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LASKA  作者: 朝舞
第一章 はじまり
1/55

出会い

初めての作品で、投稿も初めてです。

更新のペースはかなりゆっくりですので、予め御了承ください。



ファンタジー初挑戦にて、いきなりの長編(?)

ぼちぼち頑張っていこうと思います。



気に入ってくれると幸いです。 朝舞

景色がが真っ白に塗り潰され、気がついた時には美しい緑に覆われた場所が目に飛び込んできた。湖の見える森、風に波打つ草原。空はまだ濃紺の色を残していて、地平線がようやく白み始めた頃だった。


顔を、全身を叩きつけるような強い風に目を細めながらも、その少女はどこまでも広がる絶景をしっかりと見ていた。


ーーここは、天国?


少女はそう思った。

ぎゅっと、腕の中の大切な宝物を固く抱きしめる。


ーーこれが、きっとあの人の元に導いてくれる。


ボロボロの布にくるまれたそれを持つ腕に、力が入った。


少女は、眼下に広がる草原に、ポツリと家が建っている事に気がついた。家というよりも、屋敷だ。その扉が開き、誰かが出てくる。


どくんっ


少女の胸が大きく脈打つ。


おそらく、青年だ。何かを探しているのか、周囲を見回している。


どくんっどくんっどくんっ……っ


少女の鼓動が速くなる。


ーーえ……


青年の銀色の長い髪が風になびいているのが見えた。その次に、陶器のような白い滑らかな肌。その青年が、少女の方を向く。


どくんっどくんっどくんどくんどくん………


整った顔をしていた。目が、すっとした鼻が、形のよい唇が、だんだんはっきりと見えてくる。青年の灰色がかった瞳が少女を捉えた。二人の視線が交差する。


ーーだめ……っ


青年の目が、大きく見開かれた。




ーーぶつかる!!!




ーーー




一人の青年がその屋敷から外へと出てくると、群青の早朝の空気を取り込むように、息を吸った。そしてどこまでも続く森と草原を眺めながら軽く背伸びをする。


彼の名は、ディークリフト。


この屋敷の若き主人にして、この世界に住む数少ない住人。


そして、この世界の創造者である。




そこへ、一筋の光が射し込んだ。朝を知らせる日の光とは違う輝き。ゆらり、と、草花が揺れたーー風はない。


揺れる草花の上に、徐々に光の粒が集まり始め、収縮し、虚空にぽっかりと穴を空けた。人一人が通れるほどの穴の向こう側から、熱砂と共に一人の小さな少年が現れる。


少年がくぐり抜けると、空間に空いた穴はふさぎ、また元の静けさが戻った。


そんな異常な光景に驚く者は誰もいない。どんなありえない事もこの世界ーー聖域と呼ばれる小さな世界では、常識となってしまうのだから。



少年は服についた砂埃をはらい、被っていたフードを外す。美しい金髪が夜明けの朝日に煌めいた。白い肌は土で薄汚れているものの、少年の可愛らしさが損なわれるほどではない。その顔はあどけないが、子供に似つかわしくない雰囲気を纏っていた。


「帰ったか、レイ。」


屋敷の庭で準備運動をしていたディークリフトは、少年に声をかけた。

レイが現れたのは聖域に唯一建つ屋敷の庭。

広い庭で毎朝運動をするのは、屋敷の主、ディークリフトの日課である。


「ただいま、ディーク。」


ここ数ヶ月、レイはある人探しの為にあちこちを歩き回っていた。薄汚れた服を見れば、それがどれだけ大変なものだったかが分かる。

どこか雰囲気が暗いのは、旅の疲れもあるだろうが…


「…だめだったのか」

「まあね。手掛かりなしだよ。」


旅の成果は得られなかった。

ディークリフトはそれ以上は何も聞かず、レイも屋敷へと入っていく。


「…ん?」


中へと足を踏み入れた瞬間、レイは何か……妙な違和感を感じた。嫌な予感、というべきか。


「……」


レイは考えていたことを振り払うように頭を振り、そのまま自分の部屋へ向かう。今は少しでも休みたかった。しかし、部屋に向かうほど、最初に感じた違和感……知らない何かの気配が濃くなっていく。そう感じながらも、自室の扉を開いた。




「……え」


部屋の前で、レイは自分の目を疑い、立ちすくむ。彼の能が、目の前の出来事を認識出来ずに機能停止する。

部屋のベッドの上では、少年をじっと見つめる、見知らぬ少女の姿があった。


「……ディーク!」


ぱたんっと扉を閉め、レイは悲鳴にもにた声をあげる。そのままマントを翻しながら庭へと飛び出すと、怪訝そうな表情の彼を見つけた。


「なんだ。」

「聖域に、なんで……っ、そもそも、まだ子供でしょ!いくらなんでも、連れ込むなんて犯罪だよ、犯罪!」

「落ち着け、レイ。それに、お前も子供だろう。」

「落ち着いてられるかっ!説明してよ?!」


強引に青年を引きずりながら、レイは再び部屋まで向かっていく。ディークリフトはなんのことだか分からない、とでも言うように首を傾げた。


「レイが留守の間に連れ込んだといえば……ああ、シャルロッテの事か。街を歩いていたら偶然見つけて、その可憐な美しさに、つい、な。」

「ディークリフト……」


普段はディークと呼んでいるレイが、本名でそう呼ぶ。それだけで彼が怒っていることが分かった。心なしか、声も震えている。

ディークリフトは一応頭を下げることにした。


「……すまなかった。勝手に部屋にでも入っていたのか。」


彼が素直に謝るとは珍しいが、レイは無言で扉を開ける。

ベッドには、やはり謎の少女がいる。


「シャルロッテ。ここはレイの部屋だ、来なさい。」


ディークリフトの声に、窓辺にいた一匹の子猫が二人のもとに近寄って来る。足元にすりよる子猫を彼は普段よりも柔らかい眼差しで見つめ、抱き上げた。子猫と戯れる美青年。実に絵になる光景だ。


「おー、いい子だ。」


『街を歩いていたら偶然見つけて』

『その可憐な美しさに』


「……ディーク……」


ディークリフトの言っていたのは少女のことではなく、子猫のことだったようだ。


「ほら、愛くるしいだろう。」

「いや、この状況で重要なのはそっちじゃないでしょ。」

「違うのか。」

「……。」


そう思っているのは貴方だけでしょうね。

レイも流石に疲れてきて、ただ少女を指差し訴える。

ああ、とようやく気がついたようにディークリフトは少女を見た。


「拾った。」

「拾った…?猫では飽きたらず、人を…?」


レイは頭を抱えながらディークリフトを見る。次第にその目が、だんだん冷たい光を放ち始めた。

普通の人なら耐えられず、恐怖さえ感じてしまうものなのだが、この青年は普通ではない。


「誤解だ。正確に言うと、庭に落ちてきた。

俺はそれを拾っただけだ。」

「落ちてきた?どこから?」

「知るか。」


人が落ちてくるような場所は聖域にはない。

そもそも、この世界には特定の者しか入れない。ディークリフトが創ったこの場所は、外の世界と分離されている。


少女は、ベッドに腰をおろして二人の話す様子を伺っていた。レイよりも年上だろう、14、5歳くらいか。意思の強そうな大きな目。腕には、レイの背丈ほどの大きくて長い荷物がしっかりと抱えられていた。


「言葉が通じないんだ。だから頼む、レイ。」

「……そういうことなら仕方ないね。」


レイはため息をつくと、少女の方へと歩みよっていった。



(初めまして。オレは、レイ。)


レイが少女に対して行ったのは、いわゆる念話だ。少女は驚愕の表情で少年の目を見た。


(よろしく。)


レイは少女に手を差し出す。

彼女はすこし躊躇したあと、その手を握り、しっかりと握手した。少女のものとは思えない硬い掌の感触に、レイは少し驚く。


(君が倒れていたところを、ここの主が助けたみたいなんだよ。)


言葉を慎重に選びながら、レイは少女に説明する。いきなり、あなたは空から落ちてきたのです、とは言わない。話が進まなくなる。


(そこにいる人が屋敷の主、ディークリフト。オレはディークって呼んでる。)

(あの人が…?)


少女は主人の姿を意外そうな顔で眺めた。

ディークリフトは子猫の肉きゅうをふにふにと触っているところだった。長い白銀の髪はいつも通り無造作に束ねられ、屋敷の主の厳格なイメージを崩壊させている。


だが、彼がだらしなく見えないのは、それ以上に美青年だからだ。黙っていれば精巧な彫刻か人形のようだ。女性なら誰でも虜になってしまう。

しかし、少女は尊敬の目で彼を見ただけだった。まだ若いのに屋敷の主人なのか、と感心している程度の反応だ。


見た目だけで判断しない所は好感が持てる。


(君はどうして、どうやってここに来たのか知りたいんだ。)

(それが、分からないんです。)


困ったように答える少女に、レイはそれほど驚かなかった。稀に、外の世界から迷い混んでくる者はいる。落ちてきた者はいなかったが。


そうだとしたら、この少女がとても不憫に思えた。訳もわからず、知らない場所で落下する……きっと、怖かっただろう。


(大変だったね……、オレが家まで送ってあげるよ。アレスティア王国かな?)

(……)

(……君、名前は?)




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