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LASKA  作者: 朝舞
第四章 不思議な出会いー前編ー
35/55

出発に備えて

「あの、始めまして、ソフィーと申します。」


兄さんが連れてきたのは、20歳前後の若い女性だった。ディークリフトとラスカも、模擬戦を止めて話に加わる。


「あ、あの。私は、アンジェリカさん、の、妹で。姉を探している方がいると聞いて、その……」


視線を彷徨わせ、下を向いてしまう。突然のことで動揺しているのか、落ち着きがない。


「突然ごめんなさい。実は、アンジェリカさんのことについて聞きたい事があって。」

「えっと、その、私も、姉のことはよく知らないんですけど。住んでいた場所なら、分かります。」


荷物から地図を取りだし、印のある場所を指差す。ソフィーとアンジェリカは姉妹ではあるものの、異父兄弟で別々に育ったため、ほとんど何も分からないそうだ。


「ここからだと、馬車を使って十数日、くらいです。私も、その、そこを訪ねるところなんですが、」

「よろしければ、一緒に行っていいですか!」

「えっ?あの、はい。」


目を丸くするソフィーに、ラスカはハッとして頭を下げる。


「ごめんなさい、つい……。どうしても、アンジェリカさんについての情報が必要で。」

「いえ、その、大丈夫です。私も、お願いしようと思ってましたから。その、一緒に行ってくれるなら、心強いです。」


それから出発の日を決め、それぞれ準備のためにその場を解散した。




☆★☆★




とりあえず聖域に戻り、ラスカは剣の手入れをする。毎日行っていることではあるが、特に念入りに……


『なんで、ていれ?』


隣で見ていたルイが不思議そうに小首を傾げる。剣の手入れじたいが分からない訳ではないようで、今それをする必要はあるのか、と言いたげな表情だ。


「あ、そうですね。つい。」


遠出といえば狩りだったため、思わず武器の手入れをしてしまっていたが、今回は違うのだ。

それに、今回は駅馬車で移動するため、ソフィーを含め他者の目がある。草原の民の元へ旅した時のように、好きな時に聖域に戻って、といった方法は取れない。


「たしか、ケイシーさんの依頼の時に同じように馬車で遠出をしましたよね。」


ラスカが初めて受けた、巫女見習いの少女からの依頼の時だ。あの時準備をした物は……


「そういえば、あの時も私は何も準備していなかったような。」


依頼主であるケイシーが全て揃えていたため、剣や装備と着替えを少し持っていっただけだった。


『たべるもの、だいじ。』

「たしかに……」


初歩的な事を忘れていたようだ。


目的地までは片道だけでも十数日ということなので、保存がきく物がいいだろう。すっかり忘れていたが、固く焼いたパンや干し肉等が一般的な冒険者の食料だと、冒険者教室で習った覚えがある。


往復と、予備の分を考えて、30日分くらいだろうか。まずはそれを買い揃える必要がある。


屋敷から出ようとしたところで、ラスカは声をかけられる。


「今から準備か。」


振り返ると、猫を抱えたディークリフトがいた。


「はい。移動中は聖域に戻って来ることができないですから、食料も必要ですし。」

「それもそうか。ということは、しばらく食事は黒パンや干し肉が主に……。」


ぶつぶつと呟きながら何かを思案し始めるディークリフトの腕の中で、構ってもらえず不貞腐れたらしい猫が、ペシペシとしっぽで彼を叩き始めた。


「……あ、すまない、シャルロッテ。」


視線を向け、白い猫の耳を慣れた手つきで撫でる。満足そうに喉を鳴らす猫に僅かに目を細め、手の動きはそのままで再びラスカを見た。


ーーいいなぁ……柔らかそう。


触りたい、と思いながらその様子を見ていたラスカは、ディークリフトと目が合いドキッとする。


「……やらんぞ。」


取られると思ったのか、さっと猫を遠ざける青年に小さな子供を重ねてしまい、思わず吹き出した。


「出発予定日まではまだまだだろう。食料は後回しにして、薬草とか回復薬から優先して買うといい。」

「分かりました。助言、ありがとうございます。」


ラスカはディークリフトにお礼を言うと、鍵でゲートを開いて町へと向かう。ディークリフトは、そんな彼女の後ろ姿を眺め……その姿が見えなくなっても、しばらくその場に佇んでいた。


「一ヶ月か……」


ぽつり、と呟いた後で、ぐしゃぐしゃっと手元の猫の毛をかき撫で始める。


「あぁ~~…………」


しまいには、もみくちゃにされる猫。


されるがままになっていたシャルロッテが目を回し始めた頃、ようやくディークリフトの手が止まった。


「……さて、と。俺はとある魔道具の開発で、暫く部屋にこもる。いい子にいているんだよ、シャルロッテ。」

「にゃあ~~……」


床に降ろされた猫がこてんっと転がるが、ディークリフトはそれに気がつくこともなく屋敷の奥へと姿を消した。




ーーー




「ふんふんふーん♪」


ある日の朝。活気の出てきた街中で、鼻歌をうたっている者が一人。


「うんうん。今日もいい感じだねぇ。皆とても魅力的だよぉ。」


ふわふわと癖のある金髪を揺らしながら歩いているのは、特定の人達から『マスター』と呼ばれている青年だ。


「でも、やっぱり寒いなぁ。……ということでぇ、ちょっと中に入れてぇ?」

「鍛冶屋に暖をとりに来るのは坊っちゃんくらいだぞ。」

「照れるねぇ。」

「いや、誉めてねーよ。」


突然押し掛けられた鍛冶屋の親父は、そういいながらも青年を咎めたりせずに笑っている。


「毎日熱心だよな。朝から女性を口説きまわるとは。」

「えぇ?そんなことないよぉ?」


いいかぁい?と真剣な表情で人差し指を立ててみせる。


「僕は、書類とにらめっこするのは苦手なんだよぉ。だから、それは他の人に任せてるんだよぉ。適材適所だねぇ。」

「……それって、怠けてい」

「怠けている訳ではないよぉ?僕だって、ちゃんと散歩兼見廻りをしているからねぇ。」

「散歩兼見廻り……」


得意気に胸を張る青年に男は何か言いたげだったが、結局「まあ、いいか」で済ませてしまった。


「坊っちゃんだしな。」

「?うん、さすが僕だねぇ。……あ。」

「ん?」


何かを見つけたらしい青年の様子に、男も気になってその視線の先を見たが、いつもと変わらない光景があるだけだった。


「暖まったし、僕もう行くねぇ。」

「なんだ?またナンパか?」

「ちょっと気になる女性がいたからぁ、声をかけるだけだよぉ。」

「それを世間一般ではナンパと言うんだ。」

「厳しい世の中だねぇ。」


青年は笑いながら肩をすくめて、工房を後にした。雑踏の中を小走りで進み、とある女性の後ろ姿を追いかける。


「ねぇ、ちょっといいかぁい?お嬢さぁん?」



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