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あの日の幕切れ。彼はやわらかな斜陽のかかる病室にいた。あれから二日ほど経っていたらしい。
家族がベッドを取り囲んでいた。母が泣いていた。滅多に手を上げぬ父は彼の頬を殴り、肩を抱いた。
外傷も少なくスキャンも異常が見られなかったので、彼はその日一日だけ入院して家に帰ることになった。
隣の病室には多分、璋もギイもいた。しかし、母親や事情聴取に来ていた刑事がずっと側にいたために一言も話すことはできなかった。
きっとこれで終わりだ。彼は痛感していた。
そして眠れない夜が明け、彼は退院した。
家に戻ると全てが変化していた。
予想通り横田の件やギイの殺人事件との関連性を考えたマスコミは騒ぎ出し、慌てた学校側と親によって彼の転校手続が取られていた。
今度の学校は男子校だった。割合話のできるやつが多かった。しかし、彼があの渦中のギムナジウムからの転校生だということは皆知っていたのだろう、理由のない気まずさがいつも隣にあった。
その後しばらくたって、風の便りにギイが裁判ののち別の星の少年院に送られたことをニュースで聞いた。
ある日、璋からメールが届いた。
『件名:ジョシュアへ From 璋(syo-h.amphitoryon@xx.xx)
こんな風にお前にメールするなんて思ってもみなかった。だけどオレにはもう時間がない。だから伝えておく。
神様がオレを殺しに来た。だから、たぶんもう会えない。
オレはお前が好きだった。今でももちろん。だけど、その「好き」は昔のオレの「好き」とは違う。オレはもう、昔のオレではなくなってしまっている。
オレはジョシュが好きだけど、ジョシュの好きな璋は、もうこの世から消えてしまうんだ。きっと完全に変化したら、この手紙を書いたことも忘れるんだろう。
自分が自分でなくなっていくのは、とても怖い。もしオレに会うことがあっても声はかけるな。今これを書いてるオレじゃなくなってるんだから。
けど覚えていてほしい。オレたち、ギイと三人で過ごしたあの透明な時間は、けして偽物じゃなかった。
今まで、楽しかった。
ありがとう。
変わる前にもう一度、お前とキスしたかった。
璋』
即座に返信したが、璋のアドレスは既に抹消されていた。日付は二日前だった。
もう璋は、脱皮してしまったのだ。彼やギイより先に。
いや、もはや璋ではなく、別の、女の子だ。
それは確実に彼等の終焉を示していた。璋はもういないのだ。どこにも。
一人なくして、彼等が成り立つ訳がなかった。
そして彼は声を殺して泣いた。