奇妙な依頼
「……で、何?この妙な依頼は?」
聖域の屋敷で、レイが呆れていた。
「もっとまともな、普通の依頼があったんじゃない?」
「うーん、そうなんですけど……」
ラスカもさすがにどうしてよいか分からず困り果てている。あの少年、デュークが見ていた依頼は二つ。
一つめは、とある屋敷での探し物だったのだが、元々はエレンとスーが少し前に個人的に受けた依頼だったらしい。
それが失敗に終わった為一般依頼になったようなのだが、ラスカはなぜ失敗したのか二人にたずねに行っていた。
「いや、その屋敷が幽霊屋敷として有名で、逃げ帰って来ちゃったんッスよ~」
相当怖い目にあったらしく、エレンもこくこくと頷いていた。いきなり気になる単語が出てきたが、とりあえず情報の一つとして『幽霊屋敷』とメモしておく。
「でも、探していたイヤリングは別の場所で見つかったようだよ。肝試しをした時に落としたと勘違いしていたらしいね。」
つまり、この依頼は失敗に終わったものの解決済みらしかった。掲示板に貼られていたのは、たまたま回収されていなかっただけのようだ。
二つ目の依頼書には、こう記されているだけだった。
『セルジオはくしゃくのむすめ、アンちゃん(アンジェリカちゃん)を、たすけてくれるー?』
「意味分かんない。」
「……ですよね。」
レイの率直な意見に、ラスカも同意する。
文字は子供の物だが、デュークが書いたとは思えない。また、『助けて』とあるが具体的な情報が全くない。
何から助ければいいのか、時間が経過しているはずだが切羽詰まった状況ではないのか……分からない事が多すぎる。
『んー?せるじおさんの、あんじぇりか。これ、しらべる?』
ルイの言うように、まずはアンジェリカさんについて調べるしかないだろう。
ーーー
再び、ラスカはギルドに向かっていた。
ディークリフトは「興味ない。」と自室に籠ってしまったし、レイも仕事が残っているということで屋敷にいる。
ルイだけが『てつだう!』とついてきていた。
「ところで、ギルドでアンジェリカさんについて調べられるんですか?」
ギルドに向かうことを提案したのはルイなのだが、ラスカは腑に落ちない。
確かに、ギルドには膨大な情報を管理している場所があるが、この国中にいる貴族の中の、伯爵の娘となると……流石にそんな個人情報までは分からないと思うのだ。
『だいじょうぶ!』
ルイはギルドの中を歩き回り、ある人物を見つけると駆け寄って行く。
『にぃに!』
「こんにちは、ルイ様。ラスカ様。」
黒目黒髪のその人物、兄さんは、突然のことにも動じずいつもと同じ対応を見せる。
『にぃに、おねがい、あるの。』
「はい、何でしょう?」
『この、あんじぇりかさん。しらべたい。』
「……分かりました。私で宜しければ、協力させていただきます。」
依頼書に目を通した兄さんは僅かに眉を潜めたが、それでもルイの頼みを聞いてくれた。
ただ、今はギルドの職員に情報の整理の仕方を教えているところだということで、時間が空いた時に手伝ってくれるようだ。
兄さんにお礼を言って別れた後で、ルイは内緒話をするようにラスカにささやく。
『あのね、ほんとは……しらべるの、かんたん。』
「えっ?そうなんですか?」
ルイ曰く、世界中に存在する聖霊に尋ねれば分からないことはないようだ。あらゆるモノに魂が存在するというこの世界では、常に彼らに見られているようなものなのだ。
使徒の力はこの世界の上位に位置する為、聖霊の力を借りるのは容易い。
『でも、それすると、みだれる。』
聖霊の力を借りるのは容易い。だが、使徒の力は強すぎるために、それを行うと魂の流れに乱れが生じてしまう恐れがあり、簡単には扱えない。
『らすか、けいやくしゃ、しってる?』
「契約者……聞いたことはあります。」
確か、妖精や魔獣と契約を交わし、『従魔』としてその力を使役する者……。
「ん?なんだか、さっきの話と似ていますね。」
違う点は、使徒は全ての聖霊を使役できるのに対して、契約者は契りを交わした個の存在の使役しかできないところだそうだ。
因みに、力の強さは聖霊、魔獣、妖精、神獣、魔神の順に強くなり、いずれも魂が変化したものだ。
『とくに、かぜのたましい。じょうほうあつめるの、とくい。』
属性によって得意分野が異なるのだとか。
『にぃに、かぜの、けいやくしゃ。だから、おねがい、した。』
「なるほど、そういうことですか。」
『それに、このいらい。いそがない、だいじょうぶ。』
使徒特有の勘なのか、ルイはそう断言してのんびりと笑う。
『だから、にぃにのほうこく、まつ。いい?』
「はい。」
自分にはどうすることもできないので、ラスカは頷くしかなかった。
ーーー
それから数日、ラスカはギルドで過ごしていた。兄さんからの連絡に、少しでも早く対応できるようにだ。今日は、すぐ近くにある訓練所にいた。
「違う。そこは受け流せ。」
「はいっ!」
ラスカは額に汗を滲ませ、愛用の剣を振るっていた。相手は、ディークリフト……が、魔法で生み出した氷の人形だ。ラスカは相手が生身の人間ではないので本気で挑め、ディークリフトも魔法の錬度をあげるためにこの練習方が多い。
ラスカは速さや力には特化していたものの、剣の技術は初心者に近かった。身体能力でのゴリ押し。これが彼女の戦いかたの特徴だったため、ドラクレイオスやディークリフトたちには技術を磨くよう言われている。
その様子を、少し離れた場所でドラクレイオスとレイとルイが見ていた。
「ほっほっほ……二人なら最高ランクの凄腕冒険者になりそうですな。」
『んー。らんく、あげない、いってた。』
「そういえばそうでしたな。いや、勿体ない……」
「そもそも、勇者になっちゃったから冒険者との両立は無理だね。最高ランクともなるとそれなりに大変なんだし。……というか、ドラクさん、またギルドマスターの仕事抜け出してきたんですか。」
「れ、レイ殿。サボってなんかいませんぞ。休憩がてら、愛弟子の成長を……」
「ドラクレイオス様?」
そこへ、ちょうどやって来た兄さんがドラクレイオスを見るなり声をかける。
「副ギルドマス……「すぐ参りますぞ。では、我輩はこのへんで。」」
兄さんの言葉を最後まで聞く間もなく、走り去っていく。その背中を見届けてから、ルイの方へ振り返った。
「……ルイ様、先日の件ですが。」
何事もなかったかのように話を切り出した兄さんは、一人の女性を連れてきていた。




