生徒会長シャルロッテ様は、魅了騒動でも内申点を守りたい!
なんというか世も末!ナーロウ魔法学院では、今魅了の魔術が大流行だった!
あちらで婚約破棄!こちらでざまぁ!木陰ではラブシーン!この学校の風紀はいったいどうなってしまうのか!?
生徒会長を務める公爵令嬢シャルロッテは報告書を読む手を震わせ、ついに真っ二つに引き裂いた。
「わたくしの婚約者(王太子)まで最近入学してきた聖女の取り巻きの一人になっているではないの!どういうことなの!!!」
「お嬢様。貴族たるもの、そのように声を荒げてはなりません。」
執事のディアンが冷静に諌めてくる。この執事はこの執事でいい性格をしているので、面白がっているだけという可能性も高いのだが。
「荒らげずにいられますか!?婚約破棄、ざまぁ、ドアマット、契約結婚!ものすごい勢いで学院から人が流出していますのよ!卒業を待たずに結婚をしてしまう人も多々!」
「まさに大後悔時代ですね(笑)」
「何もうまいこと言えてなくてよ!」
やはり面白がっていた。シャルロッテは扇子をばきりと力任せにへし折った。片手で。
「なぜわたくしが会長の時に限って学院の魔術封じの結界が壊れてしまうの……
おまけに修理のために呼び寄せた聖女も男子生徒に囲まれているし……」
「聖女ならぬ性女。なーんて」
「少しは静かにできないの!?いくら幼馴染とは言ってもいい加減罰を与えるわよ!?」
「あ、自分、公爵さまに雇われてるのでお嬢様の一言では無理ですね(笑)」
「執事にまで舐め腐られてる……!」
そう、今この学院に訪れている危機。
それは魔術封じの結界が壊れた隙に魅了のアイテムやら術やらバカスカ持ち込んだアホの学生たちのせいなのである!
ちなみに先生たちは真っ先に魅了にやられたので頼りにならない。
シャルロッテは王太子の婚約者と言うことで特に魅了に掛からないようにとアクセサリーやドレスにまで厳重に魅了の対抗魔術を縫い込んでいるけれど……
なんというか本丸(王太子)が落とされている時点で駄目である。
しかも王太子の落とされた聖女は問題解決のために王家が連れてきた聖女だというのだからもうどうしようもない。
「どうしようもなくても……わたくしはやるわ……!この学院を平和で規律正しい場所へ戻すの……!
わたくしの内申点……無くしてたまるものですか!」
「もう無きに等しいのでは?(笑)」
「おだまり!手打ちにするわよ!!!」
シャルロッテは仮生徒会室にしたこの図書館の一角から出陣することにした。
行く先は元生徒会室。今は王家から遣わされた、魔術封じの結界を修理するはずの聖女が、元生徒会室メンバーを侍らせまくっているはずの場所である……
元生徒会室まで30メートル。すでになんかキャッキャウフフな雰囲気がし、空気はピンクである。
シャルロッテは心底入りたくないのでディアンを見た。
「お嬢様……この程度のラブ♡ハリケーンを乗り越えられないだなんて……これが未来の王妃、いえ現在の生徒会長の姿でしょうか?」
「わかったわよ行けば良いのでしょう行けば!頼もう!!!」
シャルロッテはつかつかと速足で元生徒会室の扉に近づきばあんと開いた。
……元生徒会室は、ピンク色だった。
比喩表現ではない。どピンクの垂れ幕が壁一面に掛けられ、「ゆーたん♡ラヴ」の文字が全面に貼られている。
王太子や元生徒会のメンバーは、聖女が避難している机を取り囲み、土下座し、ピンクのろうそくを燃やしながら、あまりにもポップなゆーたん♡ラヴの歌を歌い続けている。
元生徒会室に監禁された揚げ句逃げ場がなく机の上にまで避難しているピンク髪の聖女は心底おびえていた。
キャッキャウフフはキャッキャウフフでも、これは異教徒の集会(ヲタ芸ライブ会場)である。
ちなみに生徒会メンバー以外は王子たちの後ろで光る棒を振りながら歌っている。
「こ、ここどこですかあ……私何しちゃったんですかぁ……?」
ちなみに王家から遣わされた聖女ユフィは涙目で机の上で震えている。
シャルロッテは呆然とその場に立ち尽くした。
「こ……れは、一体何?」
「確か修復の聖女は微量ながらも魅了の力を持っていましたね。まあ本当に微量も微量、挨拶されたら『この子ええ子やな……』と思う程度の物らしいですが」
「どうして神聖なる生徒会室が微量の魅了でこんなおかしな異教徒の集会場になっているのよ!!!」
「何でもかんでも人に聞けばいいってものではありませんよ(笑)お嬢様。」
「この件が終わったら貴方はクビよ!それより修復の聖女様!そこからこちらへ飛んで!」
「えっ……!あ、はいっ!」
修復の聖女は生徒会室の机の上から飛んだ!
シャルロッテはドレスの裾をさばき、見事な足取りでゆーたん♡ラヴ教徒たちの体当たりを避け、ふわりと聖女を抱きとめた!
「逃げるわよ!」
「アラホラサッサー!」
「えっ……?えっ……!?」
一気に飛び出そうとしてきたせいで、生徒会室入口に詰まってしまった教徒や王太子たちは残し、シャルロッテとディアンは聖女を連れて、仮生徒会室まで走り抜けた!
「ふう……この図書館なら安全よ。入口に魅了封じの魔法をかけてあるから……。けど、悔しいことに、これがわたくしの全力なのよね……」
「あの……先ほどは、ありがとうございました……。私、王家より学院の結界を修復すべく遣わされた聖女のユフィと申します……」
図書館は静かだ……所々で壁ドンが起こっていたり、女生徒の手の届かない本を男子生徒が取ってあげたりしているが、まあ学園全体に対しては静かな方だ。
「あの……ここって魅了封じの魔法がかけてあるんですよね……?あれは……」
「……わたくしの力不足よ。」
「でも……あの司書さんに言い寄ってる方は、執事さん……ですよね?」
「ディアン!」
「すみませんお嬢様、私もついこの学園に蔓延る魅了にあてられ……」
「嘘をつくんじゃありません!!!3日間食事抜きよ!」
「あの……ええと、私なぜここに連れてこられたんですか……?」
「あっ……ごめんなさい、今説明するわね!」
シャルロッテは横目でディアンを睨んだ。ディアンはどこ吹く風で口笛を吹いた。
「と、いうわけで……結界の破損の隙に魅了魔術を持ち込んだアホのせいで学院は今めっちゃくちゃなんです。」
「そうなんですか……」
「説明ありがとう、ディアン。こちらも関係のない生徒は全員外へ追い払ったわ。」
「お嬢様は荒事がお得意ですから。適材適所というやつですね。」
「わたくしより弱い執事のいる意味って何かしら?おやつも抜こうかしら?」
「あ……あの、学院が無茶苦茶な理由はわかりました。私がここへ遣わされた理由も……ですが、なぜ私の微量な魅了があんなに王太子様たちに効いてしまったのでしょうか?最初は随分と良くしてくれているな、とは思っていたのですが……」
「魔術はね、物に込めたり人に掛けられたりすると一段効果が落ちるのよ……微量であっても、あなたの魅了は貴方のもの。それに、恐らくだけど……魔術封じの結界が壊れた今、逆に反動で魔術は効きやすくなっている……。王太子様たちはきっとあなたと毎日会話する度にその魅了にどっぷりになっていったのだと思うわ。」
「養殖より天然!しかも今が旬って感じですかね。」
「たとえ話で分かりづらくしないで。
だから……今は一刻でも早く魔術封じの結界を直してしまわなくては……。積もり積もった魅力で、あなたがどんな目にあってしまうか分からない……
それに王太子殿下だって、おっとりした方ですけど、浮気なんてする人ではないもの。」
「でも……どうりでやたら婚約破棄や追放や婚約破棄返しなんかが多い学校だと思いました……」
「そこはおかしいって気付いて下さる?この学校で生徒会長やっているわたくしがとんでもない人間みたいじゃありませんの!?」
ぜえはあと肩で息をするシャルロッテ。本人は真面目に生徒会長をやりたいだけなのに災難である。あと内申点もかかっている。
「とりあえず……!ナーロウ魔法学院の四方に飾られた魔術封じの結界の核、四方の宝玉!壊れてしまったのは北の宝玉ですわ!」
「図書館って一番南じゃないですか(笑)」
「おだまり!1番影響を受けにくい場所がここだったのよ!
……修復の聖女様、申し訳ないけれど……わたくしたちと一緒に北の塔の頂上までご一緒くださる?修復すべき結界は!そこに!」
「は、はい!」
「最も短い経路を考えましょう……元生徒会室の前を通ることになってしまうけれど、大丈夫、貴方は私が守って見せるから!(生徒会長の名誉のために!)」
「分かりました……!私も修復の聖女ですもの、責務は全うします……なにより、お姉様のために……!」
手を取り合うシャルロッテとユフィ。なんか百合の幻覚が見える気がしたが気にしてはならない。そんな2人を眺めてやれやれと暗器を確認するディアン。そしてそんな三人の背景では今まさに婚約破棄が行われていた。
『デルフィーニ……まさか君が嫉妬でエルティナを虐めるなんて……』
『ルイス様!私はそんなことは……』
「あなたたち!こちらのやる気を削がないでちょうだい!他所でやって他所で!」
婚約破棄の関係者は図書館から叩き出された。
前をシャルロッテ、殿をディアンが務め、聖女ユフィを守りながら三人は走る!途中ゆーたん♡ラヴ教徒やら王太子やら公爵令嬢の婚約破棄返しやらドアマット令嬢などをしばき倒し道を無理矢理こじあけながら三人は走る!
そこへ……!3人の影が行く手を阻む!
「あっ……貴方たちは!」
「魔法師団長の息子、公爵令息、魔術の天才エルシャード!」
「騎士団長の長男!侯爵家次期侯爵ライオネル!」
「この国に名を轟かせるオルソン商会次男坊、イグナーツ!」
「「「我ら3人、王太子の側近!!!」」」
「その王太子、遥か後ろで倒れてますけれども……」
シャルロッテはさすがに突っ込んだ。
王太子の側近が王太子を放置していいのか?
「「「心配ご無用!王太子は我々にゆーたん♡の保護を求められた!悪女シャルロッテめ!ゆーたん♡を返していただこう!」」」
「誰が悪女ですのよッ!!!」
人一倍内申点を気にしているシャルロッテだ、悪い噂は許せなかった。
「第一貴方がた……わたくしと本気で戦うおつもりですの……?」
シャルロッテの美しい立ち姿に闘気が漲る!空気は張りつめビリビリと窓ガラスが震えまさに本人自身が巌のような大男に一瞬見紛うほどのオーラだ!
「騎士団魔法師団をまとめ上げる、元帥第一の娘にして唯一全てを収めた第一の弟子、このわたくしにかなうおつもりで……?今までとは違う、本気で行かせていただきますわよ……?」
「それでもッ!」
「我らはッ!」
「ゆーたん♡ラヴ!」
「恋は人をここまで愚かにさせるのか……今までの遊びとは違う、圧倒的な力……今ッ!お嬢様の全てが解放される!次回、3つの消し炭!お楽しみに!」
「ディアン!おかしなナレーションをつけないで!」
「お姉様……素敵……!」
「ユフィ様!?その素敵はわたくしの生き方や力にかかっているのですわよね?ねえ!?」
そこへ後ろから王太子やゆーたん♡ラヴ教徒たちが追いついてきた……
「シャルロッテ……まさか君がユフィに嫉妬してこんな事をしでかすなんて……」
「言わせませんわッ!!!」
シャルロッテのグーパン!綺麗にみぞおちに入り崩れ落ちる王太子!現場は無茶苦茶である。
「あとで文句はいくらでも言ってくださいまし!今ここで取り返しの付かないことを言われるよりよほどマシですもの!ユフィ様!失礼いたしますわ!」
「あっ……!」
シャルロッテはユフィを横抱きに抱きかかえると、迫りくる人の波の頭を踏み台にして華麗に飛び移っていく。
「ディアン!あなたはそこでなるべく足止めをなさい!普段役に立たない分、たまには役に立って頂戴!」
「近づかないで下さい!私に酷いことをするつもりでしょう!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」
謎の言葉を叫びながらディアンは人の波をちぎっては投げちぎっては投げしている。
シャルロッテが規定外すぎるだけでディアンもちゃんと強いのである。見劣りするだけである。
「やっとゆーたん♡ラヴ教徒たちを撒けましたわね……」
「あ、あの……そろそろ、下ろしてください!わ、わたし……重いでしょう?」
「まさか!羽のように軽いですわよ!」
「お姉様……!(キュン)」
おかしなフラグを立てつつも、北の塔へ急ぐ二人の前に、背の高い影が現れた。
「シャルロッテ……!」
「あなたは……クリストファー?」
彼の名はクリストファー。隣国の王位継承権を持つ公爵であり、シャルロッテの(主に父の)顔なじみでもあり、この学院の校長とも知り合いであるという事で、ちょくちょく見かけてはいたのだが……
「クリストファー!今この学院は魅了の魔術が暴走して大変なことになっていますの!早く学院から逃げてくださいまし!」
「しかし……それを言うなら君もだろう?」
「わたくしは生徒会長です!学院の危機に立ち向かわずにいられますか!」
クリストファーはため息をつくと、シャルロッテの二の腕を掴んだ。
「君が危険なのは、私が嫌なんだ……私は、君が……ゴフッ!!!」
「申し訳ありません!クリストファー?様?私たち、修復のために急いでいるんです!さっ、お姉様!」
「え、ええ……まあ……。とりあえず魅了対策を万全にしてから学院へ来られるようにお父様に伝言お願いします!それでは!」
シャルロッテはユフィを抱えたまま走り去った。
「今の人、きっと魅了の被害者の一人です!お姉様に迫って……!」
「ところでユフィ様?あなたクリストファーの股間に向かって拳繰り出していませんでした?」
「気のせいです!鳩尾です!」
気の所為なのかな……まあユフィ様がそんなことする理由はありませんものね……?
ありません……よね……?
シャルロッテは混乱しつつも北塔へ向かった。
それにしてもクリストファーまでこの学院の魅了にかかってしまうとは……自分も気をつけなければ。
そう心に誓うシャルロッテであった。
『私があなたのことを好きだなんていつ言いましたか?私は婚約者だから努力していただけ……でも、それも終わりですね。ティナ様が階段から突き落とされた日?その日は私、外国におりましたの』
『う、嘘をつくな!ティナは確かにお前の姿を見たと……!』
その瞬間大広間のドアをばあんと開いて、シャルロッテが現れた!
「婚約破棄中申し訳ありません!急ぎですわ!目の前を失礼しますわね!」
言い争う男女3人と見守る大勢の間をシャルロッテはユフィを抱えて爆走した。
「あと、婚約破棄するならもう1、2日延期したほうがいいですわよ!それでは!」
シャルロッテは華麗な足取りであっという間に消えていった。
『なんだったんだあれ……』
『わ、分かりません……』
婚約破棄返しをくぐり抜け、お姉様のものは私のものな義妹と姉の間をくぐり抜け、虐げられた令嬢と貴公子が壁ドンしているのを横目に通り過ぎ、ようやく北の塔までたどり着いたシャルロッテとユフィであったが……
「酷い……階段が半分崩れて……!これじゃ……どうしようも……」
「……ユフィ様、高いところは大丈夫ですか?」
「お姉様?」
「完全に崩れているわけではないわ。けれど時々下が見えるのは恐ろしいでしょう。私にしっかり捕まって、目を瞑っていらして。必ず……最上階まで、安全に送り届けますわ。この私の命に変えても!」
「命に代えられたらユフィ様が下りる時にどうなさるおつもりなんですか(笑)お嬢様は時々考えが足りないんですから……」
「「ディアン(さん)!」」
「そういう時はこう言うんですよ……必ず貴方を安全な所まで連れて行く……と。」
歯をキラリと光らせて、ディアンが現れた。流石に多勢に無勢だったのかズタボロ気味だがピンピンしている。
「わたくしユフィ様を口説いているつもりはないのですけれど……」
「えっ?あれで?お嬢様……罪作りですね。」
「本当です!でも……そういう所も素敵というか……」
「ユフィ様?」
「まー大丈夫ですよ、お嬢様。ユフィ様もこの学院に蔓延ってる魅了の魔術に微妙に当てられてるだけでしょうから。」
「……本気、ではないのね?」
「(笑)」
「何とか言いなさいな!」
この間、シャルロッテはお姫様抱っこをしたユフィを一度も降ろしていない。そういうところである。
シャルロッテは顔を伏せるユフィを今一度しっかりと抱きかかえると、崩れた階段ではなく、凄まじいスピードで壁を走り始めた!
「もはや人間業ではない(笑)」
「壁は走らなくともそのスピードについてこれる貴方が言うことではなくってよ!」
壁!?と目を閉じたまま身を縮めるユフィ、落とさぬようしっかりと力を込めるシャルロッテ、そして無表情のまま階段を爆走する執事。3人はあっという間に北の塔の頂上までたどり着いた!
「ユフィ様……ここが頂上。そしてあれが壊れてしまった結界を支えていた北の宝玉ですわ……」
ようやくシャルロッテはユフィを床へ下ろした。ユフィは慌ててぺこりと頭を下げたあと、宝玉に触れた。
「酷い……!完全に2つに割れちゃってるじゃないですか……!これを直すには、少し時間がかかると思います……」
「貴方を守ることくらい朝飯前ですわ!わたくし、完璧を目指していますもの!」
「お姉様……」
「お嬢様、無自覚の口説き落としはどうでもいいですが、下からゆーたん♡ラヴ教の人たちが北塔を登り始めたようですよ。聖女の魅了の力に引っ張られてるようです。フェロモンみたいですね(笑)」
「ひ、ひえええ……」
「ユフィ様、修復に集中なさって!ディアン!わたくしたちはバリケードを作るわよ!」
「こういうこともあろうかと。私、実はここに来るまでに板材や石材を拾ってきていまして……」
「貴方も?わたくしもいいバリケードになるかと思ってこの『魔法鞄』に生徒会室のクソ重いタンスや大時計なんかを詰め込めるだけ詰め込んできたわ!」
「くっ……!ボケでお嬢様に負ける……だと!?」
「いったい何を悔しがっているの貴方……とりあえずバリケードを作るわよ!」
「ガッテン承知の助!」
その光景は、神聖だった。
光りに包まれる宝玉、そしてその宝玉を抱くように寄り添う聖女。じわじわと割れた宝玉は修復されつつある……
「……BGMさえなければとても美しい光景ですのにね……」
バンバンとバリケードを叩く音、狭いぞ!おりろ!と罵り合う声。向こう側からはゆーたん♡ラヴの歌まで聞こえてくる。
「このままでは人海戦術でバリケードを越えられますねぇ……向こう側、どうやらあの不安定な階段で組体操を始めたようですよ。」
「危険性を考えて!怪我人を出してしまったらどうするの!!!」
「心配するのそこなんです?」
「ピラミッドはもう何年も前に廃止されたのに……あんな不安定な足場で!」
「まずい……!事ここに至ってお嬢様がボケに片足を踏み入れ始めている……!」
「何を言ってるのか半分くらいしか分からないけれど、無礼度は貴方が頂点だから負けはないと思うわよ……」
「確かに……!くっ、お嬢様に励まされるとは……!」
「わたくし励ましたつもりはないのだけれど……」
ドン!ドン!とバリケードは強く叩かれる。
どれだけ質量のある材質でも、どうやら大勢の人の決意には勝てないようだ……
「ディアン。バリケードが破れたら、貴方は階段の方へ回って、負傷者の救助をお願い。」
「お嬢様?」
「わたくしとて元帥の娘。素人に負けるつもりはないけれど……ユフィ様を守りながら怪我人にまで意識を割くのは無理。だから貴方に……頼みたいの。重傷者でも出たら……私の生徒会長の座はパァよ。」
「お嬢様のそういう謎の几帳面な我欲割と好きですよ。」
「わたくしは貴方の煽りが嫌いよ。……バリケードが破れるわ!階段は任せたわよ!」
「行くでガンス!」
人がなだれ込む!先頭は……王太子殿下だ!
一瞬で無力化され、ディアンに投げ渡される!
「荒事に巻き込まれない所に置いてきて!」
「お任せあれ!」
ディアンは王太子を担いで階段を降りていった……そしてなだれ込む人々!
「うわ……私の魅了、効きすぎ……?」
「修復に集中してくださいませ!わたくしが盾になりますわ!」
受け流し、叩き込む。それを繰り返す。ある意味美しいその繰り返しの動作は、まるで異国の舞でも舞っているかのようだった。
それを見たユフィは、ぎゅっと拳を握りしめる。
「お姉様……私も、私だって、役に立てるんです!!!」
シャルロッテは瞬きをした。聖女の強い意志が、輝きに力を与える!
一瞬で聖女の力が膨れ上がる……!透き通ったその宝玉は輝く光と一体化し……
ふわりと聖女の手から浮き上がり、北の塔の宝玉は修復された!
一瞬、辺りに静けさが落ちる……
直後、ゆーたん♡ラヴ教徒の顔から表情が抜け落ち……
『ここ、どこだ……?』
『俺は一体何をして……』
『めちゃくちゃ背中が痛い!!!』
『王太子殿下!何処へ行かれたのですか!王太子殿下!』
口々に困惑の言葉が聞こえ始めた。
「やった……!やりました!お姉様!」
「ユフィ様!わたくしたち、この学園を元に戻しましたのよ……!」
「あ、お嬢様。王太子殿下がめちゃくちゃ慌てておられましたよ。シャルロッテがいない!って。」
「いつの間に帰ってきていたのよ!ディアン!……まったくあの方は……少し頼りないけれど、でも、だからこそ、わたくしが完璧を目指す必要性があるというもの!」
学院の魅了騒動はこうして収まった!シャルロッテ様第一の執事ディアン……彼の名は語り継がれて
「ナレーションにまで勝手に出張らないで!帰るわよ!」
「お嬢様はこれだから……」
ディアンは回収された。
そうして本当に魅了騒動は収まり、学院はギクシャクしながらも婚約破棄、あるいは破棄撤回、結婚や病気を偽って学園から逃げた生徒たちも戻ってきた。
シャルロッテは……大混乱な学院の後始末で今日も引っ張りだこだ。
それでも、聖女に慕われながら、隣国の公爵に熱い視線を向けられながら……王太子殿下を尻に敷きつつ、今日も未来の王妃として彼の魅了騒動の時の様子をつつきつつも、仲良くやっているようだった。
「なんだかんだ言って、お嬢様、王太子殿下の事好きなんですよねぇ……」
今日も世は事もなし。
な に こ れ
……読んでいただいてありがとうございました。




