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序章  双子の誕生

夏休み突入ということで短めのお話を掲載!

全十四話のお話ですが、読んでいただけると幸いです!





 真夜中の雨。厚い雲で月や星は見えず、季節外れの雨が延々と降っていた。


 今いる場所は我が邸宅の書斎である。周囲からも美しいと評判の真っ白なお屋敷だが、中も随分と手が込んでいる。玄関となる広いロビーには執事室が隣接しており、来客時や不法侵入者が現れた際には警備員兼執事のシャンが何時でも対応することが出来る。


 正面には大きな階段があり、上部は左右に別れている。二階と三階には来客用含む寝室が五部屋と書斎、小さめの浴室、トイレ等がある。一階には応接室、執事室、食堂、厨房、大浴場、トイレといった感じだ。庭も広く、プールや大きな倉庫も設置されていた。


 三階にある書斎の窓からは庭が良く見える。大きな窓の前に一人掛けのソファーを置き、手元に置いた小さな丸テーブルの上には分厚い本が幾つも積まれていた。書斎は約十五畳ほどの広さで、壁一面に本棚が並んでいる。木製の低いテーブルとソファー、執務用の机と椅子といった家具がある程度だ。広々とした空間で、俺は優雅に本を片手に来るべき時を待っていた。


 そこへ、室内に大人しめなノック音が響く。数秒もすると、外から扉が開かれ、執事のシャンが姿を見せる。スーツに似た黒い衣装を身にまとい、経験に裏打ちされた見事な所作でこちらに向き直るシャン。髪は白髪だが、年齢は三十歳を超えた程度だ。


「旦那様、まだまだ時間はかかるかもしれません。いざという時はお声がけしますので、お休みになっては……」


 シャンが心配そうにそんなことを言ってくるが、夜更かし程度大したことではない。


「大丈夫だ。とりあえず、まだ目が冴えているからな」


 顔を上げてそう言うと、シャンは眉を八の字にして顎を引いた。


「……しかし、後一、二時間ほどで夜が明けます。先ほど確認したところ、まだいつになるか分からないとのことでした。一度休んでおいた方が……」


「もうそんなになるのか……いや、それでも寝られそうに無いからな。とりあえず、もう少し本を読んでいよう」


 そう告げると、シャンが口元に拳を寄せて軽く咳払いをした。


「……旦那様、失礼を承知で申し上げますが、本が逆に……」


 言い辛そうにそう言われて、自分の手元にある本の内容に目を向ける。本は半ばまで読み進めていたつもりだったが、どうやら全く頭に入っていなかったようだ。


「……落ち着いているつもりだったが、全然ダメだったようだな」


 溜め息を吐いてそう呟くと、シャンは難しい顔で頷く。


「それは仕方がないことかと……特に、旦那様にとっては初めてのことで……」


 シャンがそう言いかけた時、再び外からノックが聞こえた。その音を聞いて、シャンが素早く返事をして扉の方へ向かう。


 シャンが扉を開けると同時に、肩で息をしたメイドが用件を伝える。


「う、生まれました! 母子共に無事でございます!」


 その言葉を聞き、本を閉じて椅子から腰を上げる。


「そうか……!」


 返事をして視線を向けるとシャンが黙って頷き、先に部屋を出た。先行するシャンに続いて廊下を進み、寝室の一つの扉をシャンがノックする。


「失礼します。旦那様をお連れしました」


 シャンがそう言うと、中から声がして扉が開かれた。メイドの一人が涙目で顔を出し、こちらを見上げるように見た途端、目から涙があふれ出す。


「だ、旦那様! 奥様が、奥様がお待ちです!」


「……イリヤは大丈夫なんだよな?」


 メイドの涙に不安になって尋ねてしまったが、メイド達は慌てて頷く。


「す、すみません! お、奥様はお元気です! 意識もはっきりしております!」


 メイドの答えにホッとしつつ、深呼吸をしてから寝室へ入る。


「イリヤ、大丈夫か?」


 声を掛けながら寝室に入ると、奥の方にある大きなベッドを見た。寝室には椅子とテーブル、ソファーがあり、奥にはダブルサイズのベッドがある。近くには少し背の高い丸テーブルがあり、その上には桶が置かれていた。


 ベッドの傍にはメイドが一人付いていて、イリヤはベッドの上で横になったまま俺の顔を見て笑っている。


「……大型魔獣の討伐よりも大変だったけど、頑張った」


 イリヤが愛嬌のある笑みを浮かべてそう呟いた。獣人族としての大きな猫耳が揺れる。イリヤは赤銅猫の獣人と呼ばれる種族である。髪は猫耳と同じく暗い赤色をしていて、瞳も同様だ。戦闘特化の一族と呼ばれるだけあり、ロングソード一つ持てなそうな細身で小柄な体型でありながら、魔術によって強力な冒険者として名を馳せた過去がある。


 イリヤの頭を軽く撫でてから、隣に寝かせられた赤ん坊に視線を向ける。赤ん坊なのに、もう髪が生えていて頭には獣の耳、お尻からは尻尾も生えていた。予想では人間の血が強ければ俺と同じ黒髪に、獣人の血が強ければ赤髪となるかと思っていたが、なんと双子は黒髪の獣人だった。


「まさか、双子とはな」


 出産の一週間前にも同様のことを口にしたが、実際に二人の赤ん坊を見てもう一度同じ言葉を口にした。


 赤ん坊は仰向けになって静かに眠っている。館の防音性などにこだわったせいで産声を聞くことは出来なかったが、いずれ泣く声も聞くことが出来るだろう。


「……頑張ったな、イリヤ。ありがとう」


 そう言うと、イリヤは歯を見せて笑う。


「えへへ……ほら、二人を抱いて」


 照れ笑いを浮かべつつ、イリヤはそう言った。それに頷くと、話を聞いていたメイド達が二人歩み寄り、ベッドで静かに寝ていた赤ん坊を優しく抱き上げた。


「旦那様、どうぞ」


「あ、赤ん坊は首に力が入りませんので、お気を付けください」


 そう言われて、一気に不安になる。


「ふ、二人同時で大丈夫か?」


 どうしようどうしようと思いながら両手を伸ばすと、もう一人のメイドが苦笑しながら歩いてきた。そして、「失礼します」と言いながら俺の両手を持って籠を形作るように動かした。そのまま固まっていると、二人のメイドが俺の腕の中に二人の赤ん坊を乗せる。


 冗談のように軽いのに、何故か腕にはずっしりとした重みを感じた。二人は俺の腕の中でも静かに寝ていた。じっと眺めていると、イリヤが苦笑して口を開く。


「……それで、二人の名前はどうする? 私はゴードンとマチルダが良い」


「そうか。一応、俺も考えていたんだけど、ちょっと一般的じゃないからなぁ」


 イリヤの質問に赤ん坊を見ながら答える。すると、イリヤは首を傾げてみせた。


「別に一般的でなくても良いと思う」


 その言葉に、軽く頷きながら口を開く。


「そうか? 男の子の方はリョウ、女の子の方はサーヤという名前なんだが……この辺の地域では聞かないよな」


 そう告げて笑うと、イリヤは首を左右に振った。


「確かに聞かない名前だけど、良い響き。その場合は、リョウ・トウヤとサーヤ・トウヤ?」


 イリヤが笑いながら俺の考えていた名前を反芻する。すると、メイド達が手を叩いて微笑みを浮かべる。


「リョウ様、サーヤ様!」


「良いお名前ですね!」


「旦那様の御子様らしいお名前です」


 メイド達が大喜びする中、シャンが傍に来て頷いた。


「おめでとうございます。旦那様。これで、トウヤ家の未来は安泰ですね」


 そう言ってシャンが微笑を浮かべる。それに頷き返し、リョウとサーヤを見た。


「そうだな……二人がどんな風に育つのか、楽しみだ」


 そう言って何となく窓を見ると、既に夜明けを迎えていたのか、陽の光が差し込んでいた。





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