第1話
「聞いたか? あの卑怯者の息子。また、やったらしいぜ」
「聞いたよ。魔術式の新しい構築式だってよ。流石は卑怯者の息子、戦場の後ろ側で安全に戦う方法は簡単に思いつくんだよな。先陣で戦うのは逃げているくせによ」
「才能すら両親に似て卑怯なんだから嫌になるぜ」
王立であり、全ての民が平等に知識や武術を学ぶ学園の廊下を不機嫌そうな表情で歩く目つきの鋭い少年を見た数名の生徒がその少年に聞こえるような大きな声で言うが少年はその不機嫌そうな表情を変える事なく廊下を進んで行く。
「おい。聞こえているのかよ。卑怯者のフィル=ユークリッド様。俺達が命を賭けて戦場に立つ術を学んでいるなか、卑怯者の魔術師様は安全なところで研究かよ。良い御身分だな」
「……」
少年『フィル=ユークリッド』の態度が気に入らないのか数名の生徒達はフィルを囲み因縁をつけ始めるが少年はそんな生徒の様子を見て反応もせずに、
「……我が前に立ちふさがる者を焼き払え。フレイムロード」
表情を変える事なく、小さな声で魔法の詠唱を始めるとフィルの周りには炎の道が現れ、彼に因縁をつけた生徒達はその炎から飛び退くと、
「……人に因縁をつける前にやるべき事があるんじゃないのか? それともなんだ? 国を守る魔法を作る俺の実験台になってくれるのか?」
フィルは無表情でありながら見た者全てがその異様にも感じる冷たい視線を向けるとフィルの持つ他者の事など塵芥程度にしか思っていなさそうな視線にケンカを売る相手を間違えた生徒達は腰を抜かし、廊下に座りこんでしまう。
「……逃げないって事は実験台になる事を了承したと受け止めさせて貰って問題ないな」
フィルは小さく口元を緩ませると腰を抜かしている生徒達を見下しながら言い、彼の右手には魔法の詠唱を始めていないにも関わらず、大きな魔法球が形成されて行き、
「……喜べ。次に発表される予定の新たな魔法だ」
「フィ、フィルさん、待ってください。1人で行かないでください」
無情にも生徒達にその魔法球が放たれようとした時、1人の少女が息を切らしながらフィルの名前を呼ぶ。
「……知るか。俺はお前の面倒を見る義務はない」
「で、ですけど、学園長がフィルさんに学園を案内して貰えって、そ、それに私、フィルさんくらいしかこの国で知り合いがいないんですからお願いします」
「……ちっ。他人に案内を頼むなら、せめて遅れるな。俺はお前の相手をしているほどヒマじゃないんだ」
「は、はい!? す、すいません。フィルさん」
フィルは駆け寄ってきた少女『ティアナ=サークル』を突き放すように言うが彼女はある事件がきっかけにこの学園に招き入れられた特殊な生徒であり、学園に知り合いがいないため俯きながら不安そうな表情をするとフィルは彼女の表情に舌打ちをした後、魔法球を霧散させると先ほどまで見下していた生徒の事など目に映らなくなったかのように歩きだし、ティアナは慌ててフィルの後を追いかけて行き、
「……あ、あの娘、誰だ?」
「し、知るかよ。それより、もう止めようぜ。いくら卑怯者で気に入らなくたってあいつの力は危険だ。俺達の事なんてゴミクズくらいにしか思ってないよ」
「そうだ。卑怯者のあいつにこの国の教えなんか関係ない。きっと、何かあったらあいつは後ろから俺達を狙い打つに決っている」
その場に残された負け犬達はフィルへ恨みや嫉妬を混ぜた視線を送るがそれ以上に彼らの瞳の奥にはフィルに植えつけられた恐怖が刻まれている。