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はじまり
大陸に乾いた風が吹いていた。
都・堂陽の空には雲ひとつなく、遠くで楽音が雅やかに響き、祝砲が数十発放たれた。この祝砲は、彼と彼女の為に鳴り響く筈だった。
その彼は、駒として殺されそうになったが殺されなかった。
いや、殺されたことにされた。
張家の末子・張梨鳳。
太子に仕えながらも、太子の手によって命を奪われることになった。
政と血と誓いと嘘に巻き込まれ、祖父の手で政治の駒とされ、気づけば愛した女は太子妃になってしまう。
「まだ君を愛しているのに、どうして君が太子なんかに嫁ぐんだ……」
梨鳳は若く血気盛んゆえに執念も強かった。
だが力が無い執念は、結局は無力。
命を差し出した代わりに、何も手に入れられないこの国で、再びどう生きるか。
愛する人を取り戻す為にも、この国を、たとえ憎みながらでも動かなくてはならなかった。
物語は、ここから始まった――。




