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11.再びの邂逅

 宴が終わり()(ほう)たち使節一行は用意された来賓宿舎に宿泊した。

「袁太傅、どうやら冀燕王は涼夏への投降を念頭に考えているようですが如何しましょうか」

 (えん)(たく)は梨鳳の問いかけに口を開いた。

「これは国事ですので、私の一存での回答は当然ながらできませんが、時間も無いので早急に堂陽に報せ太子に対策を仰ぐことにします。私は手紙をしたためますので、失礼する」

 そういうと袁卓は梨鳳の部屋を出ていった。

「出てきて良いぞ。二人とも」

 梨鳳の声に(りく)(こう)(りく)(おつ)が姿を現した。

「公子、冀燕王は本当に涼夏と同盟する考えなんですかね?」

「……墓穴を掘るようなもの……だ」

 梨鳳は二人に笑いかけた。

「墓穴にはならないように、二人には悪いが、一人はすぐに堂陽のお爺様の元へ戻って私兵を可能な限り郢州へ集めてほしい。一人は郢州にいる兵力の九割を冀燕の都周辺に集めて駐屯させてくれ」

「どういう事ですか? 涼夏とやりあうつもりなんですか!?」

「……俺も、う……宇文と戦ってみたい……ぞ」

「早まるな。あくまで他国の事に手を出すんだからそう簡単に戦うわけにはいかない。ただ冀燕王の密勅は手に入れてある。だから、早急に準備しなければいけない」

「わかりました。じゃあ、俺が堂陽に行きますよ。乙、お前は郢州から兵をかき集めてこい」

 梨鳳はすぐに手紙を書き、陸甲に持たせ、陸乙には郢州太守の令牌を持たせた。二人はすぐに窓から飛び出して外の闇に姿を眩ませた。

「樂榮、いるか?」

 扉を開けて樂榮が入ってきた。

「公子、ここに」

「陸兄弟にそれぞれ都と郢州から兵を集めるように命じたところだ。もう一度、宇文禮貴と戦う機会が来そうだからな。それまでできる限り冀燕の状況把握と敵の状況把握しておきたい。そして、袁卓をどうにか帰国させたいが……」

「承知しました。冀燕の百官で丞相の息がかかった者が多くいますので、そちらから手を回しておきます」

「そうか、お爺様は偉大だな。では、俺は都の構造を把握する為に散策でもしてみるか」

 二人は夜遅くまで今後の動きについて確認した。

 翌日、袁卓は手紙を堂陽に送る為、同行していた部下を数人帰国させた。

「太子は冀燕を見捨てるというだろうな。しかし、そうなれば『唇亡びて歯寒し』となるのは目に見えているからな」

 袁卓は独り言を呟きながら宿舎の庭にある亭内に座っていた。

 そこへ梨鳳が立ち寄って声を掛けた。

「手紙を出されたようですね。私はしばらく冀燕の都を散策して国情把握をしますが、同行されますか?」

「遠慮しておきましょう。私は冀燕百官たちから状況を探ることに致します」

「そうですか。では、太傅の情報を楽しみにしていますよ」

 梨鳳は挑戦するような口ぶりで、袁卓に答えた。袁卓は微笑して、部下数人を連れて宿舎を出て行った。

「さて、太傅は狙い通りになったと……。散策に出るか」

 梨鳳は単身、街へと繰り出した。


―ひと月後― 

「殿下、そろそろひと月経ちますので、冀燕に向かっても良い頃かと思います」

「お、もうそんな頃か。そうだな馬の放牧にも飽きたし、国を取りにいくのもいいか!」

 草を食む馬たちを眺めながら、宇文禮貴は軽く伸びをして立ち上がった。

「冀燕の公主を抱きながら国の滅亡を眺めるのも悪くない」

 近くに繋いでいた乗騎に跨がると宇文禮貴は走り出した。


 涼夏軍が冀燕の都から百里のところに野営すると、城内に迎親の使節が派遣された。もちろん、先頭を行くのは赤い婚服を着た宇文禮貴だった。

 城内は公主が出嫁する雰囲気とはかけ離れる程に静寂に包まれて、全く民を見かけなかった。

「国が滅んだような雰囲気だな。これでは折角の祝事が台無しだ」

「殿下の仰る通りです。もしや、罠でも仕掛けているのではないでしょうか?」

 宇文の不満の声に便乗して副将の()(すい)が心配を口にした。

「それなら俺の言った通り城外に戦死した兵を放置しないだろ。罠なんて仕掛けるようなタマじゃねぇよ」

 宇文禮貴が嘲笑しながら隊列を率いて王宮前に到着した。

「涼夏三皇子が公主をお迎えに上がった。門を開かれよ!」

 胡遂の声に応えるように王宮の前門が開かれた。

 王宮の中から冀燕国丞相の(ぼく)(えい)が文武百官を率いて現れた。

「お待ちしておりました。殿下、王宮内は下馬していただきたいですが、いかがかな?」

 宇文禮貴は失念していたかのようにわざとらしく返答した。

「おっと、これは失礼したな。庭は乗馬するのが趣味なんだよ」

 文武百官は色めき立ったが、穆叡は冷静に再度、下馬を要求した。

「下馬いただけますかな、……駙馬爺(むこどの)

 宇文禮貴は仕方なさそうに馬から下りた。

「では、丞相殿(おじうえ)ご案内いただけますか?」

 穆叡は冀燕王の兄であったが側室の生まれだったので、王位には(ぼく)(えき)が即いた。佳玲と惠玲を自分の娘のように愛していた。故に佳玲を連れ去ろうとしている宇文禮貴には棘のある対応をした。

 涼夏侵略の際は穆叡も守将の一人として戦闘に参加したが、敗北が間近に見えると側近たちは彼を城内に引き戻した。穆叡も若い頃は武将として名を馳せたが、既に還暦を越えた身体では宇文禮貴と直接戦っても勝てる見込みもなかった。

「我が国の公主を迎えるには、結納品が少なすぎるのじゃないかな?」

「ふん、敗北したくせに欲をかくと本当に国が滅ぶことになるぞ」

 宇文禮貴は百官たちをかき分けるようにして王宮内へ進んだ。

 宮門を越えて、しばらく歩くと急に門が閉じられる音がして、宇文禮貴が思わず振り返った。

「ん、何の余興だ? それとも冀燕の風習なのか?」

 すると前方の殿前から聞き覚えのある声が響いた。

「思いがけず、また会ったな!」

 宇文禮貴が目をこらして殿前を見ると仮面を付けた男が立っていた。

「お前は……?」

 訝しげに近づいていくと、見慣れた背格好の男が立っているのが分かった。

「翠魏の長利凰じゃないか。これは恐れ入ったな、冀燕の王宮にまで俺に会いに来たっていうのか?」

「それは少し自信過剰なんじゃないか? 翠魏と冀燕は聯姻関係だからいてもおかしくないだろ。公主を娶りに来たからめでたい思考になってるのか?」

 梨鳳の挑発に、宇文禮貴は少しだけ眉間に皺を寄せた。

「祝い酒を呑みに来たなら歓迎するが、別の意図なら少し空気が読めなすぎるな……」

 宇文禮貴の言葉は少しだけ殺気を帯びた。

 梨鳳は気にせず言葉を続けた。

「気性が激しいな。ただ、残念だが今日は新郎にはなれないぞ」

 梨鳳は隠し持った剣を宇文禮貴に投げ渡した。

「どういうつもりだ?」

 掴み取った宇文禮貴は鞘からすぐに剣を引き抜いた。

「この前の勝負をつけようと思ってな。お前もそう思うだろ? ()()!」

「こんなすぐにお前とやれるとも思ってなかったけどな。邪魔を遮断したんだから楽しませてくれよ!」

 そう言うと、宇文禮貴は剣を振りかぶって斬りかかった。

 梨鳳は背中に隠した槍を真横に構えて、剣撃を受け止めた。

 ガチンッ!!

 武器がぶつかる金属音と同時に宇文禮貴が叫びを上げた。

「お前の頭蓋で祝い酒を呑むぞ!」

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