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エピローグ

 これが、あの日の顛末である。まだ、彼等が天使だった頃の出来事だ。

 


 月日が経つうち彼は計画どおり別の星の大学に入学し、家を出て、そして子供だった日の記憶を失くしていった。

 大学では同級生の章子(しょうこ)という女の子と交際を始めた。彼と彼女が知り合ったのはメールで、彼女がアドレス帳に見慣れない彼のを見つけて送ってみたことがきっかけだった。

 彼女は茶色い髪のとても明るい子で、聡明だが口も少々悪かった。手術を繰り返し入院生活が長かったらしいが、飛び級で入学したそうだ。

 誰かに似ていたが、それが誰だとははっきりしなかった。勿論、昔に会ったことがあるはずもない。


 大学に入って最初の夏休み、彼は帰省した。ギイから仮退院したとメールが来て、久しぶりに故郷の星で会おうということになったのだ。

 宇宙ステーションからローカル線に乗るとき、あの遊園地の駅を通った。

 彼は去年遊園地が潰れたニュースを聞いていた。その時は漠然とした淋しさしか感じなかった。あまりに遠い世界のような気がして。

 今その跡地には遊具などの名残もなかったが、それを見ても彼はさらに何も感じなかった。

 あそこにはまるで最初から何もなかったように。

 ギイはどういう気持ちで聞いたのだろう、自分の運命を変えた遊園地が消えたという知らせを。


 実家に帰る前になぜか、ギムナジウムに立ち寄った。校舎は相変わらず間延びした灰色をしていた。グラウンドからは生徒たちの掛け声が聞こえる。

「よう、ジョシュア」

 振り返るとあのサッカー部の顧問だ。だが今は将棋同好会の顧問だ。

「相変わらずか」

「ええ、まあ…」

「ギイは今工場で働いてるってな。章子は同じ大学らしいけど元気か」

「ええ…先生、どうして章子を知ってるんですか?」

「知ってるも何も…君等三人、よくつるんで悪さばっかりしてたじゃないか。最後まで、ほら、僕がキャンプ場に迎えに行った時も逃げ出して」

「よくつるんで、って…」

 その瞬間、彼の脳裏を様々なことが駆け巡った。


 彼等の声が聞こえる。彼等の、いや、僕等の声だ。

 章子、ショウコ、璋――彼女は昔、僕等の中のひとりだったのだ。昔、僕等は天使、少し生意気に熟れただけのこどもだったのだ。


 どうして気づかなかったのだろう。ガリガリだった璋とは違う、女の子らしいふっくらとした顔立ちにさえ何度もその面影を認めていたのに。

 確かに彼女はもう璋ではない。それでも僕は彼女が好きだ。彼女の中に璋は確かに生きている。


 教師は教えてくれた。璋は自殺を図った後、再生医療で何度も手術し、やっと外に出られるようになって進学したこと。

 その頃には完全に女性化したが、海馬のあたりに障害が残り記憶がいまだ不完全であるらしいこと。

 ギイもそこまでは知らなかったのだ。


 僕等は…そうだ。皆それぞれに成長してしまったけれど、きっと、今からでも遅くはない。ギイに会ったら、すぐに章子も呼んで、もう一度あの遊園地へ、あの場所へ行こう。

 もう一度、あの場所で新しい朝を迎えよう。



 人間は変わる。変わらずにはいられない。

 だが、いつまでも変わらないものだってある。

 思い出は消えていく。消せずにはいられない。

 だが、どうやっても消えないものがあるのだ。


 あの日から僕はずっと考えていた。

 この透きとおった正体不明の僕等の感情は何だったか、それを忘れて生きていけるのか――。



「本当に仲がよかったんだな、君達は」

 顧問の声に、僕は我に返った。そして、顔を上げて言った。



「はい、僕等、ずっとずっと友達でした」


                           ―了―

やっと終わりです。

15歳の私と31歳の私が書いた、初の長編でした。


おつきあいいただきありがとうございました!

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