序章 幽霊屋敷
前置きが長くなりそうなので、
序章ということで。
ーーー
ーーこれは、エレンさんにカッコイイところを見せられるチャンスかもしれないっス!!
訓練所からの帰り道、スーは拳を握りしめる。
実は、一緒の訓練所に通っている魔法使い仲間から、とある話を聞いてきたのだ。男らしさを証明するのにぴったりな……
ーーあ、でも、どう考えても季節外れっス。どうやってエレンさんを誘うかっスね……。
幽霊屋敷で肝試し。
そこから思い浮かぶ男女の展開を想像しつつ、スーはようやくあることに気がついた。
ーーあれ?肝試しって、エレンさんより僕の方が絶対苦手じゃないっスか?!
頭の中で、恐がる女性をかっこよくエスコートしていた男性。その男女が入れ替わり、それがスーとエレンになる。認めたくないが、最も現実に近い光景だ。
カッコイイところを見せるどころか、情けない。
トボトボと歩きエレンとの集合場所である小屋に入ると、何やら考えこんでいる彼女の姿があった。
「どうかしたっスか、エレンさん?」
「友人から依頼を頼まれたんだけどね。」
ギルドの依頼は、個人に対して出すこともできる。それに対して何か悩んでいるらしい。エレンはチラッとスーを見て、頷いた。
「あたし一人で受けるから、スーもしばらく単独行動しておきな。」
「ええっ?!僕達、二人でパーティーを組んでいるじゃないっスか!人数が多い方が成功率も上がるっスよ?」
ショックを受けるスーを、エレンはじっと見つ……
「あんたには無理だね。向いてない。」
……見つめる間もなく即決する。
「ひどいっス!見捨てないでっス~」
「見捨てるって大袈裟な。1ヶ月くらいで戻ってくるさ。」
「1ヶ月も、無理っス!!」
「あーーー!ついてきたいなら好きにしな!」
エレンは諦めたのか両手を上げ、スーはガッツポーズをする。さっそくエレンの見ていた依頼状を読む。
「なんだ、ただの探し物じゃないっスか。やっぱり人数が多い方がいいっスよ?」
「場所が問題なのさ。」
エレンの指差した箇所を読み、スーは固まった。
「あたしはこんなのよくわからないんだけど、スーは苦手じゃないかい?」
「幽霊屋敷っスか……僕も行こうと思ってたっス……」
思わぬ形で、スーの計画は現実になった。
ーーー
ーーグシャリッ
「!!!」
何かを踏んだ。ただそれだけでビクッと身体が跳ね、声にならない悲鳴が一瞬漏れた。
ーーだ、大丈夫っス、大丈夫、大丈夫……
スーは先程から激しく脈打つ自分の鼓動を感じながら、どうにか平常心を保とうと、パニックに陥りそうになっている自分に言い聞かせている。
「キャアアアッ!」
ーー大丈夫、だいじょうぶ、ダ イ ジョ ウ ブ
突然腕を強く掴まれ、スーは思わずそこを見てしまった。
「うぅ……っ」
涙目で小刻みに震えているエレンと目が合った。幽霊屋敷に入ってから、ずっとこんな調子なのだ。些細な事で驚き、無意識だろうかスーの服を掴んで離さない。幽霊の概念がなかったらしく、初体験なので仕方がないのだが、こんな彼女は見たことがない。
そして今、彼女はピッタリと腕にしがみついているのだ。
ーー……やっぱ、無理っス!
スーはそんなエレンにドキドキしすぎて大変な事になっている。
「ねぇ、スー……。やっぱり、帰ろ?」
「エ……エレンさん?」
「帰ろ?帰ろうよぉ。もう嫌だぁ……」
恐怖のあまりに幼児化でもしてしまったのだろうか。これは、ヤバい。可愛すぎる。
つーっと鼻から何かが垂れるのを感じ、それが何かを察したスーは近くの壁に数回頭を打ち付ける。
ーーあ、危なかったっス……
幸せすぎて失神しそうだった。とりあえず鼻血を拭き、困惑しているエレンの手をとり、出来る限りの男らしい声と顔を作る。
「エレンさ……ん?」
エレンが一点を見つめたまま目を大きく見開き、硬直していた。スーも彼女の視線の先を追い、それを見る。
「ーー?!」
薄暗く、じめじめとした室内の、散乱した家具だかなんだか分からない物の間から、熊のぬいぐるみがこちらを見ていた。ただ顔を向けていただけではなく、二本の足で立ってまっすぐに二人の方を見上げていた。
『タ ス、ケ……テ』
一歩踏み出し、手を伸ばしてくる。
後ずさろうとしたスーは、何かに足を引っかけて体勢を崩した。
「ひっ……?!」
『ドウシテ……』
ポッ……と、熊のぬいぐるみの身体に一点の赤いシミがつく。瞬く間にそれは広がり、茶色の身体が赤黒い色で侵食されていく。
足がちぎれ、裂けた腹から綿が溢れ、綿もまた紅に染まり、耳が落ち、目が割れ、それでも手を伸ばそうとし……。
ゴロン、と頭が地に転がった。
『出ていけ』
ぬいぐるみのそれとは違う、別の声が屋敷に響く。幽霊屋敷から連想されるような、憎しみ、怨み、怒り、呪い……そういったオドロオドロしさはない。もっと強く、ハッキリとした声。
生ぬるい風が一段と重い空気を運び、二人の行く先にあった扉に、人影が映った。
『出ていけ!』
「っ!逃げるっスよ!」
スーは我にかえると、座り込んでしまっていたエレンを抱えて、自身に身体強化の魔法をかけながら全力疾走する。
『ドウシテ……』
屋敷を出る瞬間、あのぬいぐるみの声が聞こえた。
ーーー




