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LASKA  作者: 朝舞
第三章 手がかりを求めて
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空姫

「一体……何事?」


着地をしたそれは、男達と比べると小柄な人だった。中性的な顔立ちで、とてもおっとりとした印章を受ける。すっぽりと被ったフードからは金髪と茶髪の中間……蜂蜜色の髪が覗いている。真昼の草原をそのまま映したような明るい緑色の瞳が、四人をじっと見つめていた。


「空姫様、彼らはああ見えて危険です!」

「君達……力が強すぎる。このままじゃ……危ない。」


男の言葉を聞いているのか定かではないが、空姫と呼ばれた人物の声には緊張感が感じられた。


「危ないから……ひとまず、吹き飛ばす。」

「……え?」

「其は風。空渡り運べ、かの場所へ。」


突然空姫は歌いだし、両手を扇ぐようにフワッと上にあげる。その動作に合わせて、見えない何かが体を持ち上げたのをラスカは感じた。見ると、ディークリフト達もフワリと浮き上がり、歩いて来た方角へと飛ばされていく。


「な、なに……っ?!」


ある程度飛ばされた所で、四人は大地に着地する。そこへ、彼らを飛ばしたはずの空姫も宙を滑るようにして後を追ってきた。


ディークリフトが警戒を強めいくつもの氷の玉を空中に漂わせて身構える。空姫は柔らかな印象の目をはっと見開き、彼をぽぅっと見つめ呟いた。


「……すごい。」

「お前、なんのつもりだ。」


ディークリフトには空姫の言葉は届かず、変わらず警戒をしている。その様子に空姫は両手を挙げ、首を傾げた。敵意はない、ということか。


「危なかったから……飛ばした。……嫌だった?


其は焔。氷河をも溶かす灼熱の刃。」


再びの歌と共に、ディークリフトの氷の玉が次々と砕かれ、溶かされていく。しかし何によって魔法が抹消されたのか確認できない。


「何が起こってるんでしょうか?」

「さあな。」


短くそう言い、ディークリフトは再び空姫に手をかざす。


「壁。」


彼が魔法を発動するよりも前に、今度はごく短いフレーズと、素早く手を挙げる動きが加わった。

一呼吸遅れてディークリフトの指輪が光ったが、何も起こらなかった。


「どうやら、奴は見えない魔法を使うようだ。歌で魔法の属性や性質、体の動きで魔法の形や動きを指定するんだろう。」


空姫は一瞬きょとんとした後、ちかりとその目の色を変える。明るい緑色だった瞳は、暗い森の奥のような深い緑色になった。光の当たりかたによっては、黒にも見える。


その目がディークリフトを捉え、すっと細められる。


「面白い……実に聡い。妾の力を見破るか。」


今までのぼんやりとしていて表情の乏しかった空姫の雰囲気が一変し、楽しそうにクスクスと笑いだした。突如出てきた古風な口調と不思議なオーラに、誰もがすぐに反応を返せずにいた。


「汝の姿を一目見ゆ。飾らぬ心を我が眼に。

飾らぬ姿を我が眼に。

偽の殻をかき破り、真の魂今ここに。」


今までよりも長い歌がその間に歌われ、さあっと両手が広げられる。すぐにディークリフトが防護壁を発動して四人を囲んだ。


「……!」


だが、彼はブルッと身震いをして空姫を睨んだ。何かあったのかと思い声をかけようとしたラスカも、突然体の中に何かが入りこむ感覚にぞわりとする。血管を通って、何かが駆け巡るような感覚。だが、それはすぐにおさまった。


「防護壁を伝って来たんだ。」


レイが驚きながらも、それを成し遂げた空姫に目を向ける。何かをされたのは分かるが……特に体に変化はない。


そこへ、空姫の元に馬に乗った男達が追い付いた。いつのまにか空姫の瞳は元の明るい緑色に戻っている。


「君達のこと……調べた。種族、能力……あと、いろいろ。


……コウア-シオンス。……こっち。」


空姫に手招きされ、しゃがむように手で示されたのは、最初に会った男だった。彼は言われるまま、その言葉に従う。


「いかがなさった、空姫さ……」

「……てぃっ。」


視線を合わせてかがんだ男の頭に、いきなり空姫はチョップをした。ぺちっ、と気の抜けた攻撃をされた男も、それを見ていた他の者……もちろん、ラスカ達も……突然のその奇行に沈黙をせずにはいられなかった。


「「「……………」」」

「……コウア。この人達……悪い人じゃない。記憶の断片……見た。」


さっきの魔法で、記憶まで調べられたらしい。空姫は男の額にちょんっと人差し指を当てる。


「人の話……聞く。すぐ攻撃する……よくない。」


どうやら、男に説教をしているようだった。立派な大人が子供に叱られるのは、なんとも妙な光景だ。


「お前もいきなり魔法を使ってきただろうが。」


ディークリフトがポロリと漏らした不満に、空姫は目をしばたたかせる。


「危ないから飛ばす……そう、言った。それに……移動……しただけ。」


どうやら場所がまずかったらしく、空姫は移動したかっただけのようだった。


「君達、カ……強い。あそこで、魔法使われると……影響与える。……すごく困る。それに……攻撃するつもり、なかった。」

「最初からそう言えば良かっただろう。説明を省きすぎだ。」

「……ごめん。」


しゅんと萎れる空姫に、男達からディークリフトに非難の視線が集まり始める。視線を受けた彼は肩をすくめ、そっぽを向いた。


「空姫様、戻りましょう。」


コウアと呼ばれていた男が、そう声をかける。しかし、空姫は首を横に振った。


「彼ら、ボクに……用がある。先に……帰って。」

「我らだけ帰るなんてできません!」

「じゃあ……離れてて。ボク、彼らと……話ある。大丈夫……同郷の、人達だから。」

「空姫様と同郷……?!ラスカイアなのですか?」


ラスカイア……空姫はやはり『空の民』なのだろうか。空姫は困ったように眉根を下げて、コウアと男達を眺める。やがて、男達が馬と共に少し離れた所へしぶしぶ移動するのを確認すると、小声で何かを呟き、手をそっと動かした。


「こっちの声、向こうは聞こえない……安心して。君達、ボクに……聞きたいこと、ある。……違う?」

「ラスカイアについて知りたいんです。」


ラスカは空姫にここを訪れる事になった経緯を簡単に説明した。黙ってそれを聞いていた空姫は、先程と同じように眉根を下げる。


「……ごめん。ボク……知らない。」

「あなたも記憶喪失とかですか?」

「違う……ラスカイア、じゃない。だから……知らない。」


男達に話していた事とは全く違う事を言っている。空姫は、『空の民』ではない?


「でも、さっきは同郷って言ってましたよね?」

「使徒の魂、ここに……ある。煌……彼らと……同郷。」


空姫はちらっとレイとルイを見て、自分の胸の辺りに手を当てた。彼らが使徒だということに気がついている事から、空姫の力は本物だと分かる。二人と同郷ということは、天界から来たということになるが……


「オレら以外の、世界に派遣された使徒がいたのか。」

『はつみみ。』


レイとルイは知らないようだ。


「君達と……事情、少し違う。……煌は、使徒の転生体。」

「空姫さんは、使徒の生まれ変わりってことですか?」

「……ボク、違う……煌。……ここ、いる……」


空姫はそう言いながら自分の胸を指し示す。


「なんのことか分からんが……俺はもう帰るぞ。ラスカイアの手がかりがないなら、ここに用はない。」


ディークリフトが欠伸を噛み殺しながら立ち上がる。


「待たれよ。」


ふいに、厳かな声が聞こえた。


「俺達は空の民について調べるために来たんだ。使徒の話はまた今度聞かせてくれ。」


立ち去ろうとするディークリフトの服の裾を、空姫がさっと引っ張り制する。


「だから、待たぬかと言っておる。」


いつのまにか、空姫の瞳が暗く染まっていた。


「えっと……空姫さん?」

「妾は煌。あの者とは違う。」

『にじゅーじんかく?』


ルイの言葉に、煌と名乗るその人格は僅かに首を振る。


「近いものではあるが……この際、それはどうでもよい。それより……汝らは、魔物を倒し、世界の危機を救わねばならぬ。そうであろう?妾も同じ。それに、あの集落には手がかりがある。」

「手がかり、ですか?」


ラスカが聞き返し、煌は意味深に口角を上げた。


「そうだ。世界の危機とは何かを解き明かす為のな。」


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