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第十二章  依頼達成

 隣町に到着し、フィズに宿をとってもらった。


「我々は明日、早朝から出発いたします」


「おお、分かった」


 そう答えると、フィズは少し難しい表情になってこちらを見てきた。


「……そ、その、王都までは付いてきてくださらないでしょうか?」


 なんとも言えない顔でそう言われて、笑って手を左右に振った。


「悪いが、一度街に戻らないといけない。後から追いかけるから心配するな。まぁ、間に合わなくてもどうにかなるから、安心してくれ」


 そう告げると、フィズは悲しそうに俯き、すぐに笑顔で顔を上げた。


「……分かりました。レンさん。この護衛、ありがとうございました。また、会えたら嬉しいです」


 フィズはそれだけ言って別れた。まぁ、準備はしたから大丈夫だろうが、一旦家に戻ったらすぐに出発するとしよう。


 そう決めてから、宿に泊まった。


「おとまり!」


「ひろい!」


 どうやらフィズが奮発してくれたらしく、宿はかなり高級な店となった。リョウとサーヤは大喜びで食堂で食事をし、湯浴みをして寝室で騒いでいる。ちなみにカクタス達やディッキーも同じ宿に泊まっているが、疲れ果てていてすぐに寝室で休んでいるようだった。


「明日は早いから、すぐに寝るぞ」


 注意するが、興奮状態のリョウとサーヤはベッドの上を転がっていて聞いていない。


「のどかわいた!」


「おみずーっ!」


「はいはい」


 調子に乗った二人に苦笑して返事をする。まぁ、二人はかなり頑張っていたから、今日は出来るだけ遊んでやるか。


 そう思って、冷たい水を用意してやったのだった。





 翌日、欠伸交じりのカクタス達が起きてくる前に黒鱗狼達の死体を売って得た報酬を使って馬車を購入し、出発の準備を整えた。本来ならカクタス達が受けた依頼だが、報酬はディッキーも合わせて人数割りをすることとなり、かなりの金額を手にすることになったのだ。


 カクタス達が御者と護衛をしてくれた為、かなり快適な帰路となった。街に到着して、冒険者ギルドに報告へ向かう。


「おお! レンさん!」


「あ、リョウくんとサーヤちゃんよ!」


「おかえり、二人とも!」


 受付に行くと、タイミング良く三人が揃っていた。ギルドマスターはこちらに向かって手を振り、受付嬢二人はリョウとサーヤに笑顔で手を振っている。


 リョウとサーヤは嬉しそうに受付嬢達の方に行って依頼達成の報告を行った。


「ただいま! いらいたっせいしたよ!」


「おおかみをいっぱいたおしたの!」


 その報告に、受付嬢達は目を細めて何度も頷く。


「うわぁ、二人とも凄い!」


「狼も倒したのね!」


 褒められて、リョウとサーヤは恥ずかしそうに笑った。その様子を横目に見つつ、メトロに対して口を開く。


「それで、依頼は達成したんだが、依頼主のフィズから別の依頼をされたんだ。悪いが、リョウとサーヤを家に送ってやってくれるか?」


 そう告げると、メトロがハッとした顔になり、すぐに血の気が引いたように白くなった。


 何かマズいことがあるらしい。


「……なにがあった?」


 気を引き締めて確認すると、メトロは泣きそうな顔で顎を引く。


「……その、イリヤさんが、滅茶苦茶怒ってますが……」


 そう言われて、愕然とする。


「……出発する時に、イリヤに伝言を頼んだはずだが」


 確認するが、メトロは首を左右に振る。


 口の中がカラカラに乾き、唾を飲むこともできない。


「そ、その……きちんと、一言一句違わずに伝えたのですが、イリヤさんが納得してくれることもなく……」


 メトロにそう言われて、俺はフィズの後を追うことを諦めた。


「……分かった。先に家に帰ることにする」


 そう告げると、メトロは乾いた笑い声をあげて頷く。


「もし、必要ならギルドの人間を派遣して擁護させていただきますので……」


「本当か? よし、今から一緒に来てくれ。頼むぞ」


「え? 今から? 私が?」


 戸惑うメトロの肩に手を置き、逃がさないようにして首肯した。


 さぁ、本当のボス戦を始めようか。





【フィズ】


 結局、レンが追い付くことなく王都まで到着してしまった。


 最短距離を突き進んできたのだ。当たり前と言えば当たり前である。レンを超人と認識し、馬より早く走って追い付くかと期待してしまっていた方が問題だ。


 下手な希望を持っても仕方がない。今は、何よりも先に我が国の未来を守る為に行動しなくてはならないのだ。


「……行きましょう」


 私は覚悟を決めて、皆にそう告げた。


 そして、ガリアーノ達を連れて王城へと向かう。暫く待たせられたが、それでもその日のうちに謁見が叶うこととなった。


 運命は私に味方しているのかもしれない。


 そう思って、前向きになれるように意識しながら謁見へと進んだ。


 大国の王城は豪華絢爛で、調度品一つを見ても驚くほど立派なものだった。小国とはいえ、自分とて城に住んでいたのだ。だが、それでも委縮してしまうほどの違いがあった。


 しかし、それは謁見の間に入って更に上書きされることとなる。


 見上げるような高い天井。人より大きな柱が幾つも並び、壁際にはずらりと騎士達が並んでいる。床に敷かれた絨毯一つとっても踏むのを躊躇うような代物だ。


「どうぞ、前へ」


 謁見の間に入って立ち止まっていたら、扉の左右に立つ騎士から先へ行くように促された。それに黙って頷き、奥へと歩を進める。


 まるで罪人のような気持ちになりながら謁見の間を進むと、とある地点で声を掛けられた。


「そこでお待ちください」


 そう言われて立ち止まると、謁見の間の奥にある大きな椅子の奥から、マントを羽織った老人が現れた。威厳のある長い白髪と白い髭が特徴的な老人だ。一目で、陛下であると知れた。


「ハーベイ王国国王。ラムレット・ジュレープ・ギム・ルン・デベルノ・ハーベイ陛下の御前である!」


 その言葉に片膝を付いて頭を下げる。すると、陛下は片手を挙げて声を発した。


「良い……モスカ王国よりわざわざ足を運んできたのだ。楽にしてくれ」


 陛下は落ち着いた低い声でそう言ってくれた。それにホッとして顔を上げる。しかし、その顔を見て再び肩に力が入った。八十に近い年齢だったはずだが、その眼光は全く衰えていないように見える。厳しそうな雰囲気ということもあり、私は口の中が乾いていくような感覚に陥った。


 大国の王。まさに、相応しいだけの威厳を持つ人物だ。


「ご、ご挨拶をさせていただきます……モスカ王国第二王女、フィザエル・リグ・フォールンテールと申します。この度は、快く謁見に応じていただき、感謝の念に堪えません」


 そう告げると、陛下は小さく頷いて口を開いた。


「良い。それで、モスカ王は健在か?」


「は、はい! 陛下は健在です。その、本日謁見させていただいた理由なのですが……」


 恐縮しつつも、何とか本題を伝えようとした。


 これまでの経緯も合わせて説明をしていくと、徐々に陛下の表情は険しいものとなっていく。


「……なるほどな。帝国は、領土拡大に乗り出したということか。それは我が国としても何とかしたいところだが、すぐには動けそうにないな」


「そ、それは……」


 思わず、陛下の言葉に口を挟みそうになる。慌てて口を閉じたが、陛下の眉根が寄っていることに気が付いてしまう。


「……お主も王族であれば理解出来よう。国とはそう簡単に動けるものではないのだ。まずは、わが国でも情報収集を行い、上級貴族を交えて会議を開く必要がある。他国の選択についても調べる必要があるのだ」


「し、しかし、それではあまりにも時間が……」


 陛下の言葉に、焦りから再び反論をしてしまった。陛下の眉間には深い縦皺が刻まれているが、ここは引くことが出来ない。どうにかして、陛下に少しでも早く動いてもらう必要があるのだ。


「あ、あの……もし、可能であれば、私は……」


 陛下が素早く動けるように切っ掛けを作る。その為に、王子と婚約をして大義名分を作らせてもらいたい。そう口にしようとした。しかし、一瞬レンの顔が思い浮かび、声が出なかった。


 すると、陛下は難しい顔のまま顎を引く。


「……なんだ? 言うが良い」


 そう言われて、レンから書状を渡されたことを思い出す。


「は、はい! その、別件となりますが、冒険者のレンという者から書状を預かっておりまして、それをお渡し出来ればと……」


 そう告げると、陛下は顔を上げた。


「何? それは何処にある?」


 陛下がそう呟くと、壁際に立つ騎士の一人が前に出て口を開く。


「はっ! こちらに預かっております!」


 騎士がそう言ってトレイに乗せた書状を掲げると、陛下は険しい顔で騎士を睨みつけた。


「我にあてた書状があるのならば早く報告せよ」


「は、ははっ! 申し訳ありません!」


 陛下が低い声で叱責すると、騎士は恐縮した様子で陛下の方へ歩み寄った。陛下の後ろに立つ鎧の色が違う騎士がその書状を受け取ると、恭しく陛下へと差し出す。


「ふむ……まさに、これはレン・トウヤのサイン」


 と、驚くべきことに陛下はレンのフルネームを口にして書状を読み始めた。どれだけ高ランクとはいえ、陛下がこのような態度をとるとは、レンはいったい何者なのか。


 目を丸くして書状を読む陛下を見つめていると、不意に陛下がウッと呻き声を漏らした。いや、陛下が書状を読んで呻くなど、そんなことがある筈がない。聞き間違いだろう。


 そう思ったが、陛下は明らかに焦ったような顔で書状から視線を外し、こちらに顔を向けた。


「……フィザエル姫」


「は、はい!」


 突然名を呼ばれて、慌てて返事をする。それに頷き、陛下は口を開いた。


「我がハーベイ王国はモスカ王国との同盟を公式に表明しよう」


「は、はい……え!?」


 陛下の口にした言葉が理解できず、変な声が口から出てしまった。それに陛下は神妙な顔になり、目を細める。


「……先ほども申した通り、帝国が武力をもって勢力を拡大することは望むところではない。すぐに周辺諸国にも通達を出し、帝国の侵略行為と我が国とモスカ王国の同盟とを伝え、周辺諸国も巻き込んで帝国の侵略を食い止めてみせよう。兵についてはモスカ王国近郊に領地を持つ貴族にも協力させる故、早急に援軍を編成出来るはずだ」


「ほ、本当ですか……っ!?」


 唐突に陛下はモスカ王国への全面協力を申し出てくれた。どういうことかも分からないが、この謁見の間で他国の王族を相手に嘘を吐くようなことは出来ない筈だ。


 ならば、これで我が国は救われるのか。


 信じられないような気持ちで陛下を見ていると、書状を片手に苦笑が返ってきた。


「姫よ。お主は強運の持ち主だな。それも、恐らくは世界一の強運だ」


「は、はい……? 私が、ですか?」


 確かに、今この瞬間は間違いなく強運が味方してくれたと思う。だが、そもそも強運なら我が国存亡の危機などに見舞われなかったのではないか。そう思ったが、陛下は大きく頷いて私の考えていることを否定した。


「その通りだ。姫の住むモスカ王国に危機が訪れなければ、姫はレンと出会うことも無かっただろう。羨ましい限りだ。レンは、随分と姫を気に入っているらしい」


 そう言って笑う陛下の言葉に、ようやく自分の強運の意味が理解できた。


 一国の、大国の王をも動かすことが出来る世界最高の冒険者との出会い。これが、私の持つ強運の正体なのか。


「あ、ありがとうございます……本当に、ありがとうございますっ!」


 少しずつ、実感が湧いてきた。気が付けば、目には涙が浮かんでいる。深く頭を下げて感謝を伝え、涙を流した。ぼろぼろと流れる涙を拭くことも忘れ、心の中でレンに感謝する。






 各国への通達内容に対する会議や、援軍を送る先などの会議。全てが終わり、ようやく王都から自国へ帰ることが出来る。


 そう思った時、王都にレンが到着した。


「レンさん!」


 わざわざ王城に訪ねにきてくれたレンに笑顔で飛びつき、名を叫ぶ。


「ありがとうございました! レンさんのお陰で、私の国は……モスカ王国は救われます!」


 一気に溢れた涙を止められず、レンの首にしがみ付くようにして感謝の言葉を口にする。すると、レンから焦ったような声が聞こえてきた。


「お、おお。それは良かった。とりあえず、離れてくれるか?」


「あ、は、はい! 申し訳ありません!」


 気恥ずかしくなってすぐに離れたが、レンの隣でこちらを睨む小柄な少女に気が付いた。


「……浮気」


 少女が小さな声でそう呟くと、レンは音が鳴るほどの勢いで首を左右に振る。


「違う違う違う!」


 必死に否定するレンを見て、思わず笑いそうになってしまう。この瞬間だけは、レンが妻に誤解されて怯える気弱な夫にしか見えなかったからだ。圧倒的なまでの戦闘能力を有し、信じられないような固有の魔術を持ち、そして大国の王をも動かすことが出来る実績を持つ世界最高の冒険者。それが、妻の一言であれだけ慌てている。そのギャップがとても面白く、可愛らしいと感じられた。


 そして、密かに自分が抱いていた感情を胸の奥に押し込む。


「うわき?」


「パパ、うわきってなに?」


「む、むむむ……」


 リョウとサーヤに無垢な目を向けられながら質問されて、レンは腕を組んだまま苦しそうに唸り続けていた。そんな微笑ましい光景を眺めて温かい気持ちになっていると、イリヤが傍に歩いてきた。


「浮気してない?」


「あ、も、勿論ですよ」


 問いただされて苦笑と共に答えると、イリヤは頷いて私を見上げた。思わず撫でたくなるような可愛らしい見た目だが、これで二児の母とはどういうことだろう。いったい、イリヤは何歳なのだろうか。


 もしかしたら、レンは特殊な性癖であるかもしれない。


 そんなことを思っていると、イリヤが再び口を開いた。


「……そういえば、護衛依頼には女の冒険者がいたと聞いた」


「ああ、ディッキーさんですね。とても可愛らしい方でしたよ」


 イリヤの質問に答えると、イリヤの頭の上にある獣の耳が左右にぺたんと倒れた。そして半眼の目でこちらを見上げてくる。物凄く可愛い。どうしよう。撫でたら怒られるだろうか。


「……それも怪しい。調査する」


「え?」


 イリヤの嫉妬する様子を見て色々考えていると、そんな言葉が聞こえた。首を傾げてイリヤを見ると、怪しい目つきで小さく頷く。


「何故なら、突然泊まり込みで依頼をしてきた。とっても怪しい」


「あ、それは申し訳ありません……私が急ぎの依頼だとお願いしたので……」


 そう謝罪すると、イリヤの目が本当の猫のように丸くなった。


「……やはり、一番の本命はフィズ?」


「ち、違いますよ! それに、レンさんは本当に家族を愛していますから。リョウ君とサーヤちゃんのこともそうですが、貴女のことも」


 そう告げると、イリヤはスッと無表情になり、レンの方に目を向けた。しかし、耳はピンと立ち、尻尾も嬉しそうに揺れていた。頬が真っ赤に染まっているところなど、まるで少女のように可愛らしい。


「これは、とても敵いませんね」


 苦笑しながらそう呟くと、イリヤの耳がピクリと揺れた。


 それに慌てて口を噤む。聞こえたのか、それとも聞こえなかったのか。どちらかは分からなかったが、危険だと分かっている区域に立ち入るべきではないだろう。


 もしかしたら、最強の冒険者だと思っていたレンより、その妻の方が強いのかもしれないのだから。





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