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欠片たち  作者: 稲井
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宛名

親愛なるあなたへ


こんな堅苦しい言葉で始めるのは不思議な気がします。

あなたは本当に遠い所にいるのだと思い知らされるようです。


お元気ですか、と問うのは少々野暮でしょうか。

あなたならきっと元気に過ごしているでしょうから。


何故か手紙が書きたくなって、そしてあなたの顔が浮かんだのです。


私は今までとさして変わらない生活を送っています。

煙草もお酒も未だ止められません。

あなたがいないと私の決意は維持できないみたい。



音楽はずっと同じものを聴いています。

あの曲の独特なリズムは鼓動のようにすっかり身体に馴染んでしまいました。


寂しい、とは一度も口にしていません。

偉いでしょう?

弱さを隠す術を会得したのです。


今隣にあなたがいて、一緒に呼吸をして、一緒に眠っていたら、どんなにいいでしょう。

違うタイミングで笑ってお互い気まずくなって、小さなソファーにくっついて座ってそれぞれ違う本を読んで。


変わっていく事を恐れはしません。

移ろう季節に感傷に浸ることもない。

でも、不意にあなたを思い出すと、心臓がキュウと痛くなるのです。


これが「好き」なのでしょうね。

あなたがいたときには気付けなかった気持ち。

気付かせてくれたのがあなたでよかった。


いつかまた、あなたに会える気がします。

その時はちゃんとこの気持ちを伝えます。



だからどうか私を忘れずにいて。




丁寧に封をしたその手紙は投函せず、一ヶ月後に捨てた。

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