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過去より、滅びの君へ

世界を滅ぼしたのは、少年のせいではありません。

たぶん。

でも彼は“滅びの君”と呼ばれて、しっかり封印されました。


数千年後、レネという少女ががうっかり古代遺跡の石板に触れたら、まさかの彼が目覚めました。

歴史?改ざん済み。真実?闇に封印。世界?

よくわかんないですね


これは、封印された少年と、転生しまくってる少女が、

世界の終わりに、なんとか未来を“選び直す”話です。


壮大で切ない?そんな物語をどうぞ。

過去より、滅びの君へ


第一章 はじまりの石板


遺跡の地下、冷たく乾いた空気の中で、レネは古代の石板に触れていた。

「……これ、読める……?」

彼女の手のひらにぴたりと馴染んだその石板には、現代語には存在しない文字が刻まれていた。

けれどそれは、不思議なことに“意味”として頭に流れ込んでくる。

それに、方が熱い。

「この手紙を読む君へ」

思わず息をのむ。これが……手紙?何百、何千年も前の?

光の差さない地下で、石板の文字がふっと淡く光った。レネは思わず後ずさる。けれど、目が離せなかった。心の奥に、何かがざわついている。

「君がそれを選べる人であるなら、世界は……やり直せるかもしれない」

「……やり直す?」

口にした瞬間、世界がぐらりと揺れたような感覚が襲った。

そのとき、彼女の背後で“時”が動いた。

――カチリ。

何かが、目覚める音だった。


第二章 滅びの君


遺跡の空気が、突然変わった。乾いていたはずの空間に、ほんのりと温もりが満ちていく。

石板の奥、壁の一部が低く唸りを上げ、ひとりでに開いた。

レネはごくりと喉を鳴らし、開いた空間の奥を見つめた。そこには、透明な結晶の棺。その中に――人が、眠っていた。

「……だれ……?」

少年だった。銀の髪がふわりと宙に浮かび、目を閉じたまま静かに横たわっている。歳はレネと同じくらいか、少し年上に見える。だが、何より目を引いたのは――その顔だ。

まるで、悲しみにすべてを染めたような、儚い顔だった。

「君が、それを選べる人であるなら……か」

レネがつぶやくと、棺がゆっくりと崩れ始めた。結晶が光の粒となって空中に舞い、少年の体を包む。

「ま、待って、なにこれ……!」

光が一瞬、強くなった。

――次の瞬間。

「……誰、だ」

少年の目が、開いた。

レネの体が一瞬凍りつく。深い、底なしの夜のような瞳。それが彼女を、真っ直ぐに見つめていた。

「ここは……まだ終わっていない、のか」

低く、しかし不思議と澄んだ声。その言葉に込められた意味を、レネはまだ理解できなかった。

だが、彼女は確かに感じた。この少年が、“何かとんでもないもの”を背負っていることを。

「……あなた、名前は?」

「……名など、とうに捨てたようなもの…」

「でも、昔……“滅びの君”って呼ばれてたんでしょ?」

少年の目がわずかに揺れた。それは恐れでも怒りでもない。ただ、哀しみに近かった。

「……ならば、そう呼べばいい」

「じゃあ……“滅びの君”さん」

レネは一歩、前に踏み出した。

「世界が滅びるかもしれないって、あなたのせいだって言われてるけど、私は……自分の目で確かめたい」

少年――“滅びの君”は目を細めた。それはほんの一瞬、微笑みにも似ていたかもしれない。

「……奇妙な人間だな。君は」

その瞬間から、世界は再び動き始めた。

封じられていた“過去”が開かれ、運命を変える旅が、静かに始まった――。


第三章 偽りの歴史


遺跡を出た二人は、街道沿いの静かな村に足を止めた。レネは、カイの存在を周囲に気取られないように、フード付きのマントを用意した。夜明け前の冷たい風の中、カイは静かに空を見上げる。

「……空が、青いままだ」

「何それ?」

「昔は、こうじゃなかった。空が裂け、海は黒く染まり……人は自分の影に怯えていた。だが……記録では、それすら“存在しなかったこと”になっているはずだ」

「……歴史が、書き換えられてるってこと?」

カイは頷かない。ただ、静かに目を伏せる。

「“記す者”がいなければ、歴史は真実ではなくなる。真実を殺すのは、戦争でも災厄でもない。人間の選択だ」

その言葉に、レネはハッとした。まるで――自分のことを指しているように思えたのだ。


レネは宿屋の一室で、母の残したノートを広げた。そこには、レネが子供のころから断片的に見せられていた、古代の「欠損した王朝記録」が貼りつけられている。

【年代不明期】:記録欠損。文明の痕跡は確認されるが、文献なし。“大規模な改暦”あり。

「おかしいよ……文献がないのに、なぜか“時間の整合性”は保たれてる。まるで誰かが意図的に、歴史を“詰めなおした”みたいに」

カイはノートを一瞥し、低くつぶやいた。

「“記録の魔女”の仕業だな。彼女なら、歴史の再構築ができる」

「……誰?」

「ロゼ。千年以上前に死んだはずの魔女だ。だが、彼女はまだ――“生きている”。」


旅の途中、カイがふいに立ち止まった。レネの肩が、熱を帯びている。

「また……石板のときみたいに、痛い……」

見ると、彼女の肩に浮かび上がるように、うっすらと古代文字が浮かんでいた。

それは、かつて世界を創った神々が、最後に残した

「運命を選ぶ者の証」だった。

それは、「選定者の印」は**“歴史の改変に関わる重要な瞬間”** に出現する。

カイがわずかに目を見開く。

「まさか……君が、“鍵”なのか……?」

「……鍵? 私が……?」

カイは言葉を続けなかった。だがその目には、はっきりと“迷い”が浮かんでいた。


その夜、森で不意に現れた男がいた。フードを深くかぶり、顔は見えない。だがその声には、ぞっとするほど冷たく澄んだ響きがあった。

「見つけたぞ、“滅びの君”よ」

カイが、動かない。

「……ラグス」

「貴様の存在は、再び世界を崩す。今度こそ、完全に消去しなければならん」

ラグスの手に、黒い炎が灯る。

「お前には、かつての“あの約束”すら、もう思い出せまいがな」

その言葉に、カイの表情がわずかに崩れた。

「やめて……!」

レネが叫ぶと同時に、ラグスの炎が放たれた。とっさにカイが腕を振るい、空間に障壁が生まれる。

「逃げるぞ!」

カイに腕を引かれながらラグスの方を見ると、あの禍々しく黒い炎が消えていた。


第四章 記録の魔女ロゼ


息切れして視界がぼやける中、大きな建造物が迫る。

「ここが……“記録の塔”?」

レネは目の前の建造物に圧倒されていた。森の奥深く、誰にも気づかれないように隠されていた灰色の塔。その外壁には、びっしりと古代文字が刻まれており、まるで“言葉そのもの”が塔を支えているかのようだった。

「この場所に足を踏み入れるのは……僕でさえ、数百年ぶりだ」

隣でカイがつぶやく。

「おそらく、ロゼ。彼女はここで、生きている。」カイの横顔に、一瞬の緊張が走ったのを、レネは見逃さなかった。

塔の扉が、何の前触れもなく開いた。そして、中から現れたのは──

「ようこそ、“選定者”と“滅びの君”。よく来たね」

女だった。白髪に近い銀の髪、琥珀色の瞳。微笑みを浮かべながら、まるで何千年も前から彼らが来ることを知っていたように、待ち構えていた。

「……ロゼ」

カイの声が、ほんのわずかに揺れた。


塔の中、天井のない図書室のような空間に導かれ、ロゼは淡々と語り始めた。

「この世界の“歴史”はね、正確には七度書き換えられているのよ。

でも、それは“世界の骨組み”を塗り替えるようなもので、すべてを白紙に戻すわけじゃないわ」

「七度……?」

「そう。大きな災厄のたびに、記録も記憶も、人々の常識もリセットされてきた。そのたびに、“滅び”という概念だけが残される。原因を忘れ、恐怖だけを記憶にすれば、支配は簡単になるから」

レネは、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

「じゃあ……本当の“滅び”って……カイじゃない?」

「ええ。カイは、世界が暴走した時にそれを止める“調律者”だった。でも、世界がそれを都合よく利用して、罪を押し付けたのよ。『彼がいたから滅んだ』と。そうすれば、皆自分を疑わなくて済むからね。そして、その罪を押し付けられたカイは神が構築した存在。

カイは記憶がリセットされることは無いわ。

しかし、神々によって創られた存在だが、“人間としての魂”をもってる。

まぁ、人間って不完全な生き物なだけあって、忘れてしまうこともあるわ。

だからカイもきっと何かを忘れているはず」


レネはふと、ロゼの視線に射抜かれたような感覚を覚えた。

「……貴女、最初から私のこと知ってるみたいね」

「当然よ。あなたは、“選定者”の最後の転生体なのだから」

「転生……体?」

カイが目を見開いた。

「まさか……!」

ロゼは微笑む。

「貴女が今の記憶を持たないのも無理はないわ。“選定者”はもともと、災厄の発生ととも

に蘇る存在。そして、歴史のすべてを“選び直す”権限を持つ、唯一の魂」

「私は……そんな大層なものじゃない」

「違うわ、レネ。“あなたが何を選ぶか”で、今度こそ世界は……壊れるか、再生するか、決まるの」


ロゼは二人に、一枚の石版を差し出す。それは、現存する中で最古の記録のひとつ。

そこに刻まれていたのは──

「我、滅びを受け入れ、全てを引き受けん。君が再び目覚めるその時、ただ一度、選択を委ねるために」

それは、かつて“滅びの君”カイが選定者に誓った言葉だった。そして、隣に刻まれた文字は……確かに、「レネ」と読めた。

「これ……私の名前……?」

「そうだ…この世界が何度も末永く繰り返されるせいで断片的に忘れていた…君は、何度も“世界を選び直してきた”存在なんだ。でもそのたびに……君は僕のことを忘れてしまった」

カイの声は静かだった。悲しみも、怒りもない。ただ、長い孤独の果てにようやく見つけたものを守るような、優しい声音だった。


レネは言葉を失っていた。自分が何者なのか、世界が何を隠してきたのか、そして、カイが自分に何を託そうとしているのか――

そのすべてが、まだ“霧の向こう”にある。

そのとき、塔が震えた。ロゼが顔を曇らせる。

「……来たわね。“彼ら”が、“記録を壊しに”来たわ」

――闇の中から、世界を塗りつぶす“滅びの使徒”たちが姿を現す。

ロゼが少し悔しそうな顔で言う。

「本当は“選定者”や“滅びの君”である君たちを救いたかったが、立場上、世界の均衡を守るために私は干渉できない…」

レネとカイは、ラグスの時のように逃げることを選ばない。今度は、向き合う覚悟を決めていた。


第五章 使徒の襲来


塔の外、闇が牙を剥いた。黒煙のような影が空を覆い、冷たい風が森を吹き抜ける。それは、まるで世界そのものが泣き叫ぶような凄まじさだった。

「来た……」

レネはカイの腕を掴み、身構える。その目は覚悟に満ちていた。

「滅びの使徒――“破壊の影”が、僕らを狙っている。奴らは世界の“均衡”を壊し、すべてを終わらせようとしている」

「でも、どうして今?私たちが“選定者”であることを知っているなんて……」

「ロゼの存在が“記録の塔”を暴いた。それが奴らにとっての合図だ」


森の闇から次々と現れる黒い影。それは巨大な獣の姿をしていたり、人の形をしていたりするが、いずれも異形の存在で、触れたものを腐敗させていく。

「くっ……!」

カイは無言で手を掲げる。掌から青白い光が発せられ、使徒たちの攻撃を跳ね返す。

「レネ、離れて!」

だがレネは、ひるまなかった。

「私は……逃げない」

目の奥に光る“選定者の印”。その力が、レネの体を震わせる。

「君の力が……目覚め始めている」

カイはそう言いながらも、全力で戦っていた。しかし使徒たちは数が多く、次第に押されていく。


絶体絶命の瞬間、レネの胸の中で何かが弾けた。

「やめて……この世界を…壊させない!」

彼女の体から放たれた光が、使徒たちを包み込む。その光は、どんな闇よりも強く、温かかった。

使徒たちは悲鳴のような声を上げて崩れ落ちていく。戦いは終わったかのように見えた。

だが、レネは息を切らしながら、自分の手を見る。

「これが……私の力……?」

カイがそっと彼女の肩に手を置いた。

「君は本当に、“選定者”なんだ」

しかし、彼女の力は発現していたが、魂の記憶――つまり“カイとの最初の約束”は、まだ完全には戻っていなかった


戦いの後、二人は深い森の中で休んでいた。

「レネ……君はこれから、どんな世界を選ぶつもりだ?」

カイの問いに、レネは答えることができなかった。彼女の胸には、重く、だが確かな決意が芽生えていた。

「私にはわからない。だけど……自分の目で、真実を見たい。そして……未来を、自分の手で選びたい」

カイは微笑み、静かに頷いた。

「それでいい。僕も、君と共に歩む」


第六章 ロゼの真実


使徒の襲撃から数日後。レネとカイは森の奥にあるロゼの塔へ戻っていた。

ロゼは彼らを待ち受けていたが、以前の優しい微笑みはどこか影を帯びていた。

「……話さなければならないことがあるわ」

レネは息をのむ。

「あなたは一体、何者なの?」

ロゼはゆっくりと語り始めた。

「私は、かつて世界の歴史を書き換えた“記録の魔女”ロゼ。千年を超えて生き、世界の真実を守り続けてきた。だが、真実を守るために、時には歴史を“改ざん”することもやむを得なかった」

カイが眉をひそめる。

「君は本当に味方なのか?」

ロゼは静かに答える。

「味方か敵かは、あなたたち次第よ。私は“記録”を守る者。だが、時にその役割は冷酷になる。なぜなら、真実が世界を壊すこともあるから」


「君たちがここまで来たのは偶然ではない。レネ、あなたは“選定者”として、次に世界の運命を選ぶ番。しかし、数日前に異形達に使っていたその力を完全な覚醒にするには、試練が必要」

レネの胸に再び「選定者の印」が浮かび上がる。

「試練……?」

「それは、“歴史の真実”に直面し、受け入れること。その時、あなたは過去のすべてを知り、未来を決められる」

カイがレネの手を握る。

「君は一人じゃない。僕もいる」

ロゼはその言葉にわずかに頷き、

「だが忘れないで。歴史の真実は、光と影の両方を持つ。その全てを知ったとき、君の心が耐えられるかどうか――それが本当の試練よ

そして、調律とは“選定者の意志”をもとに世界の歴史の分岐点を整えること。どの歴史を“真実”として残すか、それを選ぶのが君の役割なんだ。レネ」


その夜、ロゼは一人、塔の最深部へ向かった。

そこには封印された古文書と、見覚えのある古代の紋章があった。

「――この世界を変える最後の鍵は、まだここに眠っている。だが、それが目覚める時……世界はさらに大きな混乱に巻き込まれるだろう」

ロゼの瞳が暗く揺れた。


第七章 試練の記憶


レネはロゼの導きで、塔の最深部にある「記憶の間」へと足を踏み入れた。そこは無数の浮遊する光球が漂う神秘的な空間。ひとつひとつの光球に、過去の出来事や人々の記憶が閉じ込められている。

「これが……歴史の真実……?」

レネが手を伸ばすと、一つの光球が静かに彼女の掌に落ちた。中で揺れる映像は、千年前のある日の光景だった。


映像は少年カイが、荒れ狂う世界の中で必死に何かを止めようとしている姿を映し出す。激しい嵐、破壊される都市、叫ぶ人々。カイはそのすべてを背負い、世界の暴走を抑えるために力を使い続けていた。

「これが……本当の“滅びの君”の姿……」

レネは息を飲む。彼は決して“破壊者”ではなく、“守護者”だったのだ。


第八章 封印の真実


夜の闇が深まる中、レネとカイは静かな湖畔にいた。湖面はまるで鏡のように星空を映し出している。

「ここなら、話せると思う」

カイは重い口を開いた。

「僕の力は、ただ世界を守るためだけのものではなかった。それは、“滅びの力”そのものでもある」

レネは驚いた。

「滅びの力……?」

「そう。僕は“滅び”の代行者として選ばれた。だが本当は、それは罰ではなく役割だった」

カイは湖面に手を触れ、揺れる星空を見つめた。

「数千年前、世界はバランスを失い、崩壊の危機にあった。神々はその調整役として僕を作り出した。僕が力を使うことで、一時的に世界は救われたが、代償として“滅びの君”と呼ばれ、封印された」

レネはカイが神に作り出された存在ということをロゼから聞かされており、知っていたが黙って聞いていた。

そして、なにより胸が締め付けられるようだった。


「封印されたのは、僕の力があまりにも強すぎて、制御が効かなくなったからだ。もし暴走すれば、世界は本当に滅びる」

「でも、なぜ今、目覚めたの?」

カイは答えた。

「世界の均衡が再び崩れ始めているからだ。使徒たちの活動もそれに起因する。僕たち二人で、最後の調律をしなければならない」

レネは深く息を吸い、決意を込めて言った。

「私はあなたと一緒に、この世界を救いたい。真実を受け入れて、未来を選ぶために」

カイは微笑み、彼女の手を握った。

「ありがとう、レネ。君となら、きっと乗り越えられる」


その時、遠くから低い轟音が響いた。空が裂け、星々の間に異形の光が走る。

「神々の影……」

ロゼの言葉がよぎる。この世界の神々は、まだどこかで動いているのかもしれない。


第九章 過去より、滅びの君へ


大地が裂け、空が染まり、世界の終わりが近づいていた。

かつて「存在しなかったこと」にされた過去が、今、世界の表層へ浮かび上がっている。黒い使徒たちが都市を襲い、時空が歪む。その中心にいるのは、“調律者”であるはずのカイ――

否、“滅びの君”。

しかしそれは、彼の意志による暴走ではない。封印を施した神々が、レネの覚醒によって「真の歴史」が明らかになることを恐れ、カイの力を“強制解放”したのだ。

つまり彼は今、調律者ではなく本当の滅びの君へと変貌させられようとしている。

それは、誰も望まない、神々の我儘のせいで。


塔の最上階、すべての記録が刻まれた“始まりの部屋”で、レネは一人、記憶の石版を手に立っていた。

そこには、今まで何度も繰り返された「世界の選定の記録」があった。

レネは何度も転生し、何度もカイと出会い、そして、何度も彼を“封印”していた。

選定者とは、「未来を選び直す者」ではなく、「滅びを選ぶか、共に歩むかを決断する魂」だったのだ。

暴走しかけたカイは、記憶の中でレネとの過去の会話を思い出していた。

「君が目覚める時、僕はもう一度、世界と向き合う覚悟をする」「だから、今度こそ……君が“僕を選んで”ほしい」

それは最初の転生で交わされた、カイとレネの“約束”。

だが、その記憶をレネは転生のたびに失っていた。それでも、カイは何千年も待ち続けていた。

暴走したカイの前に、レネが歩み出る。

「カイ。私、思い出したの。あなたがずっと、私を待ってくれていたこと。それでも、私は何度も、あなたを見捨ててきた」

カイの目がわずかに揺れる。空が崩れ、大地が軋む中で、彼はただ立っていた。

「でも今度は違う。今度こそ、私はあなたを“選ぶ”」

レネの手が、彼の手に重なった瞬間、世界が静まり返った。

空の裂け目が閉じ、大地が光に包まれていく。すべての使徒が霧散し、風が穏やかに吹き抜けた。


エピローグ : 今より、これからの君へ


時は流れ――。

“調律”の果てに、世界は再び静かに息を吹き返していた。

レネとカイは、旅の終わりに“記憶の塔”を離れ、名もなき草原にいた。

「もう“選定者”ではなくなった気がする」

レネが笑った。

「そうだね。僕ももう、“滅びの君”じゃない」

「じゃあ……今度こそ、名前で呼んで」

カイは一瞬目を細め、優しく微笑んだ。

「……レネ」

二人は並んで歩き出す。過去の呪縛を超え、未来を選び直した、たった一組の魂として。

空は、あの日と同じ青だった。


──すべてが終わったかに見えたあの日。世界は調律され、レネとカイは自由な未来へと歩き出した。

だが、その影にはまだ一つ、語られていない過去があった。それは、「かつての親友」だった者との決別の約束。

時は遥か昔、まだカイが“滅びの君”としてではなく、ただの“調律の少年”だったころ。彼には一人の親友のような存在がいた。

その名は──ラグス。

ラグスは、かつての世界の防衛機構《十二の柱》の一人。カイはまだ“調律の少年”だったころ《十二の柱》の一人であった。

「カイ。もしもお前の力が暴走する時が来たら、俺が止める」「たとえお前が望まなくても、俺が“お前の滅び”を引き受ける」

その言葉は、いつか訪れるかもしれない破滅の予兆に備えた“相互契約”──それが、二人の約束だった。

だが千年前の大調律で、カイは力の暴走を引き起こし、世界を半壊状態に追い込んだ。

ラグスは契約に従い、カイを“止める”ために行動する。だがその戦いの中で、世界は誤ってカイを「滅びの君」として記録、封印し、ラグスには「裏切った者」「盟友を封じた者」という烙印が残った。

「……お前は、俺の“信じた世界”を壊した」「だから俺は、お前を止め続ける。それが約束だっただろう、カイ」

それ以来、ラグスは「滅びの君が再び目覚めた時には必ず殺す」と誓い、封印の周辺を監視する影の守護者となっていた。

そして、カイとの“相互契約”の元、ラグスはの“反調律者”として数千年も生き長らえるようになっていた。

だが、レネが現れ、世界が調律され、平和の兆しが訪れたあと。カイとレネのもとに、一人の男が訪れる。

フードを脱いだその姿は、どこか懐かしさを滲ませていた。

「……まだ生きてたんだな、ラグス」

「お前こそ。調律してもらっても、顔は変わってねぇな」

二人は、過去に交わしたあの言葉を思い出していた。

「もしも俺が暴走したら、お前が止めてくれ」

「……その時、お前がまだ“俺の親友”でいられるならな」

カイは静かに答える。

「俺は、お前に止めてもらってよかったと思ってる。あの時、俺は確かに終わりかけてた。でも、今……俺は“選ばれた”んだ。レネに」

レネがそっと隣に立ち、ラグスに頭を下げる。

「あなたが止めてくれたから、カイは今ここにいる。……ありがとう」

ラグスは驚いたように目を見開き、そして小さく笑った。

「……なんだ、ずっとひねくれてたのがバカみたいだな」

風が、あの日と同じように吹き抜けた。

かつて交わした約束は、誤解と痛みを経て、ようやく赦しと理解のもとに回収された。

そして、最後の“封印”は解かれた。

すべては、過去から始まった物語だった。だが今、ようやく過去に「さようなら」が言えた。

カイとレネは、もう「滅びの君」と「選定者」ではなかった。ただ一人と一人として、共に生きていく未来を選んだ。


――本当の意味で、世界は救われたとさ。


ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

少し長い旅だった?

書いてる私自身もこの物語を何度か滅ぼしました。

そのせいで破綻してるとこもあるかも?


でも、カイとレネが何度もやり直して、選び直して、ようやく「さようなら」を言えたように、

物語の中にも、現実の中にも、“未来を選び直す瞬間”って、たしかにあるんじゃないかと思っています。

滅びの君が救われたこと、選定者が笑えたこと、そして読者のあなたが、最後までこの物語を見届けてくれたこと。

どれも奇跡みたいで、ありがたくて、ちょっとくすぐったいです。


この物語が、あなたの心の片隅に、小さくても灯を残してくれたなら、

作者は世界が一回くらい滅びても大丈夫な気がします。


まぁ、この物語はシリーズなので、まだ終わった訳じゃないです。

次でこの物語に滅びを与えます。

こちらの方もよろしくお願いします。

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