリカの人物像とは一致しにくい。
誰にでも裏表は多少はあるとは思うが、それでも腑に落ちない事があった。
大国の中の横領問題なんて、発覚していないだけで数多くあると推測されている。いくら中央機関でも、隅々まで目を行き届かせることは難しいのだ。
その状態で、この広い国の、大小数多とある領地のなかでも、小さくて辺境でもあるここの問題が発覚したということは、それだけ異変が顕著だったということだ。
ーーーそれまで問題がなかった割には、行動が浅はかすぎる
ーーーあぁ、でも……
ラスカはさらに考えを巡らせる。
自ら領地の経営をするのではなく、誰かに委任している場合も多い。見た目ばかりが立派で、計算もできない貴族だっているからだ。
もしかしたら、その代理経営者がーー
ーーーでも、形だけでも最終確認は領主がするはず。
その時、彼女は気づかなかったのだろうか。いや、そもそも、その考えから間違っているのだろうか。
いくら聡明だからと、采配に関わっているとは限らない。女性だからという理由で政には関わっていない可能性の方が大きい。
彼女の全く知らないところで領主が独断でしていたということなのか。
「うーん、考えてもわかりませんね。」
屋敷の関係者に話を聞けたらいいのだが、問題が浮上した時期に皆解雇されており、さらにはこの地を去ってしまっている。残念なことに当時の事を知る人がいないのだ。
「ある程度話は聞けたので、依頼主に報告してこの件は終わりましょうか。」
『はーい』
たどたどしい文字の依頼書を思い出し、この依頼を出した子もアンジェリカの事を慕っていたのだろうと考える。彼女が捕まった事を知り、誰かに助けてほしかったのだろうか。依頼書が王都にあったということは、依頼主は王都かその周辺地域にいるということになる。彼女の死を知らずに……。
ーーー報告、できるのかな……?
『牢で捕らえられていたアンジェリカは、判決を前に爆発に巻き込まれて亡くなった』と。
ラスカは頭を振ると、努めて明るい調子で傍らの少女に声をかけた。
「そうだ、ルイ。アンジェリカさんのお墓参りに行きましょう。」
『うん!』
せめて、依頼主の代わりに。
ーーー
地元の人に教えてもらったのは、木々の茂る小さな山地の中。かつての領主が眠っているとは思えないほどの寂れた場所だった。罪人として亡くなっているので、死後の待遇もこのようなものになってしまったのだろう。
「……ルイ?」
ふと気がついた時には、一緒にいたはずのルイの姿が見えなくなっていた。途中ではぐれてしまったのだろうかと考えながら、ラスカは小さな墓石を見つけ近づいた。
「あっ……」
墓の前に人影があることに気付き、さらにそれが見覚えのあるものだったため、思わず声を漏らした。うずくまっていたその小さな背中が彼女の声にピクリと跳ね、そっと振り返った。
「デューク?」




