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LASKA  作者: 朝舞
第二章 巫女からの依頼
19/55

発展する事件

パリーンッッ


何かが当たり、砕ける音と共に、腕を強く引っ張られる。ビクッとして目を開けると、そこにはラスカがいた。


「逃げますよ、ケイシーさん。」


彼女は早口でそう言うと、ケイシーを支えながら扉に向かって駆け出す。出口にはフードを着けた、顔を隠した別の誰かがいた。


後ろでは、さっきのマントの人が立ち上がったところだった。


「ラスカ、どうしよう。」

「大丈夫です。」


ラスカが迷わず出口に向かって進んでいく。出口の人物はそんな二人に手を向け、氷の球を瞬時に生み出した。


ーー魔法だ!


氷の球が迫ってきて、ケイシーは思わず頭を伏せた。


パッキーーーン


すぐ後ろでマントの人物がうずくまる。


「え……」

「こっちだ。脱出するぞ。」


フードの人物がラスカにそう言う。その声は、どこかで聞いた気がした。ケイシーは困惑したまま、ラスカとその人物を見る。


「馬車で、途中まで一緒でしたよ。」

「あ……あの時の……?」


ケイシーは、銀髪の青年を思い出す。ラスカの知り合いのようではあったが、あの時は嫌なやつだと感じていた。

派手に窓を割って外に出ると、風でフードが外れ、青年の美しい銀色の髪が露になった。白い肌も髪も、月明かりに照らされるとさらに美しく見えた。


「キットとゴートと合流しよう。その巫女もどきが持ってきた依頼は、予想以上に面倒な事になりそうだ。」

ーーみ、巫女もどき……。


やっぱりこいつは気にくわない、とケイシーは思った。




☆★☆★




「ディークリフトにぃ?にゃんで……ここに?」

「……。」


キットは寝ぼけ眼のまま、ゴートはいつも通りの反応で三人を出迎えた。二人は、一行が最初に訪れた老人の家で泊めてもらっていた。


「何じゃ、こんな時間に。」


この家の住人である老人も文句を言いながら姿を現す。彼はラスカとケイシーに気がつくと、やれやれと首を振った。


「誰かと思ったら小娘か。今何時だと思っとる……」


はた、と言葉を止め、老人はケイシーの肩を両手で掴んだ。彼女は僅かに身を縮めたが、すぐにムッとした表情で老人を見る。


「……何?」

「ケイシー。顔色が悪いぞ。大丈夫かのぅ?」

「……」


ケイシーは肩に置かれた老人の手を握ると、ゆっくりと自分から離した。


「大丈夫だ。」

「嘘を言うでない。いつものおまえさんなら『じぃさんは老い先短い自分の心配をしなよ』と言うところじゃよ?」

「今言おうとしてたんだ。」

「まぁ、良い。何があったのか聞こうじゃないか。」


老人は居間に全員を招き入れると、自分は椅子に座った。全員分はないので、皆それぞれカーペットの上に座ったり立ったりしている。


「では、まずは……そこの青年はどちら様かのぅ?昨日はいなかったはずじゃが。」


老人は扉の側で壁に寄りかかって立っているディークリフトを見て尋ねた。


「ディークリフトさんは、私達の仲間です。目的は別ですけど、馬車で途中の町まで一緒でした。」


ディークリフトがすぐには答えそうにないのを見て、ラスカが代わりに説明する。


「ではなぜ今ここへ来たんじゃ?違う用事で町へ行ったんじゃろう?」

「あ……そうですね。」


ラスカがディークリフトに目を向けると、彼は固い表情のまま老人をチラッと見た。


「ここに来る途中、盗賊にあっただろ。あいつらが盗賊ではなくて暗殺者だと分かったから、嫌な予感がして来たんだ。」

「盗賊じゃと?!」

「盗賊が、暗殺者だった?じゃにゃくて、暗殺者が盗賊のふりをしていたのかにゃ?」

「なんで暗殺者だと分かったんだ?」


次々と飛んでくる言葉に、ディークリフトは面倒くさそうに目を閉じて腕を組んだ。そして思い付いたようにどこからか小さな青い石のような物を取り出すと、それを弄び始める。


しばらくして皆が静かになったのを見計らって口を開いた。


「……説明する。特に、その爺さんは盗賊の事も知らないようだからな。ここへ来る途中、俺達の乗っていた馬車が盗賊に襲われたんだ。その時は、こいつらが返り討ちにして、俺は途中の町で奴らを拘置所に連行した。


だが、どうも納得いかない点があって、そこの役人に奴らの素性を調べさせたって訳だ。」



彼らの乗っていたのは普通の馬車だった。金持ちが乗るようなそれとは違うし、商人の使う荷馬車でもない。襲われる理由がないのだ。


あの盗賊達は、相手が悪かっただけで動きは良かった。素人でないことは明らかだったことから、不利を察しても逃げなかったのは彼らがただ馬鹿だったというわけでもないだろう。


金品以外の、何か全く別の目的があったに違いない。


そう考えたディークリフトはその町の役人に身元を調べさせたのだ。その結果が、暗殺者。


「いざ来てみると領主の屋敷では不審者がウロウロしていた。で、そこからこいつらと逃げ出して来て、ここにいる。」

「不審者じゃと……」


話のながれでは、暗殺者かもしれない。老人は終始顔を青ざめさせながらディークリフトの話を聞いていた。心臓に悪そうなのでラスカはその骨ばった手を握り「大丈夫ですよ」と声をかける。


「ああ。心配ない。不審者は全員俺とこいつで死なない程度に潰しておいた。奴らは闇に紛れて静かに行動していたはずだが、最後に盛大に音をたててやったから今頃は屋敷の使用人に見つかって捕まっているだろう。」


使用人達に異変に気がついてもらうように、ディークリフトはわざと窓を割ったのだ。彼はこういう事では細かいところによく気がつく。


「奴らの狙いは知らないが、今後の行動に気をつける事だな。」


ディークリフトはそう話をまとめ、眠そうに欠伸をした。……緊張感がない。


「一睡もせずに来たから眠い。爺さん、この家に使ってない部屋とか普段誰も入らない部屋はないか。人が入れば物置でもいい。」

「物置はあるが……おまえさん、そんな所で寝るのかい?」

「まさか。帰るに決まっている。だから滅多に人が寄りつかない場所が必要なんだ。」

「?……よく分からんが、物置ならこの家の裏じゃよ。」

「分かった。帰ったらすぐに俺の代わりの者をここに向かわせる。じゃあな。」


今までずっと掌で握っていた石をしまうと、ディークリフトは居間を後にする。ケイシーと老人は呆気にとられていた。


「不思議な青年じゃのう。」

「いつもああなのか、あいつは。」

「……そうですね。私は慣れちゃいましたけど。」


ふと見ると、眠気に逆らえなかったらしく、キットが座ったままウトウトとしている。老人はそれに気がつくと、優しげに目を細めた。


「あの青年といい、この獣人の子といい、肝が据わっとるのぅ。お嬢さんも侵入者を倒してしまったようじゃから、ガントの仲間は不思議な方ばかりじゃのう。」

「おじいさん、ゴートさんですよ。」

「おお、すまんすまん。」


老人はぽんぽんっと薄くなった頭を叩きながら笑った。


「ともかく、少し休みなされ。調査はまた明日からじゃよ。」




ーーー




「厄介ごとに巻き込まれたんだって?」


翌日、レイが老人の家を訪ねて来るなりそう言った。あまりに早い応援の到着に老人とケイシーが不思議がっていたが、物置に聖域と繋がるためのルートを作ったのだとは言えない。言ったとしても、理解されない。


「……」

「ごめん、ゴート。ルイもすごく会いたがっていたんだけど、完全に回復するまでもう少しかかるんだ。それまで待っててくれる?」

「……」

「わしゃも、ルイちゃんに会いたかったにゃ……。」


そういえば、ルイは称号を授かった式典の日を除くとまだ聖域から出ていない。


「この村の問題を早く解決して、王都に戻りたいにゃ。そして、ルイちゃんに会うんだにゃ!」

「……」


ゴートも頷いている。何だかんだでモチベーションが上がったようだ。これが美少女の力!


「やる気が上がるのは良いことだけど。その前に、俺に細かい事件の説明をしてくれない?暗殺者を捕まえて目的を吐かせばいいの?」

「今回の依頼は、もともと事件ではないですよ。調査と、問題解決です。」

「事件じゃないんだ。ディークの話はそう聞こえたけど。ほら。」


レイはごそごそと小さな青い石を取り出すと、それを握る。


『……説明する。特に、その爺さんは盗賊の事も知らないからな。ここへ来る途中……』


石が光るのに合わせ、ディークリフトの声が聞こえてくる。昨日の夜の会話がそっくり流れてくるのに、レイを除くその場にいた皆が言葉を失う。


「なぜ声が聞こえてくるんじゃ?わしの声も……」

「これはね、ディークが作った音を記録する魔道具の試作品だよ。でも、この話だけじゃ足りないみたいだから、これまでの事を説明してよ。どんなに些細な事でも、全部。」

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