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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編2

良心の呵責はない

作者: 猫宮蒼



 転生先がとある乙女ゲームの世界だった件。


 あ、どうも。ちなみに自分は攻略対象の一人です。王子の側近的な立ち位置の貴族のボンボンだと思ってくれればそれで。


 前世でこの乙女ゲームを知ったのは、妹が爆笑してプレイしていたからですね。

 あれおかしいな、この手の恋愛ゲームってときめきつつ好きなキャラをキャッキャして攻略していくものでは……?


 妹曰く、現実だったら絶対言わない&言われないだろうセリフが飛び交っててとても腹筋が鍛えられるのだとか。

 まぁ、うん。

 確かに試しに見せてもらったシーンは恋愛ドラマでも言わないだろうし、少女漫画でも今どき言わなさそうな甘ったるいセリフラッシュだった。

 見た事ないけどハー〇クインとかならギリありそうなイメージ。

 ミリしらすぎて完全な偏見だけど。



 攻略対象である以上、一応イケメンに分類されるとは思うけど自分は攻略対象の中では割と地味な容姿だと思う。色とかね、キンキラしてない。

 なのでヒロインとかこっちに狙いを定めたりはしないだろうと思ったし、あっ、じゃあ自分には関係ないかなって思ってたんだ。



 ところが。


 なんとヒロインは自分と同じ転生者だった。

 おかしいな、ゲームで見たヒロインはもっとふわふわした感じだったのに、転生ヒロインはふわふわどころかギラギラしてた。

 恋愛ごとにちょっと鈍くてほわほわしてたヒロインだったはずなのに、目が完全に獲物を狩るハンターの目。肉食系女子どころの話じゃない。


 これは……食われる……ッ!


 思わずそう感じて震えたよね。

 自分の神経がもっと繊細だったら漏らしてたかもしれない。いや、流石にそれはないかな……


 乙女ゲームの舞台は王国にある学園。

 ヒロインは最近貴族の家に引き取られたばかりの、平民感が抜けきらない少女……のはずなんだけど、目がもうね、怖い。ふわふわほわほわのヒロインどこいった。


 この国は、というか世界的に平和すぎて凶悪犯罪とか滅多にないくらいハッピーな世界だったのに、そこにこのヒロインはさ……シル〇ニア〇ァミリーの中にエイリアンとかプレデターぶちこむような所業だよ。


 貴族たちのあれこれだって、そこまでギスギスしてない世界だったのにこんなヒロインさんがやってきたら後の社交とか、とんでもない事になったりしないだろうか……


 まぁ、ヒロインさんに落とされる人物はご愁傷様……きっと自分は見向きもされないから傷が浅く済むように祈るくらいはしておこう。



 ……そう思ってたんですよ。


 ところがヒロインさん、この世界ちょろ……とでも思ったのか、手あたり次第攻略対象に手を付け始めた。


 あの、少なくともゲームでは逆ハーレムとかそういうのなかったはずなんですよ。

 シナリオも同時進行で攻略対象落とす感じじゃなくて、周回プレイかセーブデータ分けて個別ルートに入るタイプのやつだったんですよ。


 なので同時進行で色んな相手にコナかけるのは明らかにどうかと思うんだけども。

 そんな自分の懸念をよそに、ヒロインさんは強かった。

 あっという間に攻略対象の八割を陥落させてしまった。


 ……このままでは不味い。


 何が不味いって、王子にもその魔の手が伸びているのである。


 ゲームのヒロインさんと違って使える手段はなんでも使う、みたいな勢いが凄すぎる……!


 あ、自分も一応ヒロインさんに声をかけられたけど、すいません用事があるので、とそそくさ立ち去って逃げ回ってくうちに先に他の相手から落とそうって考えたらしく、今のところ自分は無事です。


 えっ、でもこれ、どうなっちゃうんだろう……


 逆ハーレムルートなんてなかったはずだけど、あのヒロインならやりかねない。

 失敗しないままうっかり皆でゴールインとか勘弁してくれよとしか思えない。


 一応友人のよしみとして忠告とかしたんだ。他の攻略対象に。

 でも、無駄だったよ……


 そうこうしていくうちに、自分にも再び魔の手は迫ってきた。


 …………今はまだいい。でも、このまま彼女を放置すれば問題しかない。


 そう考えて、自分は最悪のルートを潰すべく立ち上がる事となったのである。



 ――転生ヒロインの貞操観念がぶっ壊れてたのは言うまでもないんだけど、まさか複数名と既に身体の関係になってたという事実には慄くしかない。

 父親が誰かわからない子を王子の子とか言い張ったりしようものなら、生まれた子が王子にも王子の親や祖父母にも似てないとなったらお家乗っ取りどころか王家簒奪。

 そうなった場合、本当の父親まで王家を乗っ取ろうとしたと思われるのである。どれだけ本人が否定しようとも。


 これがまぁ、ヒロインさんものっそい男転がすのが上手くてですね……誰も複数の股かけられてる事に気づけない。ポンコツとか言ってやりたいけど、でもこの世界、今までそういうのないくらい本当に平和な世界だったからさ……そういうの、なかったんだよ。


 なんといえばいいだろうか。


 例えるなら……そう、無理矢理例えるのなら。


 幼稚園児が砂場でキャッキャしながら遊んでるところに、銃持った大量殺人犯が乱入してその後園児たちは哀れ……みたいな事になってそうな展開に近い。


 あんなハニトラにころっと引っ掛かるなよって言いたくなる攻略対象者たちが園児で、凶悪犯がヒロインである。

 ……この例えで既にもうおかしいとしか思えない。


 結婚までは貞淑であれ、と言われている女性たちの中で性に奔放な人は勿論いる。いるけれど、誰彼構わず体の関係を持ったりしたわけじゃない。ちょっとあけっぴろげな女性だって、精々他の令嬢よりはちょっとだけ露出があるかな……? といった、前世基準で見れば全然普通レベルのもの。

 ざっくり言えばスカートの裾が他と比べて数センチ短いとか、その程度。

 前世基準で言えばそれくらいは健全の範囲だ。


 なので、ヒロインのやり口は初心な令息たちには刺激が強すぎて抗えなかったのかもしれない。



 とりあえず、自分に言い寄ってきたヒロインさんには最初は健全に話し相手くらいの距離感を持ちつつ、お菓子を差し入れたりしておいた。

 それを何度か繰り返して、多分これで大丈夫かなと思った頃に。



 ヒロインさんは王子の子を身籠ったとか言い出したのである。



 ――その一件はそれはもう大騒ぎになった。

 結婚前に身体の関係になってることもそうだけど、相手が複数いたと判明したのもあったからだ。


 そのセンセーショナルなニュースは国中に広がる事になるのだけれど、最終的にヒロインさんは辺境というか僻地ド田舎の寒村に追放されて終わった。

 何故って、子供なんていなかったからだ。


 複数の相手と関係を持っておきながら、王子の子と狙い撃ちしてきた時点で彼女が王家を乗っ取ろうとしたと画策されてもおかしくはなかったし、そもそも言い逃れもできそうになかった。


 今まで平和な世界だったので処刑まではいかなかったけれど、それでもヒロインさんはきっとこの世界で希代の悪女として後世にまで名を残すんだろうなと思う。



 ちなみにあれだけヤッといて子供ができなかったのは、自分が彼女に渡したお菓子の中にそういう薬を混ぜていたからだ。

 ほのかな甘みのある薬で、それ故にお菓子に混ぜても気付かれにくい。

 もし彼女が他の人にあのお菓子を分け与えるような事になったら困るから、二人きりの時に、彼女が食べるのを幸せそうに眺める振りまでして何度か盛った。


 本当ならこの薬もあまり大っぴらにできない存在なんだけど……

 泥沼の修羅場になるとわかっている状況を回避するためには仕方がなかった事としよう。


 ヒロインさんにコナかけられた他の攻略対象者たちは別に女性にだらしないわけじゃなかったから、複数の相手と不健全な関係を築いていたとかでもなかった。

 なので性病にかかっていた相手もいないようだ。

 ヒロインさんが攻略対象者以外の、モブにまで手を出していたらどうなってたかはわからないけど。


 もし本当に子供ができていたなら、ヒロインさんの処遇はもっと色々混迷を極めたに違いない。


 何故ってまず王子の子供ができた、という事をヒロインさんが王子に言った時点で王子は確かに驚いたようだけど、でも計算が合わないな……? と思ったので。

 ヒロインさんに押せ押せされてコロッとやられはしたけれど、でも王子は腰を振るだけの猿ではなかったので、子供ができるにしても、でも逆算したらその頃はまだ自分と身体の関係はなかったはずだぞ……? と気づいて。

 結果としてあれこれ調べた結果、他に関係を持っていた相手がいたことが発覚。


 その中の誰かの子ができた可能性もある、とされて、令息たちは顔を真っ青にさせていたのだ。


 だって、もし本当に子供ができていたのなら。そしてもし自分がその父親であるのなら。

 ヒロインさんが王子の子なんて言ったせいで、王家を乗っ取ろうとした一味とみなされてしまうし、流石にそれは重罪すぎて処刑の可能性が出てしまう。


 今まで平和な世界だったから、処刑なんて滅多な事ではなかったのに、その滅多な事が我が身に降りかかるかもしれないところとなれば、そりゃあ顔だって真っ青になるというもの。


 関係者が集められて、彼女と関係を持ったと確定している者から、確定してないけど時間の問題だったと思われる者まで。実に大勢が集められたのである。



 今はまだ子供ができていなかったとしても、それでもやる事やってるのでこの後子供ができる可能性はゼロではない。何せヒロインさんは、王子に子供ができましたの、なんて言う前日まで他の男とやってたのだ。

 調べた時点で子供はできていなくても、この後着床とかしてできる可能性はあったわけで。


 調べた時点ではまだ子供はできていなかったのに、では何故ヒロインさんが子供ができたと言い出したのか。

 心当たりが自分にはあった。


 黙っててももしかしたらそのうちバレるかもしれないし、だったら自分から白状した方がいいだろう、と思って自分から話すことにした。


 ヒロインさんに堕胎薬を盛った事を。


 それも一度や二度じゃない。

 お菓子に混ぜて。

 彼女以外が間違って口にしないよう見張りながら。


 もし赤ちゃんができていたならその薬で死んでしまった事になるけれど。

 でも、王子の子じゃないのに王子の子と偽ったヒロインさんのせいで、もし生まれていたとしてもその子はきっとロクな人生を歩む事はできないだろう。

 生まれてくる場所を間違えたようなので一度お引き取りください。来世はまともな親に愛情たっぷりに育てられますように。


 と、子供に関してはちょっとだけ悪い事をしたなと思うけどヒロインさんに対しては悪いとは思っていません。

 だってやった事国の簒奪未遂だから。


 子供ができていなくても薬を何度も飲んでいけば不妊になるのでヒロインさんの今後の人生で子供が欲しいと思っても多分もう子供出来ない身体になってると思うけど、申し訳ないとは思わないよ。


 誰か一人に狙いを定めて落とすだけならまだしも、あまりのちょろさに逆ハーレムやらかそうとしたヒロインさんだからね。

 そこに自分を巻き込もうとしてきた以上、降りかかる火の粉は払わねばならないの精神でそりゃ自衛するよ。


 ただ、複数の男を手玉にとってたなんて王子の子供ができたの、なんて言い出す前まで発覚すらしてなかったから、自分に言い寄ってきた時点でヒロインさんをあしらおうものならこっちが悪党扱いになってしまうわけで。


 ともあれ、薬の効果というか副作用でだるさが続くとか、食欲がわかないとか、気持ち悪いとか、そういうのが出た事で、ヒロインさんは心当たりしかなかったのだろう。ヤる事ヤリまくってたからね。であれば、それらの不調は悪阻だと思ったに違いない。


 医者にかかって本当に子供ができてから言うにしても、この世界はふわふわハートフルで平和な世界。

 未婚の女性が結婚する前にできちゃった、とかいう事がほとんどないので。

 もし医者にかかれば誰の子だとか、色々と言われて面倒な事になるとか思ったのかもしれない。


 前世でも一応授かり婚とか言う言葉に変わったけど、できちゃった婚は上の世代の人間からの受けが最悪だったので、前世の記憶を持つヒロインさんもそこら辺ふわっと把握していた可能性はある。

 そうでなくとも、いくら平和な世界だとはいえやれ身分だなんだと前世と比べて古臭い時代だと思える部分もあるからね。


 医者経由で自分の両親とかに知られたら、下手したら怒られるどころかぶん殴られるとか考えてもおかしくはない。


 だからって直通で王子相手に言っちゃったのは悪手としか思えないけど。



「……と、まぁ。

 そういうわけで彼女が複数の男性と関係を持ってるの知ってたので、お家騒動とか起きても困るだろうからと思って堕胎薬を盛っていました。

 反省は少ししてますが後悔はしていません」


 複数の令息たちと関係を持っていた事で、現時点で調べた結果まだできていなくても、この後できる可能性がとか言い出していた王子たちにそれはない、と言った自分に対して。


 周囲は知ってたのかよ……みたいな目を向けてきた。

 いや、一応忠告したじゃん。

 誰も聞いちゃくれなかったけど。

 自分にまで言い寄ってこなかったら薬だって盛らなかったよ。


 気を付けてても何かの拍子に睡眠薬とか媚薬とか盛られて無理矢理ヤられる可能性もあるな、って思えるくらいぐいぐい来られてたから、自分の子じゃない子を貴方の子よ、とか言われて押し付けられたりしないように――まぁ、そういわれたのは王子だけど――対処するしかないなって思った結果だよ。


 周囲は薬盛ったとかマジか……みたいに言ってたけど、盛ってなかったら父親が誰かもわからない子が生まれてた可能性が高かったからね。そうなったら泥沼の修羅場に突入することになるんだよなぁ。

 自分が巻き込まれなければ他人事として高みの見物したかもしれないけど。



 結局、お薬を盛るのも本来ならちょっと問題がある行為なんだけど、ヒロインさんのやらかしの方が色々と問題だったから自分は注意だけで済まされました。


 やべぇやつともっとやべぇやつがいた場合、もっとやべぇやつのせいでやべぇやつが案外普通に見えるマジックで事なきを得た。


 ……どうせ子供もできなくなったんだし、複数の相手と肉体関係作るくらいにはお盛んなヒロインさんを限界集落一歩手前の年寄りばかりな村に追放するくらいなら、娼館にでも封印しとけば、って言おうと思ったのだけど。

 ……そもそもこの国にそういうお店ってあったっけ? って思ったのと、その発言のせいで自分が更にやべぇやつ扱いされるのは面倒だったので黙っておくことにした。


 爛れた関係があたりまえ、みたいな昼ドラみたいにドロドロしたところも大概だけど、あまりにも健全ワールドすぎても自分の言動がどこまでセーフかわからなくなってくるよね。



 ぶっちゃけこの一件で自分もやや危険人物みたいに見られるかもしれないなと思ってたけど、最終的に王家を簒奪されるかもしれなかった危機を救ったとか言われて王子の側近候補だったのが側近確定になったんだけど。


 ……そのせいで王子から色々と面倒だとしか思えないような相談とかされるようになったのだけは誤算といえば誤算。


 王子、王子、ヒロインさんのせいで女性にトラウマ持っちゃったっていう言い分はわからなくもないんですが、貴方の婚約者に選ばれた令嬢はまともなんで。はいそうです、普通の令嬢はヤる前にお薬盛ったりして王子の意識を朦朧とさせて……とか無理矢理したりしませんから。


 って王子を宥める事になるとか予想外もいいところだよ。

 おのれヒロインさんめ、自分だって結婚してないのに何で王子とかいう生んでも育ててもいない子供の面倒見る事になったと思ってるんだヒロインさんのせいだぞ。


 ちなみに最終的に自分は王子の側近兼王宮カウンセラーとか呼ばれるようになったのだけれど。


 どう考えても解せない。

 癒されたいなら犬とか猫愛でとけばいいよ、自分に頼らないでほしい。



 ――ちなみに数年後、ヒロインさんは子供こそできなかったけど追放先の村で村一番の働き手としておじいさんおばあさんに囲まれて元気にやってるらしかった。


 ……解せぬ。

 ヒロインさんは多分前世で親から放置されてたせいで、愛に飢えてたタイプ。身体使えば一時的に人と関われるけれどその後そこそこ虚しさをおぼえてたし、でも他にどうすればよかったのかわからなくて生まれ変わった後も同じようにしかできなかった。そんな事しなくても最終的に村のおじいさんやおばあさんに可愛がられるようになったのでヒロインさん的にハッピーエンドっぽいけど、そのうち子供が作れなくなった事を後悔する日がくるかもしれないのでハッピーエンドとは言えない。


 次回短編予告


 王子と身分違いの恋をした少女。そして王子の婚約者。

 真実の愛? そうですか。でもそれただの不貞なんですよ。

 まぁ、でも。本当にそれが真実の愛であるのなら。

 ぜひとも貫き通していただきたいわ。


 っていうよくあるテンプレ。


 次回 ギスギス命綱


 生き残るために、愛を貫け。

 とか言いつつ恋愛ジャンルにはならないいつものやつ。

 投稿はなるべく早めにできたらいいな、っていう願望。

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― 新着の感想 ―
下手すると国が1個しかないどころか 辛い食べ物とか苦い飲み物がない…みたいな次元で平和が表現されてそう
ああなんと有能で不憫な主人公……飯がウマいデスワー!
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