第62話
「別に余裕ではないだろ。ただ、依頼をこなして行けば不足の事態に遭遇する事もあるからな。その時に慌てて周りが見えなくなれば死の距離が近づいてくる。それに対処するのは強がりでもハッタリでも余裕そうに見せていないといけない」
「ハッタリなんですか?」
「いや、あれに関してはでかくて硬いだけだ」
「……その基準がわからないです。だいたい、ドラゴンが出た時、予想外って」
フィルは敵に弱みを見せてはいけないとティアナはフィル達もドラゴン相手では不安なのだと思って安心したような表情をするがフィルはドラゴンをザコ扱いしており、ティアナはフィルの基準がわからないようで眉間にしわを寄せる。
「予想外だったぞ。もう少し上のランクが呼び出されると思ったからな。魔法式を量産しているせいかあまり強力すぎる魔獣はよびだせなかったようだな」
「……あの。普通に考えるとドラゴンは強力すぎる魔獣だと思います」
フィルは魔法式のレベルを計算しているようであり、ティアナはすでにドラゴン相手に慌てているのは無意味なんではないかと顔を引きつらせると、
「補助魔法が切れると面倒だから、もう1つの魔法式も発動させるか?」
「な、何を言ってるんですか!? ドラゴン2匹相手は無理です。だいたい、今はジオさんとフィアさんが少し押し気味ですけど無理に決まってますよ」
フィルは上空に浮かんだままの魔法式を発動させようと魔法式の魔力を解放しようとするがティアナは流石に危ないと思ったようでフィルの腕に抱きついて彼の行動を制止する。
「まったく、仕方ないな……」
「あ、あの。今度は何をする気ですか?」
フィルはティアナの行動に小さくため息を吐き、魔法式の解放を諦めたようで新たな魔法の詠唱を開始する姿にティアナは首を傾げると、
「黙っていろ。結構、面倒な魔法なんだ……」
「は、はい」
フィルは集中力がいる魔法のためかティアナに静かにするように言い、ティアナはフィルの言葉に慌てて両手で口を塞ぐ。
ティアナの耳にはフィルの魔法の詠唱が聞こえるがその詠唱は彼女が理解する事の出来ない言葉で構成されており、ティアナは耳を通り抜けて行く言葉の羅列に何が起きているかわからずに上空に浮かんでいた魔法式に視線を移すと先ほどまでは完成に近づいていた魔法式は消え始めて行く。
「魔法式が消えている?」
ティアナは目に映る信じられない光景に唖然とした表情で空を見上げていると、
「……時間を戻しただけだ。慌てる事でもないだろ」
「じ、時間を戻すってそんな事が出来るんですか!? って、実は時間を戻してるから、同じくらいの年齢に見えるだけで、フィルさんはもっと上? そ、それなら、あんなに強力な魔法を次から次と使えるのも頷けます」
「……その答えに行きつくのはどうかと思うが」
フィルは空を見上げて呆然としているティアナに声をかけると平然と時間を戻したと話すとティアナはわけのわからない答えに行きつき、彼女の答えにフィルは呆れたようで眉間に深いしわを寄せる。