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 隣県に入ってわりとすぐ、山の小さな駅から歩いて七、八分のところにキャンプ場はあった。

 十五才未満は保護者同伴でなければ駄目だったが、先に行くよう言われたとご年配の管理人に適当なことを言って中に入った。

 小屋はキャンプ地から少し離れた林にあった。無料で貸し出しの毛布は怪しまれないように4人分借り、薪や食料など必要な物は入り口の傍にある売店から調達できた。

 ここから足がつかないようにと今度の資金調達は彼がした。親の銀行口座に回線を使って侵入し引き出したのだ。コンピュータハックは兄の友達のプロハッカーに教えてもらった知識が役立った。

 璋が「冥王星まで行けるくらい出しちゃえよ」と言ったので、思わず調子に乗ってしまった。


 全ては順調だった。

 料理はギイが得意だったし、璋と彼(というよりむしろ彼)は力仕事や小屋の片づけをした。

 食後には近くの川で花火や水浴びをした。彼等は太陽が沈み一番星が見えるまで泳いだり飛び跳ねたりした。飛沫は月の光にも輝いた。

 夜の河原で、ギイは一発ずつ火花の出るスティック状のやつを恰好をつけて振りかざし彼と璋を笑わせた。写真でしか見たことがない地球の「自由の女神」とか、槍投げのポーズとか。

 璋はひときわ甲高く笑った。

 夜に酔っている彼等。

 なんとも言えない高揚した気分。

 世界の何処からも切り離された感じだった。対岸に雄叫びを届けたくなる。

 ギイは突然服を脱ぎ、素裸になって再び川へ飛び込んだ。彼がそれに続き、璋も続いた。

 彼とギイの背中は夏の陽に灼けていたが、璋の背中は同じくらいサッカーをしていたにもかかわらず不思議と新雪のように白く、魚の鱗のように光っていた。そしてその白皙は黒い髪と美しい対照を成していた。

 それは璋がまだ性の無い、またこの世のものではないということを露呈していた。

 璋だけはトランクスを穿いていた。彼はどうしても気になってしまった。

「璋の体ってどうなってんの?」

 と彼が聞くと、

「ほっとけよ」

 と璋は睨んだが、

「よし、脱がそう」

 とニヤリとしたギイが飛びかかった。


 さんざんふざけあった後で、璋の青みがかった透きとおるような白い肌に、良く見ると小さな傷が無数にあるのに気づいて、彼は慌てて璋の細い腕を捉えていた手を離した。

「バレたか。夜ならわかんねえと思ったのにな」

 璋は唇を歪めて笑った。

「これ…」

 ギイも呆然と璋の背中を見ている。

 彼も後ろに回ると、暗がりで見ても分かる大きな傷が広がっていた。

 まさか――?

 

 璋の言葉はさらに決定的打撃だった。

「オレ、本当は親父の慰み物になるために生まれてきたんだ」


 

 そして璋は誰も知らなかった彼の生い立ちを話し始めた。

この辺りから、戯曲にはないオリジナル展開になっています。

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