第61話
「それは勝手な思い込みだろ」
「で、ですけど」
「……しかし、流石にドラゴンの鱗は硬いか? 少しだけ詠唱時間を長くする必要性があるな」
ティアナは自分とフィルの周りを炎が避けている様子に驚きが隠せないようだがフィルは気にする様子もなく、自分の魔法でキズを付ける事はできても切り裂く事が出来なかったドラゴンの羽を見て次の攻撃を仕掛けるために魔法の詠唱を始め出す。
「フィ、フィルさん、あ、あのですね」
「……黙っていろ」
「で、ですけど、ドラゴンがこっちを睨みつけているんですよ」
しばらくするとドラゴンの吐いた炎は消え去り、それと同時にドラゴンの巨大な瞳はフィルとティアナを睨みつけており、ティアナは震える声でフィルを呼ぶがフィルの周りには魔力が集中し始めているようで青い光をまとっており、
「……アイシクルスピア」
魔法を放つのに充分な魔力が溜まった瞬間、青い光はフィルの右腕に集約されて行き、その光は右腕から放たれると巨大な氷の矢になり、ドラゴンの片翼を撃ち抜き、翼には穴が空き、ドラゴンはバランスを崩して地上に向かって落ち始める。
「……あ、あの。フィルさん、この状況で私やジオさんとフィアさんって必要あります?」
「何を言ってる。必要ないなら、連れてくるわけがないだろ」
ティアナは地上に向かい落下しているドラゴンを見て顔を引きつらせるがフィルは気にする事はなく、
「ジオ、フィア、行くぞ。時間がないからな」
「了解」
「やっと、出番」
補助魔法の詠唱の続きに移ったようでジオとフィリアの名前を呼ぶと先ほどまでフィルの周りに浮かんでいた光の球はジオとフィリアの身体の中に吸い込まれて行き、ジオとフィリアの身体を光が包んで行き、2人はドラゴンに向かって駆け出して行く。
「あ、あの。ドラゴン相手に2人で問題はないんですか?」
「ブレスへの攻撃は対処しているからな。後はこっちで対処してやれば良い」
「後は、ジオさん!! フィアさん!!」
ティアナは腰を抜かしたまま、フィルにドラゴンと2人で戦えるのかと聞くとドラゴンの尾はジオとフィリアを薙ぎ払うように動くが、
「悪いな。その程度の攻撃を当たってやるわけには行かないんだ」
「ジオ、その剣、私にちょうだいよ。フィルも私に魔法式が組み込まれた剣、くれないかな? ジオだけずるいわよ」
ジオは何もないはずの場所を剣で切り裂くとそこには小さな歪みが生まれ、ジオとフィリアはドラゴンの尾が直撃する瞬間にそのひずみに飛び込むといつの間には2人はドラゴンの背の上に移動しており、
「俺に言わないで、フィルに言えよ。まぁ、貰ってもお前は魔法を覚える気がないんだ。魔力の発動も上手く使えないうちは貰っても宝の持ち腐れだけどな」
「う、うっさいわよ。私なら魔剣の1つくらい簡単に使いこなせるわよ!!」
「……今はそれより戦えよ。上位種の魔法陣はもう1つあるんだぞ」
ジオとフィリアはドラゴンを相手にしているにも関わらず、ドラゴンの背の上でくだらない言い争いを始め出し、
「……どうして、ドラゴン相手にこんなに余裕そうに戦ってるんだろう?」
ティアナは常識外のジオとフィリアの様子に顔を引きつらせる。