第29話
「す、凄いですよ。フィルさん」
「……知ってる」
「あ……」
「ん? どうかしたか?」
「な、何でもないです」
ティアナはこの感動を共感して貰いたいようでフィルに声をかけるが彼は彼女の様子に少しだけ表情を緩ませるとティアナはいつも不機嫌そうなフィルの表情の変化に目を奪われたようで一瞬、動きを止めると彼女の様子にフィルは首を傾げるとティアナは顔を赤くして誤魔化そうと慌て、
「……そうか。それより、慣れないとは言え、寝ておけ。何があるかわからないからな。今日はまだ魔力があるから周囲への警戒の魔法範囲も広いが、長い間かかる依頼だと魔法が安定しない日も出てくる。その時は範囲も狭くなるし……それに魔法を無効化して無理やり入ってくる奴も出てくる」
「フィルさん、どうかしたんで……あ、あの。どちら様ですか?」
「おや。気づきましたか? 気づかないようにしたつもりだったんですけどね」
フィルはそれ以上は詮索する事もなく、ティアナをテントに戻そうとするがその途中で何かに気づいたようでティアナを自分の背後に隠すように移動するとフィルとティアナの目の前の空間は歪みだし、黒いフードを被った男が現れる。
「……こっちのセリフだ。簡単に入って来れないようにしていたはずだが」
「いえいえ、簡単になんて入れませんでしたよ。さすが、天才魔術師とまで称されるフィル=ユークリッド様です。媒体を介さずに結界を張り、同時に幻術魔法で視界で認識できないようにする視界だけでもなく気配さえも認識できないようにするなんてそこら辺の塵芥にはできませんよ」
「……それを破ってくる自分はそれ以上だと言いたげだな」
フィルは男の気配に警戒しながら、男の目的や様子を探りたいようで簡単な言葉を交わすと男は淡々とした口調でフィルを誉めるがその言葉からはフィルを明らかに格下に見ている感が見え、フィルは表情を引き締めると、
「フィ、フィルさん、ジオさんとフィアさんを」
「……動くな。あいつらなら、自分の事は自分でどうにかできる。それより、死にたくなかったら、動くなよ」
「は、はい!?」
「おや? 卑怯者のフィル=ユークリッド様らしからぬ。行動ですね。それともその娘が大切なんですか? あなたは卑怯者なんですから、その娘もテントの奥で私に気づく事なく眠りについている愚か者を見捨てて逃げれば良いじゃないですか? あなた1人なら逃げれると思いますよ? 違いますね。逃がしてあげますよ」
ティアナはフィルと男の様子に不安そうな表情でフィルの服をつかみながら、自分がテントまで移動してジオとフィリアを起こしてくると言うがフィルは男がティアナが自分から離れる瞬間を狙っている事を理解しているようで彼女を止めると男はフィルの言葉に本当につまらなさそうに言い、
「……最初に聞いておく。これはお前がやっている事か?」
「これ? あぁ、魔光石ですか? 『私』はこんなものに興味はありませんよ。こんな回りくどい事をするよりはもっと簡単に済む方法を取りますよ」
「……そうか。少なくともこれをやったバカを知っているわけではあるんだな?」
「どうでしょう? そうですね。私が満足するものを見せてくれればヒントくらいは出してあげても良いですよ」
フィルは男が魔光石を回収しにきたのか確認をすると男は魔光石には関心はなさそうだがその口調からは魔光石を作っている人間に繋がっていそうであり、フィルは表情を険しくして聞き返すと男はフィルを挑発するように言う。
どうも、作者です。
もう1本、オリジナルファンタジー小説を書き始めました。『勇者の息子と魔王の娘?』と言う作品です。
こちらよりはコメディータッチかな? と思います。