ハロウィン編
四章途中ですがイベント編です
「皆ぁ、ヘロウィンやらなぁい?」
マスターに呼ばれラスカ達が裏のギルドに集まると、彼はそう話を切り出した。
「ヘロウィンってにゃに?」
真っ先に興味を示したキットに、マスターは手にした本に目を通しながら説明する。
「ヘロウィンっていうのは、秋の収穫に感謝してお祝いしてねぇ、夜になるとぉ、ゴーストが来るんだってぇ。それで、『トリック・オア・トリート』って言ってぇ、お菓子をもらうみたいだよぉ。」
四人ははたと顔を見合わせる。
「お祝いをしたらゴーストが来て、お菓子をくれる?すっごく意味分かんないんだけど……。」
「新種の魔物か。すぐに討伐しよう。」
「討伐……ゴーストには、物理攻撃は効きませんよね?」
『るーが、じょうか、するー?』
相談を始めた彼らに、「それは無理だよぉ」とマスターが否定する。
「マスターの言う通りでございます。夜になり、お祝い……もとい、儀式で誘い出してからでないとーー」
「に、兄ちゃん、そういう意味じゃぁないよぉ?」
「さようでしたか。」
金髪の癖毛をクルクルと指先で弄りながら、苦笑いを浮かべて言う。
「これは、皆で仮装してぇ、お菓子を配ったりもらったりするイベントなんだよぉ。ということでぇ、各自でお菓子の準備と仮装してぇ、夜に集合ねぇ!」
ーーー
夜。
呼び鈴を鳴らすと、開けてくれたのはやはり兄さんだった。
「わぁ、お兄さんの仮装、似合っていますね。」
「本物の執事みたいだね。」
黒の燕尾服に身を包んだ兄さんが、にっこりと微笑む。
「ふふ、執事ではございませんよ?」
『あ!きゅーけつきー?』
よく見れば、口元から牙が覗いていた。
「マントは少々邪魔でしたので、外しているのです。皆様もよくお似合いですね。」
ラスカはドレスを、レイとルイはそれぞれ悪魔と天使の衣装を、ディークリフトは狼耳のカチューシャを無理やり着けさせられていた。いつも束ねている長い髪も下ろしているので、本来の耳が隠れ、狼耳が自然に生えているようだ。
「はぁ。あいつ、余計な事を……。」
これらを準備したのは、例のディークリフトの母である。「こんな楽しそうなイベント、参加しないと損ですのよ!」と、彼が外せないように奇妙な術まで施したそうだ。
「お待たせだにゃー」
「……」
医務室の方から、キットとゴートも来た。
「えっ?!傷……!」
「ミイラの仮装だにゃ!上手くできにゃくて、ゴートに手伝ってもらってたんだにゃ。」
「……」
問題はゴートの方なのだ。顔に生々しく大きな傷がはしり、皮膚と皮膚を細い金属の留め具が繋ぎ合わせている。皮膚の一部は鉄のようになっていた。
「ゴートのも仮装にゃんだにゃ。描いてあるだけだから大丈夫だにゃ!」
「……」
ゴートは頷き、傷の端の方を少し擦って見せる。確かに、傷がにじんで消えている。
「……本当、ですね。」
外見の割には手先が器用なようだ。
「皆揃ってるねぇ?……あぁっ!ディークリフトとかぶったぁっ!?」
マスターの頭にも狼耳が乗っていた。タレ目のせいか、普段の印象のせいか、ディークリフトと比べると、そこはかとなく弱そうではあるが。
「マスターも、似合ってると思うにゃあ。」
「えぇ。可愛らしいですよ。」
「リボンを着けるといいと思うにゃあ!」
狼男に対する言葉だろうか、とラスカとレイは考える。マスターも同じことを思ったようで、微妙な表情だ。
「え、二人ともぉ、それ誉めてるのぉ?」
「はい。」
「んにゃ。」
兄さんはお茶とお菓子を配りながら、キットはそれを食べながら答えた。
『おいしー!』
丸くてモチモチしたものが串に連なって刺さっているもの、白く柔らかい皮の中に甘い豆が詰まっているもの。兄さんの用意したお菓子はどれも見たことがないが、おいしかった。
「じゃあ、オレもお菓子を……」
「……あ!違うよぉ!」
皆と同じくお菓子を堪能していたマスターが、ハッとしてレイを止める。
「『トリック・オア・トリート』って言わないとぉ。『悪戯か、お菓子か』って意味でねぇ、お菓子をくれない人には悪戯するんだよぉ。」
☆★☆★
『ごーと、とりっく・おあ・とりーと!』
「……」
差し出されたのは、ドライフルーツ。お菓子かどうかは分からないが、甘いものではある。
『わーい!ありがとー!ごーとの、おいしいから。るー、だいすきー!』
ゴートは日頃からドライフルーツを作っては時々ルイにもあげていたようだ。
『ごーとも、とりっく・おあ・とりーと、いってー?』
「……」
『いってよー?』
「……」
「ほらほらーレイも言うんだにゃあ!」
「わ、わかった、わかった!トリック・オア・トリート!!」
キットに追いかけられていたレイはようやく解放され息をつく。お菓子を取り出そうとしたキットは、ペタペタと自分の身体をさわり、首を傾げた。
「……にゃい?!にゃくさにゃいように、袋に入れて首から下げていたんだけどにゃあ?」
「…………包帯の下に巻き込まれてるよ。」
「にゃんとっ!」
包帯から袋を引っ張り出すのを手伝い、レイがもらったものは。
「わしゃのおやつだったんだけど、あげるよにゃ!」
「あ、うん……」
手渡された干し肉に、曖昧な返事をするしかなかった。
「とりっく・にゃー・とりっく・にゃー!」
お菓子を出そうとしたマスターは、二の足を踏んだ。
「キットォ、それじゃあ悪戯しか選択肢がないじゃないかぁ。」
「んにゃ?わしゃあマスターに悪戯をしたらいいのかにゃ?」
「いや、そうじゃなくてねぇ、合言葉がねぇ」
勘違いを指摘しようとしたのだが、キットの行動の方が早かった。
「にゃははっ」
「え、え?キットォ?」
彼の動きはとても素早く、マスターが何をされたのか認識しないうちにその場を去ってしまった。
「……」
狼耳にリボンをつけられ、さらには両頬に三本ずつ髭を描かれたマスターがその場に取り残された。
『ますたー!』
「トリック・オア・トリート、です!」
「可愛い天使とお嬢さんだねぇ。」
にこにこと頷くマスターの耳と顔を見て、ルイとラスカは顔を見合わせる。
「マスターも、その、さっきより……」
『かわいくなってるー』
「えぇっ?!僕はいったい、何をされたんだぁい……?」
しょんぼりと落ち込むマスターだったが、すぐに明るい調子に戻り二人を見た。
「あっ、でもねぇ、可愛い娘になら悪戯されちゃうのもいいかもねぇ。」
そう言いパチリとウィンクして見せる。
彼の顔をじっと見て、なにやらうずうずしていたルイが、ぱっと顔を輝かせた。
『ますたー、しゃがんで、め、とじてー』
「いいよぉ」
『えいっ』
元気な声と共に、ルイが青年の首に飛びつくようにして両手をまわす。
「わわっ、ルイちゃん大胆だよぉっ」
そして、しゅるりと可愛らしいリボンを着けた。
「えぇっー?!」
『ちゃぴぃー!にあう、にあうー。』
「チャピィ……ふふっ」
リボンに書かれた名前と思われる文字を見て、ラスカは思わず笑ってしまった。
「チャピィ?ルイちゃん、僕の仮装はねぇ、狼なんだよぉ?犬じゃないんだよぉ?」
『えっ……』
「残念そうな顔しないでぇ。」
「賑やかだな。」
「ええ。」
ポツリと漏らしたディークリフトの言葉に、同じく席について様子を見ていた兄さんが頷く。
「ディークリフト様も楽しまれているようで何よりです。」
狼耳を見てそう言う兄さんに、彼は首を振る。
「これは呪いがかけられている。取れない。」
「おや、それは困りましたね。」
言いながら、狼耳が時折ピクピク動くのを、兄さんは言及することなく見つめていた。
ーー本物のはずないのですが……ちょっと触ってみたいような。
やがて皆テーブルに集まり、お菓子とお茶を飲みながら、遅くまでヘロウィンの夜を楽しんだのだった。




