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LASKA  作者: 朝舞
日常1
31/55

ルイ編

風が冷たい。

いや、風が吹いていなくても寒い。


『まっしろー』


ルイは、はあーっと白くなった息をはいた。


季節は、すっかり冬だった。草原では比較的まだ暖かかったので気がつかなかったのだが、王都は雪が降っている。


『こんにちはー』


ギルドに程近い場所にある、小さな店『日和亭』の扉を開けた。もう常連になっている。


「いらっしゃいませ~……あ、ルイちゃんだにゃ!」


キットが元気に手を振る。


「キット、飲み物をこぼしてしまいますよ?」

「……」


兄さんはそう注意しながらも相変わらず優しい口調と眼差しで、ゴートはちらっと見ただけだった。ただ、以前と変わったのは彼らがウェイターの制服に身を包んでおり、ここで働いているということ。



なぜこうなっているのかは、数週間前に遡る。




マスターが結成した特殊パーティーの仕事は、表のギルドで達成できなかった、もしくは表のギルドには依頼できないような内容の物を解決することだった。


だが、よほどの事がない限り依頼が来る事はない。だから、毎日情報や資料の整理をしていたのだが、表の方のギルドの職員にそれらを任せることになった。というか、元々向こうの仕事だったらしい。


一方、表のギルドでは働き口が見つからない人達を冒険者かギルド職員として雇っているそうなのだが、その仕事も難しそうな……身体に欠損があったり、言語の問題等でコミュニケーションができなかったりする人達は能力に応じて働き口を提供していた。


鍛冶の能力があれば鍛冶屋に、料理の腕があれば料理人に。


能力がない人に対しては教育をする。


メンバー達は、そういった人達のサポートとして働く事になったのだ。





日和亭で言えば、料理担当のシェルル(生まれつき喋れない)とフック(怪我が原因で片足が悪い)。見習いのディス(ほぼ全身に火傷の傷痕を負っている)。

掃除係のアンディ(幼児程の知能しか持っていない)等だ。


なかなかの事情を抱えた人達である。



『♪~♪♪~』


ルイはホットチョコレートを飲みながら、従業員やメンバー達の働く姿、お客さんの様子をにこにこと見ている。


『日和亭』にはギルドが提供している施設である事を示す紋章が掲げられているため、揉め事はほとんどない。そんな事をすれば、すぐにギルドに知れ渡ってしまう。安心して利用できる、と客層も広い。

ちなみに、お兄さんは女性客に、ゴートは冒険者に、キットは癒し系として、それぞれ人気だ。


平和な店内。だが、ごく稀にチンピラや酔っぱらい等が問題を起こすこともある。


「や、やめてください!」


そう、こういうふうに……


『?』


悲鳴が聞こえた方を見ると、数人の女性客グループに言い寄っている男達の姿があった。


「ナンパか。」


料理する手を止めることなく、フックが呟く。


『せくはらー?』

「いや、ナンパだって。」

「どっち、でも、いい。」


二人の会話に、ディスがツッコミを入れた。

その間も、先程の悲鳴の時点で拒絶されているにも関わらずナンパは続いていたが、すぐ近くにいた男性客が両者の間に入り


『あ』


ルイが気がついた時には男性は倒され、頭から流血していた。最初の悲鳴から、数秒ほどの出来事。


『あー……』


そこへゴートが駆けつけ、ナンパ男達を掴み上げる。巨大なゴートからすれば、摘まみ上げる、だろうか。男達は暴言を吐いたり暴れたりしているが、全く効果はない。


「なんだよ!ちょっと声をかけただけじゃねぇか?!」


男達の誰かが言い、怪我をした方の男性の応急処置をしていた兄さんは彼らの方を向く。


「女性に声をかけるのは自由ですが。嫌がっているのを強引に、というのはいかがなものかと。それに加え、他のお客様に血を流させるとなりますと……ねぇ?」


口調は穏やかで丁寧だが、瞳の奥では「出てけ」という言葉が映し出されていた。

ゴートもそれを読みとったらしく、未だに抵抗する男達を無視し『日和亭』の扉から外へと放り投げた。


ルイはそれを見届けると、兄さんの元へと駆けていく。


『にぃに、みせてー』


男性の血はまだ止まっておらず、布で押さえられている。新人の冒険者らしく、いてもたってもいられなかったそうだ。

初々しく、熱く、志が高い。

ルイはそんな『新人』は好きだ。


『るーが、なおす。まかせて。』


手をかざし、ちょっと『力』を使う。ルイの使徒の力は『癒し』なので、このくらいは容易い。

掌に温もりを感じ、光が煌めく。

血は止まり、開いていた傷は塞ぎ跡も残さず完璧に消え、付着していた血の汚れも消え、元々あったと思われる他の部位の古傷まで無くなった。


(あ、やりすぎた)

「ありがとう、助かったよ。」


治癒魔法は珍しいので驚いていたものの、男性はルイに礼を言う。どうやら、頭の傷のみに気をとられていてそれ以外は気がついていない様子。


「流石です、ルイ様。」

『ふふっ……どういたしまして。ねぇ、ごーと……あれ?』


ふと、ゴートがいない事に気がつき、ルイは周りを見回す。すると、キットが外を指差した。


「ゴートなら、まだあっちにいるにゃ。」


見ると、未だに不満が残っていたらしい男達に取り囲まれて攻撃されるところだった。


バキィッ


悲鳴をあげたのは、男達の方。ゴートは攻撃を受けただけなのだが、魔力を肉体強化に使っている彼のその行為は、男達には十分攻撃にもなったようだ。


『あー……』


男達の手足は見事に腫れていた。もしかしたら、折れているかもしれない。力を使えば先程の男性のように治せるが……


(でも、ざんねん……)


視線を外してゴートを見上げた。


『だっこしてー』


ルイは甘えるために来たのだ。


ゴートも頷くと、少女がつかまりやすいように屈んだ。ルイは彼の太い腕に腰かけると、ぴったりとしがみつく。それを確認して、ゴートはゆっくり立ち上がった。





取り残された男達はそれをしばし眺め……扉にここが『ギルドの提供している施設である事を示す紋章』があることにようやく気がつくと、いそいそと去っていった。





高くなった目線に、ルイはきゃっきゃっとはしゃいでいたが、あの騒ぎで妙な空気が店内に残っていることに気がつく。


(これ、よくない。)


ルイにとってここは、楽しみ、幸せになれる場所だ。どこか気まずい雰囲気は苦手だった。


こういう時の打開策を、少女は知っている。


『あさひにほころぶ はるのはな

つゆにとけでる いろのかはーーー』


即興で歌いだす。突然の事で誰もが驚いてこちらを向いたが、徐々に笑顔が広がっていく。

歌は得意な方だ。治癒だけでなく、『癒し』を与えるものは基本的に大抵できる。持っている力の特性なのだろう。


雰囲気が心地よいものへと変化していく。癒しを与える事は神から与えられたルイの使命でもあるが、何よりも好きなことだった。

怪我や病を癒し、救いを求める者に力を貸す。しかし、誰にでも力を使う訳ではない。その人の人柄等を見て判断している。ナンパ男達を治療しなかったのはその為だ。


「これ、サービス、食べて。」


歌い終わり、拍手に照れながらもカウンター席に戻ると、厨房からディスが焼き菓子をくれた。飲みかけでさまってしまっていたホットチョコレートも、新しいものになっている。


『ありがとー!あ、さきに』


ルイは厨房に入ると、ディスとフックにそれぞれ少しずつ『力』を使う。「いるだけで客寄せをしてくれるから無料ただでいい」と言われているのだが、その代わりにこうして傷を治したり、歌って聞かせたりしているのだ。


「あり、がと」

「いつもすまんな。」


ディスの火傷がまた少し良くなり、フックの足も少しずつ動くようになっている。本当はいっぺんに治せるが、治癒魔法を越える『力』の使い方はしないようにとディークリフトとレイに言われている。

周囲には『力』を魔法ということで通しているからだ。


ルイは幼く見られるが、それは人としているときの外見だけの事。使徒としての年齢は三桁だ。きちんとそういうことも理解している。


焼き菓子とホットチョコレートにとろけるような笑顔になる姿を見れば、やはりただの幼い少女にしか見えないが。









声を失っている今は聖霊の力を借りているが、いつかは自分の声で歌いたい、と考えながら


ルイは、今ある幸せに頬を緩ませたのだった。

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