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13

 残酷にも、迎えは翌朝突然にやって来た。駅で出くわしてしまったのだ。

 それは彼等が大人の中では最も信頼していたサッカー部の顧問だった。

 教師は早速諭しにかかり、自分も彼等ぐらいの頃、このキャンプ場に家出したことがあると言った。

 所持金も没収され、彼等の計画はいっぺんに破壊された。

 まだ誰にも連絡していない、家族には自分が説明して聞いてもらうからと教師は言ったがそれは疑わしく(やはり生徒の安否を保護者に知らしめるのは当然の務めだから)、彼等は大人が自分達の将来に関わり合うことを怖れた。

 そして何よりも既に事件として世間に広まっているはずの、ギイの家であったことについて教師は一切口にしなかったことが逆効果だった。いつ見つかるかというのは時間の問題だということが彼にもはっきりと理解できていた。

 彼等は教師を突き飛ばし、再び逃亡した。まるで坂道を下りだした、止まらぬボールのように。

 誰かが止めてくれなければ止まらない、しかしそんな誰かも彼等にはもういなかった。

 転がってゆく、転がってゆく――。


 最終的に着いた場所は、海だった。



 彼等は、海の側の自分たちの町に戻ってしまっていた。

 理由は失われており、このまま留まっていても見つかってしまうのは解っていた。しかし、彼等はあまりにも疲れ果てていた。

 誰も、何も言わなかった。そして、穏やかな水平線を見つめていた。

 傾き始めた太陽に晒された水は鈍い群青色に光り、海鳥たちが艶のある鳴き声を上げた。

 車のドアの開く音。彼等の体は強張り、刹那、息を止めていたが次の瞬間、海に向かって手を繋ぎ駆け出していた。

 彼等は天国に行けるのだろうか、横田に会えるのだろうかと彼は考えた。

 璋の黒髪の色が少し抜けてきたように見えた。

 水の限りない碧と、璋の髪の毛の茶色が目の前で徐々に混ざり合った。

 そこで彼は気が遠くなった。



 あれはいつのことだったのか。

 キャンプ場に行く途中の踏切でのことだった。 


 璋は黙ったまま線路に立っている。シストラムが警笛を鳴らしながら走ってくる。

 璋は動かない、シストラムを睨んでいる。

 先に踏切を渡っていた彼とギイは叫ぶ。

 璋は仁王立ちで歯を食いしばり、近づく車体に向かっている。

 ギイが遮断機を乗り越え飛び出す。彼も続く。

 あわやというところで璋の腕をつかまえ、線路脇の茂みまで引きずり込んだ。

 全く、『スタンド・バイ・ミー』の映画みたいだった。

「死ぬって、どういうことだか感じてみたかったんだ」

 あの時璋はそう言ったんだ。まるで、自分が死から一番遠い存在であるかのように。

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