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※ 今回は児童虐待についてなどかなり制限の高い描写がありますので、嫌悪感を感じる方は閲覧しないでください。

 璋の母親、それは璋のオリジナル(本体)だった。

 璋は人工授精の試験管ベビーではなくクローン、いや染色体をわざと欠損させた、いわばホムンクルスだったのだ。

「なんでかって?親父は異常性癖者だからさ。あの写真の、オレの本体は親父が昔振られた女で、そいつの髪の毛を何とか手に入れてDNAを取り出したっていうことだ。オレもついこないだまで知らなかったんだ、政府から知らされるまでは」

「どういうことなんだ?」

 ギイが訊いた。


 誕生日の検査で、璋と親父は血が繋がってないことがわかったらしい。不審にかられた璋はすぐに戸籍を調べた。すると出生届はなく、本当の親は空欄のまま養子になっていた、というのだ。

「つまり、オレはあいつの愛玩道具なんだよ。ほとんど半年は留守だけど、帰って来た日にゃ地獄さ。

 いやらしい薄笑いを浮かべてしなびたりんごみたいな手でオレを撫で回し縛りつけバラバラにし、そしてオレはずっと親だから殺しちゃいけないと思ってた。

 何が親なもんか、ふざけろよ全く!

 家政婦も知ってるんだオレが何されてるか、でも何にも言わねんだ、オレが、

 できそこないの試験管(チューブ)ベビーだから!」

「やめろよ!もういいよ、辛くなるだけだろ、わかったから…」

 彼が叫んだ。

 璋は肩で息をしていた。彼は泣いていた。

 胸の中がぐちゃぐちゃに掻き乱されたような感じだった。悔しくて悲しくて。璋の悲惨な生活が、今暴露されたのだ。

 悪寒が、軽い痺れと共に彼を揺さぶっていた。

「いいんだ、もう、最後まで言わせろ。

 抵抗すりゃ、オレガソダテテヤッタンダ、オレノイウコトハメイレイダ、

 オレは人格すら認められてないんだ。

 女になったらもう抵抗さえもできねえよ、女は受ける性でしかねえから。

 女になったらすぐ他の女子どもと一緒に一年後には家政科に入れられちまう。

 オレは娘じゃなくて愛人だよ」

 だんだん声の弱っていく璋の体が、そのまま夜の闇に溶けてしまいそうな、ふとそんな気がして、彼は璋を抱きしめた。

 一瞬身体を強張らせた璋は、静かに嗚咽し始めていた。

 ギイもやって来た。彼等は三人、固く抱き合った。


 林から聞こえる梟や虫の声に耳を澄ませ、床に敷いた毛布の中で毛布の中で彼等は夜じゅう何度も抱き合い、なんどもキスをした。

 彼が上になったかと思うとギイの下になったり、ギイは璋の下になっていたり目まぐるしく、それは夜明けまで続いた。

 友情でも恋愛でもなく、ただとてつもなくいとおしいだけ。彼等は自分自身であり、お互いを愛していた。

 


 そうして一週間が経ったが、彼等は毎日感動していた。町にいた頃に比べると、ここははるかに活気に充ち溢れた官能の宝庫だった。

 横田が生きていればな、と彼は思った。そうすれば、あいつもやがてきっと自分自身を取り戻せたのかもしれない。

 本当にここには善も悪もなく、皆は天使で、ただ混沌の中に笑っていた。


「すごく不思議な本を読んだことがある」

 と璋が言った。

「オレ達にすごく似てるんだ。男二人と女一人のカップル、知ってるか、カップルって3人でも使うらしいぞ」

 それは(おそらく)未来の破滅をテーマにしているのだそうだ。同性愛も増えて、子供が減って、人類は衰退する。今すぐではないだろうけど、そういう可能性についてのフィクションだ。

 そんなものかもしれないな、と彼は思った。地球では同性での結婚はほぼ認められたが、それを理由に人工授精を申請することは一部を除き許可されていない。

 神に背いたソドムとゴモラのように、やがて人類も滅亡するのか。

 だが、滅亡する前の地球は今彼等のいるところに似ていはしないだろうか。

 彼等の周りにあるものはすべて美しく、何も間違ってなどいないような気がした。世界に彼等しかいないとすれば、愛し合うのは当然だ。

 滅びゆくものを美しいと思うのは、おかしいだろうか。


 ここは、楽園だった。地球にもどこにも存在しない、この星にだけ残っている楽園だった。

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