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1話


 俺の恋人と親友が裸で絡んでました。

 よりによって、俺の部屋の俺のベッドの上で。


 てな訳で、人生初の修羅場を体験中。

 ローテーブルを挟んで俺と向かい合うのは、親友であり幼馴染みの遊貴(ゆうき)と、クラスメートで恋人の切人(きりと)だ。

 よくある痴情の縺れというやつだが、悲しいかな今ここには男しか居ない。そう幼馴染みも恋人も、もちろん俺も男。

 ああ、むさ苦しくてたまらん。誰か潤いプリーズ!


「おい、流? 聞いてるか?」


 二人の背後に見えるベッドから意識を逸らしたくて、わざと現実逃避をしていると、切人から強めの声が掛かかった。

 あ、やべ。聞いてなかったわ。


「きーてる」


 だからな、と改めて切人が話し出した。


「俺は遊貴に近く為に、お前に告白したんだ」


 おいおいおい、それ言っちゃう? 利用して裏切る気満々でしたって宣言してるのと一緒だよ?

 そこは嘘でも『遊貴の事が好きになってしまったんだ!』くらい言えよ。

 つらつらと今だ続いている、自己弁護だか墓穴掘ってんだか判らん切人の話を右から左へ聞き流す。

 正直、まともに聞いていられない。

 聞けば聞くほど、自分の感情が冷たくなっていくのが判る。俺が向ける視線が、鋭く冷たいモノになっていっている事に切人は気付いているだろうか?


「お前の事も、付き合っているうちに本当に好きになった。だけど、守りたいって思ったのは遊貴なんだ。だから別れてほしい」


 やっと終わったか。なげーんだよ。最後の一言にたどり着く前にどんだけ迂回してんだか。

 俺達二人ともを好きになってしまって自分も辛いんだ、と切々と語る切人。

 俺には切人が悲劇の主人公よろしく自分に酔ってるだけにしか見えん。好きだと言う言葉も、もはや上辺だけの薄っぺらいものにしか聞こえない。


「……切人……」


 そんな切人を頬を染めながら見つめる遊貴は相変わらず可愛い。うん。

 でもさ、今の話に感動する所あったか?

 切人の言い分を纏めると、『最初は遊貴狙いだったけど、途中から気が変わって俺ら二人とも弄ぶ事にした』ってなるんだぞ?

 まぁ、かなり暴論ではあるが。要約するとそんな感じだ。

 長い間二股してたのを、悪びれもせずに堂々と言い切る奴のどこに魅力を感じるんだ?

 むしろ百年の恋も冷めかねないと思うのだが。

 俺は疑問をぶつけるように、遊貴を見詰める。


「ごめんね、流。切人は、僕が落ち込んでいる時にいっぱい励ましてくれて……そんな優しい切人の事が本当に好きになってしまったんだ」


「またかい」


 あ、しまった。思わず突っ込んでしまった。

 だってさ、いつも同じパターンで恋に落ちてるんだよ? 俺でなくとも、またかと言いたくなるだろう。


「うん。また、だね」


 遊貴は俺の言いたい事が判っているのだろう。少し悲しそうな顔だ。

 少し前の俺なら、こんな表情の遊貴を放っておかなかった。遊貴を笑顔にするために何でもしただろう。

 今はもうする気にはならないが。


「諦めなきゃって思った。でも、切人も僕の事を想ってくれてるって知ったら、諦めるなんて出来なくなったんだ」


 なら何故、付き合い出してすぐに言わなかった。

 思わずツッコミそうになったが、かろうじて心の中だけに留める。何故、なんて聞くまでもなく判りきっているからだ。

 切人は遊貴に好きだといいながら、俺と切れようとしなかったのだろう。

 それは切人の話から察せれたし、なにより遊貴は惚れた相手にとことん一途に尽くしてしまう。二股されてても、切人に強く意見する事は出来なかったはずだ。

 遊貴が過去の恋人達にどんな風に尽くしてきたのか、実際に見てきて知ってるからな。俺は。

 だからといって許せる訳じゃないが。

 切なそうな目で俺を見詰めてから、遊貴は頭を下げる。


「流、お願いします。切人と別れて」


 これまでならば、すぐに了承していただろう遊貴からのおねだりも、今の俺には効果がない。

 凪いだまま微かにも動かされない気持ちに、自分でも驚きだ。

 遊貴はしばらく頭を下げ続けていたが、反応の無さに焦れたのか、顔を上げた。俺と目が合うと息を飲み、顔を青ざめさせる。

 そんなに怖い顔してるか? ……うん、変化なし。

 遊貴の反応を見て、俺は自分の顔に手を当てた。軽く頬をさすって少し考える。

 そういやアパートに帰ってきてから、喋った以外で表情筋が動いてないような。変化が無さ過ぎか?

 しばらくしてから、やや俯き加減になっていた顔を上げると、まだ少し血の気の引いている遊貴と、不愉快さを隠しもしない切人の顔が目に入る。

 顔を上げても喋ろうとしない、おそらく無表情の俺に、心配顔の遊貴、不機嫌そのものの切人。

 わあ、何このカオス。

 とりあえず切人、お前は何でそんなに偉そうなんだ? 不機嫌になっていいのは俺の方だろ。しばらく放置してたのは悪かったけどさ。

 まあ、謝る気はないがな。はっはっは。

 戸惑っていた様子の遊貴が、何かを決意した表情で口を開く。


「自分でも勝手な言い分だと判ってる。でも、流には僕らの事を認めてほしいんだ」


 俺を見詰めたまま、グダグダと言い訳することなくストレートにはっきりと言い切る遊貴。

 相変わらず男前だな。

 場違いだと判っているが、彼氏の前では決して出さないはずの素の遊貴に少し嬉しくなる。


「……条件がある。それを二人がのむなら切人と別れるし、二人の仲を祝福するよ。どうする?」


 急に話し出した俺に、切人は訝しみ遊貴は笑顔を浮かべる。

 真逆な反応なのが笑える。表情には出さないけど。


「どんな?」


 やや固い声で切人が聞いてきた。

 そんなに警戒しなくても、無茶な要求はしないつもりだよ。

 俺は一本立てた指を二人の前に突き付ける。


「まず一つ目は、引越費用と新しい家具の購入費を全額負担すること。もちろん二人でね」


 途端に遊貴が素っ頓狂な声をあげた。


「は?? 引越し? 何で?」


 一瞬顔を見合わせた二人が、首を捻る。

 意味不明と言わんばかりの反応にイラつく。

 何で、だと? 言わなきゃ判らんのかい。


「あれだけギシギシあんあんしてて、マジで判んない? それに、今日が初めてじゃないでしょ。他の部屋の住人から、俺がどんな目で見られてると思ってんの」


 目に怒りを込めて交互に二人の目を真っ直ぐ見つめれば、流石に気まずいのか目を逸らされた。


「……悪い……」


 切人が小さな声を出す。

 謝るくらいなら、始めからすんなっての。

 部屋の前に帰り着いた時マジでビビった。玄関のドア閉まってるのに、盛大にベッドの軋む音と、やや高めとはいえ男の声と判る喘ぎ声が聞こえてきたんだから。

 夕方で周りの喧騒だって小さくなかったのに。

 あの時間帯であれでは、深夜にはどれだけ響き渡っていたのか。考えるのも怖い。

 夏頃から急に変わったアパートの住人達の態度。その頃から今日みたいな事を続けていたとするなら、それにも納得だ。

 嫌がらせが無かった分、周りの住人達の人の良さがよく判る。それだけに、掛けた迷惑とおそらく嫌われているだろう事実が、よりいっそう辛い。

 二人の反応を確認しながら、ローテーブルの上のノートパソコンに手を伸ばした。


「納得したみたいだな。それと、このアパート、家具家電付きでな。ここを出たら家具とかイロイロ揃えなきゃならんのよ。そーゆー事だから、よろしく」


 嫌とは言わせん。お前達に拒否する権利があると思うなよ。

 強欲とか言わないように。バイトで生活費を稼いでる俺には、金銭的な余裕はないんだ。

 二人の無言を了承と受け取り、話を進める。


「誓約書を作る。異論が無いならそれにサインしてくれ」


「誓約書?」


「逃げられたら困るからな」


 切人の呟きに、パソコンから顔を上げずに答える。


「逃げたりしないよ! 僕らはそんな」


「信じると思うか?」


 言い募ろうとする遊貴の言葉に被せた。

 何を言われても、俺はもう二人を信用できない。聞くだけ無駄だ。

 すべて今更なんだよ、遊貴。

 一度無くした信用は簡単には戻らない。





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