牛
ある所に、一人の男がいた。
男は日雇い労働により、その日暮らしの金を稼いで生活していた。
その日、男が荷台に牧草を積んで運ぶ仕事をしていると、男の行く先に一匹の痩せた牛が現れた。
「おい、牛。何をしている」
男が牛に問うた。
「食べ物を探しているのです」
牛は答えた。
「ならば俺が運んでいるこの牧草を喰らうがいい。今日一日位は凌げるだろう」
そう言って、男は牧草を一掴み、牛に与えた。
牛はこれを喰らうと、男に言った。
「お礼に貴方を大金持ちにして差し上げましょう」
牛は乳牛だった。
牛は良質な牛乳を出し、男はそれを街で売った。
牛乳は街で飛ぶように売れ、男はたちまち大金持ちとなった。
飢えに苦しむこともなくなり、やがて男は毎日を豪勢に過ごすようになっていった。
男は、大きな牧場をいくつも経営する大富豪となっていた。
毎日のように肉を貪り、酒を浴びるように飲んで暮らしていた。
ある日、男は牧場の牛舎を視察にやって来た。
そこにはあの牛がいた。
「どうですか? 私の言うとおり、大金持ちになったでしょう?」
牛は男にこう問うた。
――モゥ、モゥ
「うるさい牛だ。おい、こいつを切る刃物を持ってこい」
男は牛の首を切り落とし、肉にして売り払った。