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LASKA  作者: 朝舞
第三章 手がかりを求めて
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草原の民

「おまたせだヨー。」


今日は、ラスカが以前に受けていた検査の結果を教えてもらう日だ。ギルドで待っていると、ヨレヨレの白衣をはためかせながら研究者であるザルクが走ってきた。ただ、普通の白衣とは違い厚手の布でできていて動きにくそうに見える。


「なんか、暑そうな格好ですね。」

「はぁ、ふぅ、僕は寒いのは苦手なんだヨ。……最近は寒くなってきて外に出ないし、運動不足だから疲れるヨ。」


膝に手をつき体を支え、息を調えてから彼はピシッと背筋を伸ばす。


「検査の結果だヨ。」


差し出された紙には、魔力値、推定年齢、その他色々の数値が記されていた。


「君は、獣人並の五感の鋭さと、巨人族並の力を持っているけど、魔力がすごーっく少ないヨ。いろんな種族の特徴と少しずつ一致するものはあったけど、皆不一致だったヨ。」

「はい?」

「血液がどの種族とも完全には一致しなかったんだヨ。それで、君の血は保管されて、貴重なサンプル一号としてさらに分析しているところだヨ。世界には、まだまだ未知なる種族がいるんだヨ!」

「はぁ、そうですか……。」


燃え上がるザルクに対して、ラスカは気の抜けた返事をする。そんな彼女に、ザルクはぽんっと手を打った。


「そういえば、君は空から落ちてきたと聞いたヨ。ラスカという名前も、あの伝説の種族『ラスカイア』から命名した……間違いないヨ?」

「ラスカイア……?空の民のことですか?」


ディークリフトが、ラスカは空から落ちてきたから古い言葉で空の民という意味の名前をつけたということは、聞いたことがある。


「空の民は、正確にはラスカイアと呼ばれているんだヨ。ここからは遠く離れた草原……この辺りのどこかに、ラスカイアについての文献を残した《草原の民》がいるはずだヨ。」


ザルクは地図を広げながら、何も書かれていない空白の土地を指差した。


「残念だけど、僕にはこれくらいのことしか教えられないヨ。《草原の民》に会いに行って、話を聞いてみると何か分かるかもしれないヨ?ただ、彼らは遊牧民族だからはっきりした居場所は分からないヨ。」

「はい、ありがとうございました。」


ペコリと頭を下げるラスカに、ザルクは頷く。


「頑張ってヨ。応援してるヨ。」


もさもさの髪の毛の間から、丸い目が心配そうにラスカを見ていた。地図を見ただけでも長旅になる事が簡単に予想できるし、相手の正確な居場所も分からないのだ。


「大丈夫です。」


ラスカは明るく笑うと、ザルクにもう一度お礼を言ってギルドを後にした。




☆★☆★




「ふーん……。ラスカイアの事を調べに、草原の民に会いに行くんだね?」


ラスカの話を聞いたレイは、のみこみが早かった。ディークリフトも興味があるのか、地図を眺めている。


「あのザルクも分からないとは……そもそも、空の民は本当にいたのか。」

「え……?いたんじゃないんですか?」


ラスカが空の民の事をはじめに聞いたのは、紛れもなくディークリフトだった。


「文献っていっても、お伽噺みたいなものなんだよ。その土地に古くから伝わる言い伝えって、いろいろあるでしょ?ラスカイアについては、とても美しい姿で、空を飛ぶとか、背中に翼があるとか、不思議な力を使うとか、そんな感じ。」

「それ、レイとルイと似てますね。でも、私は空は飛べないですよ?」


話だけを聞けば、ラスカイアは使徒とよくにている。しかし、レイは首を横に振った。


「使徒は、聖域ではともかく、世界ではあの姿にはなれないんだよ。力が強すぎるんだ。そんなことしたら世界に流れているいろんな力が乱れてしまう。」

「それに、さっき言っただろう。空の民についての文献は、お伽噺に等しいんだ。脚色されている可能性が高い。」

「そうですね。」


レイとディークリフトの言葉にラスカは納得する。


「旅をするなら、お前に渡しておきたいものがある。」


ふと、ディークリフトがポケットから掌ほどの大きめの鍵を取り出した。


「以前にお前にあげた魔道具の改良版だ。以前の物は、世界から聖域に戻ることしかできなかったが、これは複数の場所に行くことができる。」

「それは……すごいです!ディークリフトさん達のように、行きたいところに行けるんですね。」


目を輝かせるラスカに、ディークリフトは「ちょっと違う」と首を振る。


「俺達は行ったことのある場所ならどこへでも行けるが、これはそうは行かない。この鍵が入口だとしたら、出口になる場所に魔方陣を設置する必要がある。ギルドの近くと、神殿、それとこの前行った村の爺さんの物置小屋の三ヵ所に設置してある。」


ルートの確保とはこの事だったのだ。ラスカは試しに、ギルドへ行こうとしてみた。


「……?扉、開かないですよ?」

「以前は、お前が魔法を知らなかったから使いやすいように魔法石を使っていたんだ。これにはそれがないが、魔力を込めればいい。自分の体の中に流れている物を、鍵に注ぎ込むイメージだ。」

「うーん……」


ラスカは言われた通りにやってみるが、何も起こらない。


「はぁ……難しいです……」

『らすかー、まりょく、でてない。』


ルイの言葉に、他の二人も頷く。


「そういえば、私は魔力が少ないようなのでそれが関係しているのかもしれないです。」

「今日は検査の結果を聞きに行ったんだったな。見せてみろ。」


ディークリフトがラスカから紙を受け取り、その数値を見て眉をひそめる。レイとルイも側から覗き込み、「『ええっ?!』」と声をあげた。


「何これ?少ないどころか、全然ないよ?!」

『はじめて、みたー。』

「だが、ほぼ全属性に適応している……あり得ないな。」


何だかひどい言われようだ。


「試しに、初級魔法を使ってみろ。とりあえず、俺の真似をしてみるんだ。いいな。」


アイスボール、と普段は使わない詠唱を聞かせ、氷の玉を放って見せる。


「詠唱と補助道具を使えば、初級魔法は使えるはずだ。魔力のイメージはさっきと同じで、氷の玉を放つのを想像したらいい。」


ディークリフトはラスカに、自分のはめている指輪をはめた。彼は補助道具として一般的な杖は使わないが、別のもので代用していたようだ。


「アイスボール!」


……

…………

………………。


「……分かった。この鍵にも前回と同じように魔石を使おう。」

「……はい。」


ラスカはガックリと肩を落とした。






ちなみに、彼女の魔力値は一般的な三歳の子供よりも少ない量だということが判明した。




ーーー




ラスカは、ディークリフトの知っている範囲で、草原までの距離が一番近い場所に送ってもらった。ここから先は彼らも知らない世界で、自分で進むしかない。


「俺は鍵の改良をするから戻る。レイとルイが一緒に行くからいつでも聖域に戻れるし、旅の続きを再開することもできるから気楽に行け。」


いつでも家に帰れて、一度来た場所ならすぐに行けるなんてもはや旅とは呼べない気もするが、そこは気にしない。


地図によると、ラスカ達が今いる場所には村があるはずなのだが、何もない荒野が広がっていた。


「えっと……今いるのは、村のはずですよね?」


場所を間違えたのではないかと思いラスカがディークリフトに確認すると、彼は荒野を眺めたまま答えた。


「村が"あった"場所だ。」

「そうですか……。」


ふと見るとルイが悲しそうな表情をしているのに気がつき、ラスカはそれ以上はきかずに口を閉ざす。

ラスカ達はディークリフトと別れ、ひたすら草原に向かって歩を進めた。




道中で魔物に遭遇することが何度かあったが、レイとルイは討伐をするだけではなく回避もしながら進んでいく。ラスカは二人に着いていきながら、ある疑問を抱いた。


「討伐しなくても大丈夫なんですか?」

「あれくらいなら、初心者の冒険者とか兵士も倒せるから。全部倒しちゃったら彼らの仕事がなくなるよ。」

「でも、魔物はいないほうがいいんじゃないんですか?」

『らすか、かんちがい、してる。』


首を傾げるラスカに、レイが腕をくみ考える。


「つまりね、一般的な魔物と呼ばれるものは野生動物と同じなんだよ。刺激しなければ人に危害を与えないものもいるし、彼らには彼らの世界があり、生活がある。」


全ての魔物が人に危害を与える危険生物ではないということだ。


「人が魔物の領域に勝手に踏み込んだり、生活を脅かしたりしなければ、共存できるんですか?」

『そう。なかよく、できる。』


ルイが嬉しそうに頷く。


「魔物は基本的に動物と同じだから、調教できるものだっているんだよ。もちろん、危険なものもいるから冒険者とかがいるんだけど。でも、ディークリフトが討伐しているのはそれらとは違う存在なんだ。」


ラスカは、今までディークリフトが討伐した魔物を思い出す。そういえば、体をもたないものとか、人にとり憑くものとか、動物という説明が出来ない特徴があった。


「いい機会だし、教えてあげるよ。休憩でもしようか。」

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