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LASKA  作者: 朝舞
第二章 巫女からの依頼
17/55

調査開始

「ひ、ヒール、ヒール!」


ケイシーは目をつぶり、必死に回復の魔法の詠唱をしている。ラスカの身体にもかけられているようなのだが、ほぼ無傷なので正直妙な感覚だ。


ブンッ


突然、ゴートの動きが加速した。虚を突かれた男はその拳の餌食となる。


「油断するからだ。」


その様子を我関せずと見ていたディークリフトが呟く。その巨漢からはそれほどスピードは出ないだろうと、誰もがそう思う。彼はそれを逆手にとったのだ。


ラスカは一人馬車から離れると、身を低くして少し離れた木の影に疾走する。そこに隠れていた男が驚愕の表情を浮かべるよりも先に、彼女はそのみぞおちに膝をめり込ませた。


「終わりました。この人で最後です。」


その男を引きずり出しながら、ラスカは馬車へと戻る。


「そいつも、こいつらの……にゃかまかにゃ?」

「同じ匂いがしました。」

「匂いって……。ラスカねーちゃん、にゃにもの?」


キットはきょとんとしていたが、すぐに気を失っている盗賊達に目を向ける。全部で九人。

まだ回復の魔法をかけ続けているケイシーを止め、とりあえず盗賊達を拘束して近くの拘置所に連れていくことにした。


「こいつらと、同じ馬車に……。」


ケイシーが気味悪そうに呟く。キットがその背中を叩き、能天気に笑った。


「大丈夫、大丈夫。にゃにかあれば守るからにゃ。」

「……」

「ほら、ゴートも任せとけって言ってるにゃ。」


キットの言葉に、ゴートは少女を見て瞬きをする。賛同している、らしい。


「ケイシーさんは回復魔法が使えるんですね。何かあったときはお願いします。」

「そ、そう、か。うん、分かった。これでも一応、巫女見習いだからな。……それにしても、貴方達は強いんだな。あと、ラスカの剣の紋章……あれ、神殿のだよな?もしかして、最近称号を授かった勇者のうちの一人なのか?」


式典が行われた日から、ラスカの剣には紋章が浮かび上がっていた。戦闘時は特に光り輝くのでケイシーも気がついたらしく、しばらくその話題で盛り上がる。


その間、彼らの会話を聞いているのかも定かではないディークリフトは、相変わらず窓の外を見続けていた。




いつの間にか、その行く先の空には暗雲が立ち込めていた。



ーーー




「着いたよ。」


ケイシーが固い表情で告げる。王都から、実に二日かかった。盗賊達を通りがかった町の拘置所に連行し、ディークリフトともそこで別れた。

一緒にいた御者がひどく怖がっていた為、新たに替わりの者を雇うことになってしまった。


馬車から降りると、そこは農村のようだった。畑が広がっており、道を挟んで家が建ち並んでいる。大きくも小さくもない村だ。畑仕事から帰るところらしい人々の姿がちらほらと見える。


「みんにゃ疲れているみたいだにゃ。」


キットの言葉通り、人々はやつれて見えた。それでも彼らはケイシーの姿を見つけると、嬉しそうに声をかけてくる。


「私の父は、この土地の領主でもあるんだ。だから、皆知ってるって訳だよ。」


ケイシーが笑いながら言うが、どこか自嘲気味に聞こえた。領主の娘がわざわざ巫女を目指すことは珍しいので、何か事情があるのだろう。


「ケイシー様、お帰りなさい。」

「こんなに成長したとは……立派な巫女になれるよう、お祈りしています。」


人々の口調は丁寧だが、自分の娘を見るように気さくに話している。彼らにとって、彼女は家族のようなものなのかもしれない。

ケイシーはある家の前に立つと、その扉を叩いた。


「じぃさん、いるのか?」

「入りなさい。」


中から聞こえてきた声に促され、一行は扉を開け足を踏み入れる。


「生意気な小娘が帰ってきおったか。」


ケイシーの姿を見るなり、その老人はほっほっほっ、と笑いながら言う。この笑い方を聞くと、ラスカはとあるギルドマスターを思い出さずにはいられない。


「うむ、ガントも一緒か。それと……?」

「協力者だ。そっちの少年がキットで、こっちがラスカ。大きいのの仲間らしい。」

「大きいのじゃにゃくて、ゴート!」


キットがぷくぅっと頬を膨らませて口を挟む。


「……だそうだ、じぃさん。」

「小娘にも言っておるだろうに。まあ、よい。何か用があったんじゃろ。」

「さすがだな、話がはやい。」


ケイシーの目が真剣なものに変わったのを見て、老人も姿勢を正した。それでも腰が曲がっているのは年のせいだ。ラスカとキットとゴートも傍に座る。


「この村で起きていることを知りたい。私がいない間に、何があった?」

「あの頃とは随分変わったからのぅ。」


老人は顎に手をあて、昔を思い出すように目を細めた。


「小娘が協会に修行に出た後じゃった。最初は、確か税金が高くなりおったんじゃ。あの頃、財政が厳しかったから、予想はしておった。」


その土地を治める為の資金が足りなくなる。その財源を増やす為に手っ取り早いのは、収入源……税金を高くする事だ。


「それで、村人達はそれを納めるために今まで以上に農作業をするじゃろ。その合間に内職なんかもしておった。まあ、そこまでは良かったんじゃ。」


税金が高くなっても、まだ問題はなかったらしい。もともと、春に収穫する野菜だけを育てていた農家が、秋にも収穫できる穀物を育て始めたくらいの変化。畑も効率的に使えて荒れる心配がないと、誰もが満足していた。


「だがな、それが数年続くと作物が採れなくなってきてしまったんじゃ。肥料を使ってみても回復したのは最初だけ。畑を使いすぎて、土地の神様がお怒りになってしまったのかのぅ。詳しいことは若い者達に聞いておくれ。」

「ありがとう、じぃさん。それと……」


ケイシーがゴートに目を向けると、彼は背負っていた大きな荷物の中から包みを取り出した。この旅で、ゴートは荷物係になってしまっている。


「本当は一人一人に配りたいところだけど、無理だった。一家に一つで我慢してくれ。」

「お、おぉ。礼を言うぞ。」


小包を押し付けるケイシーに老人は目を丸くして、すぐに顔をくしゃくしゃにして笑った。所々欠けた歯がにかっと光る。


その日は老人の家に泊めてもらうことになり、夜まで昔話を聞かされた。




ーーー




次の日。

一行は老人に教えられた『無精髭の親父』の元へと向かっている。もじゃもじゃの髭の生えた男だ。

男は彼らを見つけると、ブンブンと手を振って叫んだ。


「ケイシーにガントじゃねーか!一緒にいる獣人と嬢ちゃんは誰だ?」

「いちいち大声出さないでよ、親父さん。」

「ガントじゃにゃくてゴート!」


ケイシーとキットがその男に言い返す。男は「すまんすまん」と笑いながら走りよって来た。


「親父さん、実はこの村で起きていることを調べているんだけど。」

「あぁ、そうだ!ケイシーがいない間に大変な事になってんだよ!作物は育たねぇし、腹は減るし、肥料はだめだし、腹は減るし税金は上がるし……」

「ごちゃごちゃ分かんないよ!順番よく言って。」

「腹が減ってるんだ!」


男の言葉に、ケイシーがガクッとする。最初にあの老人に話を聞いていて正解だったようだ。どうも話にまとまりがない。


結局、ラスカがこれまでの経緯を説明した。


「……というわけで、ケイシーさんと詳しい話を聞きに来たんです。」

「なるほどなぁ。だいたい分かった。」


髭親父は丸太のような腕を組み、うーんと唸る。


「確か……作物を年に二回育て始めた。畑を手入れすることが増えたからか、荒れることもなくなってだな……」


それはすでに聞いている情報なのだが、ケイシーは男の思考を中断させないように黙って耳を傾けている。


「だけど、数年経つとあまり作物が採れなくなっちまった。困った俺達は、領主様に助けを求めた。そこで、領主様は肥料を仕入れてくれたんだ。」


その肥料を使い、一旦は収穫量も増え問題は解決となったと思っていた。しかし、しばらくするとまた作物が採れなくなっきた。


「うーん……肥料も効かなくなっちまったのかなぁ。」

「ちゃんとした物だったんですか?」


ラスカは率直な疑問を口にする。ゴートがラスカに、持っていた書類の一部を見せた。ゴートが事前に調べたところによると、量はなんとか足りる位だそうだが、その価値に違和感があるとメモ書きが記されている。


一般的な肥料と、領主が購入した肥料……。

ラスカはその場で計算をして、比較してみた。


「本当ですね。普通の肥料にしては高値のような……」

「あぁ、それか。なんでも、上等な物を取り寄せたからだそうだぜ。領主様も必死だったみてぇだし。」

「おじさん、畑を見せてくれにゃいかにゃ?あと、肥料も。」


キットが、手を挙げて男に尋ねる。


「おう。こっちだ。」


男がずんずんと歩いていくその後ろを、四人はついていった。





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