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LASKA  作者: 朝舞
第二章 巫女からの依頼
21/55

犯人は……

「ラスカ!」


日が暮れてきた頃、レイが老人の家の裏にある物置小屋の中から飛び出してきた。何でそんな所から……あ、ディークリフトがゲートを作ったんだった。


「どうしたんですか?」

「彼女は?ケイシーさんはどこにいる?」

「ミハエルさんと教会へ帰りましたよ。村の人が数人護衛として馬車に同乗しています。到着するのは夜中になるそうです。」

「にゃにごとかにゃ?」


レイは身につけていた腕輪を回す。かちり、と金属の噛み合う音が鳴ると、ぼんやりと青白い光がそこから現れた。遠方の相手と連絡をとる魔道具だ。それを使って、ディークリフトとルイにここへ来るように連絡をする。


「確認したいことがある。ラスカ達が乗ってきた馬車の御者はどんな人だった?」

「普通の人だったと思います。立派な服を着てはいましたけど……。あ、途中の町で御者の人が代わりましたよ。」

「盗賊に襲われて、怖がってしまったんだにゃ。」

「……」


ゴートも頷いているのを見て、レイは手元の日記を睨んだ。


「馬車は、普通のものだったんでしょう?暗殺者達は、御者を目印にして馬車を襲ったんだ。御者はその為に雇われた人だった。

でも、彼らの計画は失敗して、目印の御者も途中で変わってしまった。彼らには予想外な出来事だったんだ。」

「レイ、なんのことですか?」


ラスカは困惑してレイに尋ねる。


「おかしいんだよ。領主が、娘が盗賊に襲われたことを知っているはずがないんだ。ラスカ達は盗賊に襲われた事を誰にも話してないんでしょう?二人目の御者もその事は知らなかった。じゃあ、領主は誰からこの事を聞いたわけ?」

「確かに、変だにゃ。」

「でも、ケイシーさんの父親は真っ青になって盗賊がなんとかって言ってましたけど……。」


その領主が盗賊の話を聞くはずがないということは…。

ラスカはある可能性を閃いたが、まさか、と、とても信じられずにいた。


「オレも、ラスカと同じことを考えている。領主は、自分の娘が盗賊に襲われる事をあらかじめ知っていたんじゃないかってね。」


娘の姿を見て、青くなったりホッとしたりしていたのは、子を心配する親の姿ではなく……計画の失敗を知り、自分にまで危険が迫らないか怖かったとか、娘が計画に気がついていない様子を見て自分の悪事を咎められる心配から解放されたとか……そんなダメな男の姿だったわけだ。


レイが日記のあるページを指差して見せる。


『ケイシーが屋敷に帰ってきた。馬車の御者はあいつが言っていた人物とは特徴が違った。どういうことだ。きちんと任務を全うさせるために雇ったと言っていたはずなのに。でも、まあいい。念のためにあれを準備していたかいがあった。』


「『念のためにあれを準備していたかいがあった。』オレは最初、ゴートの事だと思った。ゴートを付き添わせていたから、良かったってね。でも、だとするとこの文章はおかしいでしょ?『あれ』じゃなくて『あいつ』とか書くんじゃない?」

「……」


ゴートの日記の文字を見る目が怖い。

キットがおそるおそる、レイの方を見る。


「じゃあこれは、どういう意味にゃのかにゃ?」

「おそらく、『任務』はケイシーを襲わせる事で、『あれ』は計画が失敗したときのために準備していたなにかだと思う。この日の夜、領主の屋敷に侵入者がいたんだよね?部屋の鍵をかけていたのに簡単に入ってきたっていう。」

「鍵を簡単に開けられる仕掛けがあったかもしれないって事ですか?」

「そんなとこかな。」


恐ろしい。

実の娘を殺そうなんて、そう簡単に考えるのか。


「おそらく、領主は魔物の影響を受けているはずだよ。この日記から微かに匂いがして、オレはこの事に気づいたんだ。」


ちょうどそこへ、ゲートを通ってディークリフトとルイが合流した。


「話は聞いた。教会へ向かえばいいんだな。」


青白い光を宿したままの腕輪を片手に、ディークリフトがそう切り出す。


「うん。オレ達は教会に。キットとゴートは領主の屋敷に行って窓に仕掛けがないか見てきて。鍵の付近にあると思う。……領主には気をつけてね。」

「任せてにゃ。」

「……。」


キットとゴートはすっかり日の暮れた道を走って行く。


「馬車には、村からの護衛が同乗しているんだよね?それなら、教会に着くまではケイシーさんは安全だよ。」

「……教会に着くまでは、ですか?」


ラスカはレイの言葉に不安が広がる。


「だって、護衛がいなくなったら危ないでしょ。暗殺者や侵入者達に指示をしていた奴を捕まえるまではね。」

「指示を出していたのは領主じゃないんですか?」

「日記を思い出してみてよ。

『馬車の御者はあいつが言っていた人物とは特徴が違った。どういうことだ。きちんと任務を全うさせるために雇ったと言っていたはずなのに。』

領主とは別の『あいつ』が、御者を雇ったんだ。」


ディークリフトが口を挟み、ラスカはようやく気がついた。


領主には、共犯者がいるのだ。





ーーー




ケイシーは教会に着くと、ここまで護衛として来てくれた村人達に礼を言った。髭の親父さんもその中にいる。


「ケイシー様に何かあったらたいへんですから。」

「お前も、俺達の為になんとかしようとしているだろう。これくらい当然のことさ。」

「そうだとも。あの保存食、本当に助かったよ。ありがとう、ケイシー。」


村人達が口々にそう言うのを、ケイシーは恥ずかしそうに聞いている。

彼女が村人に配ってまわっていたのは、保存食だった。不作で苦しむ彼らに、少しでも栄養価の高いものを食べてほしくて、貯めていたお金を使って買ってきたのだ。


喜んでもらえて嬉しいのと、自分は調査を続けられない悔しさとで、ケイシーは複雑な気持ちのまま教会に入った。


「保存食を配っていたんですね。」


前を歩くミハエルが声をかける。教会で働く者として恥ずかしくない行動だとは思うので、ケイシーは自信を持って答えようとした。


「はい、ミハエルさ……っ?!」


後ろから突然、首に腕をまわされると同時に、口を塞がれた。ガッチリと捕まってしまい身動きが取れず、何とか相手を確認しようとしたが、見えたのはいつかの侵入者と同じようなフード……。


ーーミハエル様っ!


ケイシーは前を歩く男に必死に叫んだが、手で覆われた口からは声は届かなかった。


「あんなに真実を知りたがっていたのにここで死ぬなんてな。だが、お前は幸せだ。知らない方が良いこともある。何も知らず、痛みを感じる隙もなく死ぬんだ、こんなに幸せなことはないだろう。」


フードの中から、くぐもった男の声がケイシーの耳に入ってくる。

死ぬーー殺される。


「そんなこと、させない。」


男の声が聞こえたのか、ミハエルがケイシーの方を振り返る。彼女はホッとしたが、ミハエルが迷いもせずにどんどん近づいてくるのに震え始めた。


ーーミハエル様、危ない!


普通に近づくのは危険だ。彼まで危険がおよんでしまう。

しかし、ケイシーの不安をよそにミハエルは何でもないように目の前まで歩み寄り、フードの男も微動だにしない。


「俺が、簡単に殺すとでも思ってんの?」


ーー…………え……


顔を覗きこんできたミハエルの表情を見て、ケイシーは息を詰まらせた。いつもの、牧師としての顔とは全く違う。気味が悪くて、凶悪そうで、まるで別人のような変貌ぶりだ。


ーーミハエル……さま……?


もはや同一人物かも分からない。

すると、ミハエルはいつもと同じ顔に戻り、諭すように話しはじめた。


「ケイシー。君が知りたがっていたこと、全部教えてあげるよ。君のお父様ね、ある商人と取り引きの不正をしているんだよ。知っての通り例の肥料の事だけど、あれ、本当はすっごい安物を高値で買っているように見せかけてるんだ。関所でバレないように、積み荷にのせたときに周りを本当に高い肥料でカモフラージュまでしているんだよ。」


運搬用の馬車の荷台に、安価な肥料を乗せてその周囲を高価な肥料で覆うようにする。だから、倉庫に保管されていた肥料にはそれらが混在していた。


「その商人にも協力してもらっているから、彼にも利益になるようにお金を渡して、残りは全部自分の物さ。」

「嘘だ!父さんはクライス教を深く信仰している!そんな事……っ!」


口を覆っている男の手をどけ反論するが、すぐにまた塞がれてしまった。ミハエルは歪な笑みを浮かべながら頷く。


「そう。君の父は純粋なクライス教徒さ。だから、俺が教えてやったんだ。『お布施をすれば、その分罪は許される』ってね!」


腹を抱えて笑い始めるミハエルを、ケイシーは思いっきり睨んだ。お布施は罪を許してもらう為にするものではない。

ミハエルの教えは、お金を払えば何をしてもいいと言っているようなものだ。絶対に間違っている。


「お前の父が不正をする事で、商人も、父親も、教会にだって金が流れてくるんだ。その邪魔をする奴は放ってはおけないだろ。」


睨み付けているケイシーを、ミハエルは楽しそうに眺めている。


「俺だって大変だった。教会で運営を続けるための資金を集めるのは。そんな時、お前の父に会ったんだ。何度か会ううちに、あいつは俺の力の影響を受けて夜になると豹変するようになったよ。商人との取り引きも、お前を襲わせる為に窓に仕掛けを施したのも夜。本当に便利な奴だよ。」

「父さんに……何、……したっ!」

「勘違いしないでよ。俺は、アイツの中に眠っている負の感情を増幅させただけさ。操っている訳じゃない。もともとあって、隠していた力を開放させただけ。ま、昼間は臆病な羊になっちゃうんだけどね。お前を教会に入れたのも、もしかして姉に比べると使えそうにないから巫女にでもしたほうが特だって思ってたかもよ?」


ギリギリっと奥歯を噛み締めるケイシーに、ミハエルはスッキリしたようにフードの男の方を向いた。


「もういいよ、やっちゃって。不幸を嘆きながら死ねばいい。」


ミハエルの声に、男は手を高く振り上げる。




ブンッ!!




その手から何かが教会の入り口の方に投げられる。柱の影から誰かがそれを受け止めた。


「証拠はもらった。」



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