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告白に振る雪

「これで終わりだ」

「おいおい、今日は張り切ってるな」


仕事を片付け、デスクで佐久間とやり取りをする。

「なあ?」

「なに?」

「今日は何の日か分かってる?」

「クリスマスだろ?」

「ああ、そうだ。でも俺には恋人はいない」

「それがどうした?」

「おいおい、そんな寂しいこと言うなよ。今日くらい男同士で傷をなめ合う」

「気持ち悪いこと言うなよ」

「だってさー、ってもしかしてお前今日予定が…」

「まあ」


俺は照れ隠しでうつむく。

「はー、お前ふざけんなよ」

「悪いな」

「今年は俺は一人か」

「じゃあ、良いこと教えてやるよ」

「なに?」

「佐伯、今日予定無いらしいぞ」

「へ?」

「気持ち悪い声出すな、じゃあ俺はこれで」


そう言って佐久間は去った。俺は自然と笑みが零れ、いつもより早足でオフィスを飛び出した。

街の景色は、イルミネーションの光が少し濡れたアスファルトに反射し、いつもより眩しく見えた。

歩くペースはどんどん速くなり、渋谷駅に着く頃には小走りになっていた。


ハチ公前に駆け込むと、喜多川さんはそこに立っていた。

「喜多川さん……」

息が詰まる感覚。走ったせいではない、目の前にいる彼女の存在に、胸が押し潰されそうだった。


「待った」

「え?」

「五分前行動」

「あ、すいません」

「まあいいや、行こうか」

「はい、喜多川さん」


彼女のコートは真っ白で、真っ赤なマフラーが鮮やかに映えていた。

「コート可愛いですね、それにマフラーも」

「いいでしょ、これ気に入ってるんだ」

「そうなんですね……」


見惚れてしまったことに、自分でも気づく。息が詰まるのは走ったせいじゃなく、彼女の近くにいるからだ。

そして、彼女の手が空いていることに気づく。反対側はカバンで塞がっている。


「緊張してる?」

「え?あ、いや……」

「そんなに緊張しなくていいのに。イルミネーションを見るだけでしょ?」


彼女の言葉に、少し胸が痛んだ。今、この瞬間を逃したくない。

「ほれ」


喜多川さんは、そっと空いた手を差し出した。

「え?」

「寒いんだから、手くらい繋いでよね」

「良いんですか?」

「そんな消極的だから彼女出来ないんだよ。もっと欲張らないと」


俺はそっと手を握った。冷たい――しかし、握り返す手の温もりが、心まで温めてくれる。

「冷たいですね」

「言ったでしょ、寒いの」

「はいはい」

「馬鹿……」

「小声で言っても聞こえてますよ」

「はいはい」


すれ違うカップルの中で、俺たちは少し特別な世界にいるような気がした。

「イルミネーション、楽しみだね」

「そうですね」


笑いながら、青の洞窟をくぐり抜ける。光のトンネルが二人を包み込み、手の温もりが安心感をくれる。

写真を撮ろうとスマホを取り出すと、彼女に気づかれる。

「勝手に撮らないでよ」

「すいません」

「貸して」


手を繋いでいた手をそっと離し、スマホの内カメでツーショット。

「いきなり撮らないでくださいよ」

「それはお互いさま」

「そうですけど」

「じゃあ今度はちゃんと私の携帯で撮ろう」

「そうですね」


笑顔の写真が撮れたが、手の温もりがないことに少し寂しさを覚える。


その後、代々木体育館近くのベンチに腰を下ろす。

「珈琲買ってきますね」

「うん」

「あ、ブラックで大丈夫ですか?」

「微糖で……」

「ふ……」

「ちょっと今、馬鹿にしたでしょ!!」

「してませ~ん」


俺は自販機まで逃げるように歩き、買って戻る。

「はい」

「ありがとう、いくら?」

「良いですよ」

「嫌だ」

「え?」

「借り作るの嫌なの」

「なら一つお願いがあるんですけど……」


俺は深呼吸し、覚悟を決めた。

「喜多川さん」

「何?」

「付き合ってください」


一瞬の静寂。

彼女は俯き、涙が一粒頬を伝った。

「え……ちょっと、そんなに嫌でしたか?返事はいつでも……」

「馬鹿」

「へ?」

「そういうのが童貞なんだよ」

「ちょっと外でそれはやめてください」

「はいはい、良いよ」

「え?」

「だから、付き合ってあげるって言ってんの」


胸が張り裂けそうになる喜び。

「よっしゃー!」

「ちょっと大声出さないで」

「あ、すいません」

「全く、大変な彼氏を持ってしまったよ」

「もう後悔するのやめてくれませんか?」

「はいはい」


俺は彼女の涙を見て、自然とハンカチを差し出した。

「なにこれ?」

「泣いてたので、って……あ」

「ん?」

「雪」


手を上にかざすと、手の上で雪が溶ける。

涙の上に雪が滑り落ち、赤いマフラーと同じように頬も赤く染まっていた。

「じゃあ帰ろうか」

「はい」


二人で肩を寄せ、雪の舞う街を歩く。

手のぬくもりと、心の高鳴りが、クリスマスの夜を永遠に変えてしまいそうだった。


「やっぱり覚えてないか」

喜多川は聞こえない声量でぼそっと呟く。

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