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LASKA  作者: 朝舞
第一章 はじまり
3/55

助言、そして街へ

一瞬だけ。


ラスカは剣を思いっきり引いた。突然のことで人形はバランスを崩し倒れる。それでも、彼女の剣は人形から抜けない。

それを見て、彼女は剣を真っ直ぐ引くのではなく、ぐっと上から押し付けた。剣は氷人形の身体を斬りながら抜けていく。


「………っ!!」


剣が抜けた瞬間、ラスカは鋭く息を吐き、人形の上まで飛び上がる。そのまま落下と同時に身体を回転させ…


ガッシャァァアンッ!!!


彼女に握られた剣によって、人形は見事に真っ二つになった。


「おおー」


レイは感嘆の声をあげ、パチパチと拍手する。そこへ、頬を紅潮させたラスカがはじけんばかりの笑顔で駆けてきた。


「レイ、やったです!」

「うん、見てたよ。すごいじゃん。」


レイもいつものようなツンとした態度だが、感心したようにラスカを誉めている。

ディークリフトは無邪気にはしゃぐ少女をじっと見ていた。


「お前……」

「はい?」

「……いや、何でもない。また今度練習しよう。」

「はい、おねがいします。」


ラスカは嬉しそうに屋敷の中へ入っていく。

レイも仕事へ戻ろうとして、ディークリフトに呼び止められた。


「あいつの剣は、岩をも砕く。」

「へ……?」


突然何を言い出すんだという目をするレイに、ディークリフトは一人呟く。


「俺の氷が斬られた。」


そこらの魔術師と比べても、ディークリフトの右に出る者はいない。ましてや魔法を使わない相手なら、どんな屈強な男でも……例外はいるが……大抵の者は傷をつけるので精一杯だ。


「ラスカは、氷を斬った……」

「………!」


言葉を失うレイに、ディークリフトはすっと目を細める。


「面白くなってきたな。」



ーーー



それからしばらくすると、ディークリフトとレイはどこかへ出かけていった。一人残ったラスカは、部屋で本を読んでいた。レイがラスカの勉強のためにと、いくつか買ってきてくれたものだ。

数あるなかから、ラスカは魔法についての本を選び、読みふけっていた。


「まほぉ……」


ラスカはつい先程見たばかりの魔法を思い出す。

生み出された氷の人形。それを指先の動きで操るディークリフト。

かっこいいと彼女は思っていた。


ーー私も魔法が使えるのかな……?


ふとそう思い、ラスカはディークリフトと同じように指先を動かしてみる。もちろん何も起きないが、彼女は楽しそうに魔法を使うふりをする。


その時ーー


「え?」


ピカッと部屋の中が光り、ラスカの手に何かが当たる。柔らかい感触に反射的に振り返ると、たおやかに波打つ髪の美女と目があった。


「え……?」

ーーなにこれ?もしかして召喚しちゃった??


「えっと、あの、ごめんなさい。」

「……なぜ謝るんですの?」


ペコペコと頭を下げるラスカに、女性は首を傾げる。それから周囲を見て、広げられた本と、ラスカと、彼女の背中の剣を見る。


「ディークやレイちゃんがあんなに楽しそうなんですもの。私も貴女に会ってみたくなったんですの。

でも、貴女が……意外ですの。」

「あ、あの……」


じーっと見つめられ、ラスカは居心地が悪そうに身じろぎする。


「申し遅れましたの。私、ディークリフトの生みの親ですの。」


…………。


「えええぇぇ?!」

「とても良い反応、ありがとうですの。」


女性はにっこりと微笑んだ。ディークリフトは美青年だし、女性もかなりの美女だ。だが、親子というにはあまりにも若すぎる。



「単刀直入に申しますの。貴女、ディークにギルドで働きたいとお願いするんですの。」

「ぎるど……?」

「その方がきっと記憶もはやく戻ると思うんですの。それに、なにより楽しくなりそうなんですの!」


『楽しくなりそう』……やはり親子である。

女性はウキウキと話しているが、ラスカはよく分かっていない。そもそも、まだ状況を理解していない。


「あの……」

「もう戻らないといけないんですの。また会いましょうですの。」


再びの閃光の後、女性の姿は跡形もなく消える。入れ違いでラスカの部屋に誰かが飛び込んできた。


「ディークリフトさん……?」

「……逃げられたか。」


入れ違いになったのではなく、あの女性は意図的に出ていってしまったらしい。

少し遅れて来たレイは困惑の表情を浮かべる。


「あれ……?確かに気配がしたんだけど。」

「うん、おんなの、ひとです。」

「ラスカ、主に会ったの?!」


驚くレイに、ラスカはこくりと頷いた。ディークリフトもこれには想定外だったらしい。


「あいつが、お前に会ったのか。何か言ってたか。」


ディークリフトが珍しく詰め寄るように話しかけるので、ラスカはたじたじになってしまう。


「ぎるど、はたらくと、いいって。」

「ギルドのことを言ってたのか。」


口を閉ざし、ディークリフトは何かを思案する。


「ギルド、か……確かに情報は集まるし、金も稼げるが……ま、いいだろう。あいつの助言なら。」


途中までは慎重に考えていたが、やはり最後はいいかげんなところがある。ディークリフトは迷わないのだ。


「ギルドの前に、町案内からだな。準備しろ。」


聖域に来てからはや数十日。

ラスカはついに、町へ出る!




ーーー




翌朝。屋敷から外に出たラスカは、周りを見渡す。屋敷の周囲は、草原と森。どこまでもどこまでも、緑、緑、緑……。

少なくとも、目に見える範囲に町らしいものはおろか、建物が一つもない。


「ラスカ。前に、ここは特別な場所だと教えたよね。ここは、世界と分離されてる。聖域にすんでいる人間は、僕らだけなんだ。」

「………?」


言っていることがよく分からない。


「すぐには分からないだろう。まず見てみろ。」


ディークリフトが手を開き、指輪が輝いた。魔法だ。


「………???」


氷が生み出された訳ではない。グニャリ、と空間が歪んでいる!

そのまま渦をまくようにして、あっという間に穴が空いてしまった。


「世界と、聖域を繋げたんだよ。ラスカも通って。」


レイに促されるまま、穴を通り抜ける。その瞬間、ラスカの耳にたくさんの音が飛び込んできた。


「わぁっ……」


人びとのざわめき、荷車の音、どこからかいい匂いもしてくる。静寂に包まれた聖域にはない、確かな人間の生活の気配がする。

後ろを振り返ると、薄汚れた壁があるだけだった。三人がいるのは、周囲を家の壁で囲まれ、狭く、じめじめした場所。聖域と繋げた穴は閉じてしまっていた。


ラスカはディークリフトを見上げ、無意識に彼をまじまじと見つめていた。彼は居心地が悪そうに視線を逸らせている。


「お前……。そんな目で見るな。」

「え?」


どんな目をしていたのか、ラスカには分からなかった。好奇?それとも畏怖?

ディークリフトを怒らせてしまったかとも思ったが、彼は視線を落としたまま頬を掻いていた。


「今、路地裏にいるんだよ。」


レイの声に、ラスカは現実に引き戻された。妙な雰囲気も一緒に吹き飛ぶ。


「聖域のことも、空間を繋げたことも、誰にも言っちゃだめだよ。」

「はい。」


返事はしたものの、彼らは隠していることが多く、よく分からない。


「ディークは、魔術師の中でも特殊なんだよ。異空間に世界を創ったり、空間を繋げたりなんて、普通の魔術師はできないんだ。

へんに目立つと、いろいろと厄介で。」

「……全くだ。」

「たいへん、なんですね。」


彼らも苦労しているようだ。

細い路地の角を何度か曲がると、すぐに広い通りに出た。あまりの人の多さに面食らうラスカに、レイがぽんっと背中を叩いた。


「はぐれないでよ。」

「はい!」


二人とはぐれるのは最悪の事態を意味する。なぜなら、ラスカは聖域への帰りかたを知らないからだ。


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