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LASKA  作者: 朝舞
第一章 はじまり
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新な称号者の誕生

その日、王都にある神殿は人の海で囲まれていた。今日は、四人が神官から称号を授かる式典の日なのだ。普通に歩けない程に溢れた人混みに、ラスカは息をのみ立ちすくんでいる。


「王都って、こんなに人がいましたっけ……?」

『らすか、だいじょうぶ?えがお、えがお。』


ルイがラスカの頬を両方からつまみ、むにーっと軽く引っ張る。緊張をほぐそうとしているのだ。ラスカもルイの柔らかな頬をつまんだ。


『らひゅかぁー?』

「ふふっ。ルイは可愛いですね。」


にこっと笑うルイは、『癒しの力』の持ち主に相応しくとても可愛い。


「二人共、準備できた?」


しばらくして、部屋の外からレイの声が聞こえてきた。

ラスカとルイは扉を開けてその少年の元へと行く。


『すごーい!れい、かっこいいー。』


ルイがキラキラと目を輝かせてレイをじーっと見つめる。白くて裾の長い上着の中に、金糸で刺繍が施されたベストを着ている。腰には剣を下げているが、肩飾りまで付いているので王子様みたいだ。

レイがラスカを見て少し羨ましそうな顔をする。


「なんか、同じ剣士のはずだけどラスカとは全然違うね。」

「うーん……レイには鎧より、そっちの方が似合っていますよ。」

『れい、それがいい。ねぇ、るーは?』


ヒラヒラの服の裾をつまんでレイに見せる。期待を込めた目で見ているこの少女は、誰が見ても愛らしい。


「うん、似合ってる。着替えるの大変そうだけど。」


ルイは白っぽい、淡い黄色のワンピースを着ていた。ドレスほど豪華絢爛ではないが、この少女には合っている。さらさらの髪に小さな髪飾りが編み込まれていた。


ラスカの服にも装飾はあるが鎧であることには変わりないので、この二人の護衛のように見える。


そこに、なぜかいつもの黒マント姿のディークリフトが合流した。


「今から神官が挨拶を始めるそうだ。俺達は神官の合図で出ればいい。」

「じゃあ、それまで待機ですね。」

『あ、ほしよみー』

「ルイ、ここで待機だってば!」


神官の側に控えている星詠みの元へ駆け出そうとするルイに、レイが肝を冷やしている。こんな状況でも、あちらは平常運転のようだ。


「ところで、ディークリフトさんは、着替えないんですか?」


神官が「世界の危機」だの「数年前から探し求めていた希望」だの話しているのが聞こえ緊張してきたラスカは、気持ちを紛らわせるためかそんなことを口にした。

話を振られたディークリフトは一瞬口をつぐむと、ぽつりと言った。


「確かめたいことがある。それによっては、俺は称号を承ることを辞める。」

「そう……なんですか?」


今さら引き下がれる雰囲気でもなさそうだが、ディークリフトは本気でそう考えている様子だ。


こうしているうちにも、四人の出番が近づいてきた。




☆★☆★




「私達は、新たな称号者の誕生の見届人となるのです。」


神官は、ヴェールで覆われた口元を綻ばせていた。ようやく、念願のこの時を迎えることができたのだ。しかし、合図に合わせて登場した四人のうちの一人を見て、緩んでいた頬は強ばる。


ーーいったい、何を考えてんの?非常識にも程があると思うんだけど。


黒マント姿で出てきたディークリフトに、神官は厄介なのが星の導きにあったものだ、と怪訝な表情をする。

しかしそれは内心で思うだけで、見た目は微笑みを浮かべる完璧な神官の顔だ。


観衆はというと、盛り上がりの絶頂にあった。黒マントの月夜の魔導士は今ではかなり有名になっていて、皆がその素顔に興味を持っている。そしてその後ろに立つ双子と少女の姿に、驚きを隠せずにいた。新たな称号者となるのが、まさかこんな子供だとは予想していなかったのだ。


ディークリフトは観衆の様子を一通り見ると、神官から声を拡声するための魔道具を受けとる。式典では、代表者として彼が挨拶をすることになっていた。


前に進み出たのを見て、皆が静まり返る。


「最初に言っておくべきことがある。俺は、称号者としては向いていない。」


歴代の称号者達とは明らかに違う挨拶に、誰もが自然に引き込まれる。


「俺は、誰かのために魔物を討伐してきたつもりはない。勇者になるきもなかったし、有名になりたかったわけでもない。金や名誉にも興味ない。俺はただ、自分の為だけに動いてきた。」


自分のために魔物を討伐する。しかしそれは、お金や名誉のためではない。

では、いったい何のために今まで戦ってきたのか。


「魔物討伐は、生き甲斐だった。ただそれだけだ。」


…………それだけ?


彼の話に耳を傾けていた者のほとんど全てがそう思った。生き甲斐だけでここまでできるなんて普通ならそう簡単には信じられない。ただ、月夜の魔導士の口から言われると、なぜか納得してしまう。


「だから、俺は称号者としては向いていない。世界のためとか、誰かのために力を使う気はない。称号を承ることに同意したのは、世界の危機とやらに魔物が関係しているらしいということと、俺達の活動が結果的に世界を救うことに繋がっているということ、今までより活動しやすくなるということで引き受けた。


しかし、こんな俺が称号者になって、本当にいいのか。それが知りたい。」


最後の言葉は、全ての人に投げ掛けられたものだった。称号者として、勇者として相応しくない者を認めてくれるのか、と確認しているのだ。


パチパチパチ……


どこからか拍手が聞こえ、それをきっかけに瞬く間に増えていく。満面の笑みの者、頷きながらディークリフトを見つめている者、期待を込めた眼差しの者……。拍手は大きく一つにまとまり、音が空気を震わせながら、身体の芯にまで届くほどだった。


「……それが答えなら。」


ディークリフトは仮面に手をかけると、放り投げる。仮面の下から現れた顔は、満足そうだった。


「ここにいる者達の為になら、力を使ってもいい。」


マントを取り払うと、そこには言葉に表せないほどに美しい青年の姿があった。綺麗にまとめられた銀髪に、魔術師が着る濃紺のケープがよく映える。


ディークリフトは右手を上空に向け、ぱぁっと花が開くように手を広げた。歴代の称号者達は、挨拶の後にその力を披露することが多く、一種の慣わしとなっていたからだ。


空にポツポツと美しい氷の結晶が現れると、パリンッと音をたてながら弾けていく。細かくなった氷の結晶は日の光に煌めきながら落ちていくのだが、人々の元に届く前に溶けて消えていった。


幻想的な光景のなか、神官は前に進み出ると杖を天に掲げた。


「新たな称号者達に、祝福を。」


杖から暖かな光が溢れ、四人の中に流れ込む。





この年一番の歓声が、神殿を包み込んだ。

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