謝罪の方法
諸々の準備が終わり、フェルメさんが飛び立った。
……その様子を見ながら、ふと思った。
もしも、「ジステラの糸も離れ過ぎると無効になる」と嘘だけど言ったら、どんな反応をしたのかな、と。
「バーカッ、バーカッ!」と言いながら逃げて行って、地面に墜落したのかな?
まあ、そうなったら、死んでるんでしょうけど。
それで「あ痛たたた……」で済むのなら怯えない。
そんなギャグ補正は無い──ああいや、始祖の面々ならギャグ的な反応になるんでしたね。
先祖返りしたローザさん達は強いけど、其処は他の皆と変わりませんからね。可笑しいのはアルビナス達だけ。
「──主様?」
「さて、予定通りに進むのかな、と思ってね」
「……ふむ、まあ、難しいじゃろうな」
「だよね~」
これまでの流れと言うか、経験則と言うか、御約束だと言うべきなのかは難しいんだけど。
何事も起きずにとは考え難い。
寧ろ、何かしらのフラグは立っている気がします。
どんなイベントフラグかは判りませんけどね。
「まあ、ハーピア族が主様の妻に加わる事だけは間違いの無い事じゃがな」
「本当、食は偉大だよな~」
「それを成しておる主様ものぉ」
そう言ったとは言え、期待はしていなかった。
ルッテちゃんが上手かった──と言いたいけど。まあ、フェルメさんがチョロかったんですよね。現実は。
あっさりと口を割り、色々と情報も得られた。
ハーピア族は全部で32人。全員若い女性。
女性のみの種族ではないそうですが……疑いたくなる。
最年長は二十歳、最年少は十三歳。繁殖可だそうです。不自然な何かしらの意図を感じる!
フェルメさんは長の妹なんだそうです。
……お姉さん、苦労してるんだろうなぁ……
……ローザさん達は少人数だったからかな?
ルッテちゃんもレーナちゃんも、しっかりしてるから。本人の性格も有るけど、そういう性格を形成した環境って無視出来無い要因ですからね。
ルッテちゃんが聞き出した限りでは、ハーピア族自体は正面な常識的な対応をしそうな感じ。
そう、フェルメさんが問題児なだけでね。
その為、フェルメさんには手土産を持たせました。
ええ、平和的に話を取り纏める為にです。
決して、餌付けしようとは考えていません。
「結果的には同じじゃがな」
アルビナス達は俺に殺されて、ですが、ローザさん達を除いたら理由は……うん、食事は大事だよね。
因みに、ハーピア族の“渡り”というのは俺の認識とは微妙に違っていました。
所謂、鳥類が暖かい所に向かう渡りではなく、飽く迄も生き残る為の行動──慣習なんだそうです。
勿論、過ごし易い場所は好ましい訳ですが、そういった場所というのは競争も激しい訳で。
それは人に限らず、モンスター等にも言える訳です。
だから、時には自ら過酷な環境に移動し、次の場所への渡りをするまでを凌ぐ事も有るそうです。
人は予め起き得る事態に備える事が出来ますからね。
特に食糧を確保出来ていれば、大抵の状況は凌げます。駄目そう無理そうなら、さっさと移動するだけなので。
空を飛べる種族ならではの強みです。
その為、フェルメさんが向かった先は北西。
一族は更に西側から東に向かっていたそうです。
この世界の世界地図を見た事も無いので定かではないのですが、確か、東大陸の西側は北大陸。
その殆んどがインベーダーの──魔王の支配領域だった筈なんですけど……ああ、やっぱり。
「それじゃあ、如何に飛べるからとは言っても、上空を通過するのは危なかったでしょ?」と訊いたら、得意気に胸を張って「高く飛べば見付からないもの!」と言った。うん、まあ、何と無くだけど、フェルメさんが、こういう性格になったのも納得出来る気がしました。
ただ、フェルメさんの言葉から考えると、インベーダーにも飛行が可能な存在は居るのかもしれない。
フェルメさんは知らないみたいだったけど。
一族全体で、そう認識されている、或いは云われているのだとすれば、過去には遭遇した事が有ったのかも。
まあ、俺が指摘するまで疑問にも思わなかったのだからフェルメさん達の親世代でも大差の無い、似た様な感じの認識だったんでしょうけどね。
だから、近くても祖父母世代以上でしょう。
実感が無くても頷ける話です。
「けど、実際の所は、どうなんだろうな」
「飛行種のインベーダーか?」
「もしも、実在感するのなら疾うに世界は侵略されている可能性が高いと思わない?」
「まあ、それはのぉ……」
「仮に、1体だけの特殊な存在だったとしても効果絶大。その1体で一気に戦況は有利になる」
「……そうはなっておらぬから、存在はしない、と?」
「それは危険かな。可能性は消さない方が良いと思うよ。それにハーピア族の事も気になるし」
「飛べるというのに放浪の身、というのじゃから当然か」
「フェルメさんがミイムに捕まったのは本人の迂闊さとか幾つも要因は有ったんだろうけど……」
「集団戦闘となれば、か……」
ハーピア族は魔法も使えるし、武器の扱いも上手い、とフェルメさんが言っていた。
多少、話を持っていたり、過去に比べて落ちた可能性は有るのかもしれないけれど。
数が揃えば、上空からの攻撃は脅威でしかない。
重力という味方も有るから、拳大の石でさえ殺戮兵器と化してしまう。それだけ制空権の効果は絶大。
それなのに、だ。
……まあ、ハーピア族自体に問題が有ったという場合も考えられる事では有るんだけどね。
「まあ、その辺りも会えば判るじゃろう」
「そうだね」
ただまあ、それが何事も無く、とはならないよなぁ……
──で、一度立ったフラグは消化するまで消えない事を再確認させられる。
全く……自然消滅すればいいものを……
フェルメさんが一族と合流する為に向かった翌々々日。
南の空から複数の反応が領空に入った。
その中にはフェルメさんが居る。
「何故、南から?」と思わなくもないけど。
糸を付けたジステラも感知しているから間違い無い。
──が、重要なのは、聞いていた人数よりも少ない事。そして、移動──飛行速度が速いという事。
まるで、何かに追われているみたいにだ。
そんな訳で、ミイムとジステラと共に転移。
フェルメさん達の進行方向に出現する。
ジステラの糸で足場を作り、俺の【領主】権限で空中に一時的に固定する事で空中戦を可能にする。
万が一の事を考えての備えでしたが──こうして実際に使う事になるとはねぇ……
平穏無事には終わらないものです。
「──っ!? アッ、アイク様っ!」
そんな俺達の姿を視界に捉えると、どうなるのか。
恐らくは初めて見るだろう、転移。
知らないから、急に現れた訳で──怪し過ぎる。
だから、空中だろうと急減速し、身構えた──が、俺を見たフェルメさんが直ぐに振り返って、臨戦態勢を取った仲間に「味方っ! 味方だからっ!!」と叫んだ。
まあ、フェルメさんからしたら、俺は勿論、ミイムとジステラも恐怖の対象だろうしね。
此処で自分達の立場を悪くする様な真似はしないか。
知っていればこそだな。
──なんて、感心していると、フェルメさん達の背後に複数の小さな点と、1つの大きな点が空色のキャンバスに浮かんでいるのが見えた。
「ハーピア族ですぅ……何かに追われていますねぇ」
視力の優れたジステラに本の少しだけ視線を向ければ、それだけで察して答えてくれる。
その間に俺の視力でも視認出来た。
ハーピア族と、それを追い掛ける巨体。
縞が無い代わりに黒い鬣を持った虎っぽい姿に、蝙蝠の様な大きな翼を持った何か。
幸いな事に聞いていた人数から減ってはいないみたいで一安心する。まあ、彼女達は必死なんだろうけどね。
そんな事を俺が考えていた僅かな間にジステラは素早く直径30センチ程の大きさの“捕縛絲弾”を作成。
これは炸裂すると蜘蛛の巣状の網を広げる。
それをミイムに渡して──躊躇する事無く投擲。
豪速球がハーピア族を追う蝙蝠虎に命中。糸に絡まって動きを止めた。
……落下しないのは凄いな。浮いているのか?
そんな事を考えながら、【一輝農閃】。
後の事を考えて、首を刎ねる様に調整。
我ながら器用なものだと思います。まあ、それだけ毎日練習もしていますからね。努力有っての事です。
「私はハーピア族の長でフェリスと申します。我等一族を助けて頂き、感謝致します。また、妹が御無礼を。伏して御詫び申し上げます」
そう言って綺麗な正座をして、三つ指を立てて土下座。フェリスさんだけじゃなくて、一族揃って。
それはそうと……彼方のフェルメさんは?
「一族の最上級の謝罪方法で御座います」
そう土下座したまま言うフェリスさん。
俺の視線の先には、両手を後ろ手に縛られて翼を広げて頭とで三点倒立をする様な形から、両足を広げて、爪先を地面に着ける様に身体を折り曲げる。
見るからに苦しそうな体勢だから顔が真っ赤になるのも頷けます。
……まあ、羞恥心も有るんでしょうね。
尾羽は背中側に垂らしている為、フェルメさんは下半身丸出しの状態。ああ、安心して下さい。ちゃんと、下着は履いていますから。丸見えなだけで。
……この方法に勇者って関係しています?
……関係無い? 本当に? ……良かった。
尚、男性の場合でも同じ格好なんだそうですが、男性は下半身は本当に丸出しになるそうです。その上……うん、俺の口からは言えない過酷さだという事だけです。
感謝と謝罪を受け取り、頭を上げて貰う。
フェルメさんは……まだ駄目? 了解。
…………仔犬みたいな目で見たいで。
「貴女達を追い掛けていた、あの蝙蝠虎は?」
「詳しい事は判りません。ただ、フェルメと合流したのが北大陸の中央東部にある孤島“キュイスバン島”近くで、其処から現れました。特に何かをした訳では有りません」
「縄張りに入ったか、腹を空かせていたか、か……」
「一族が使うルートからは外れていましたから、何かしら気に障った可能性は否めません」
「あー……」
そう言ってフェリスさんがフェルメさんを睨む。
フェルメさんが予定地点に居なかった為、捜索していた事によって、渡りのルートから外れ、其処に近付く事に。はい、睨まれて当然です。反省しなさい。
──とまあ、そんな訳でハーピア族が新たな住民に。
……同時に妻にもなる訳ですが……実は卵生とか?
……違う? 他の種族と同じと。良かった……のか?
「暇だから、ちょっと散策してくるね~」と言って妹のフェルメが一人で離れる事は初めてでは有りません。
「また貴女は……」と愚痴る間に行ってしまって。
しかし、私達も「いつもの事だから……」と油断。
だから、合流予定地点に居なかった時には焦りました。慌てて手分けして探し──無事に合流して安堵。
叱ろう──としたら、見た事も無い果実を手渡されて、更に食べてみて吃驚。美味し過ぎました。
それからフェルメの失敗と、村への定住の御誘い。
ヒュームの村長さんの妻になる事も好条件です。子供を安心・安定して産み、育てられますから。
他種族の男性も居るそうですが、既婚者ばかり。
未婚の男性は子供ばかりですから……それだけが唯一の
気掛かりでは有りますが、後々考えましょう。
皆も前向き──と言うよりも大賛成なので。
それでは向かいましょう──となった直後の襲撃。
負傷者が出ましたがフェルメ達年少者を逃がし、私達は巻こうとしましたが──執拗に追跡されました。
最終的には村長のアイク様に助けて頂きました。
はい、誰も逆らったりはしません。喜んで全員が身体も差し出します。
……合意でのみ? とても御優しい方でした。
「ぅぅ~……腰が痛いぃ~……」
「自業自得です。反省しなさい」
謝罪を終え、解放したフェルメが腰を擦っていますが、少し間違えば死んでいたでしょう。
アイク様が御優しく、寛大だからの捕縛。
ええ、皆様はアイク様の決定や方針に従っての事なので現場判断となっていれば……
フェルメの犠牲だけで済めば、結果としては良い方。
私達も感情任せに動いていれば……
取り敢えず、先ずは私は頑張ってアイク様の子を授かる事こそが一族の長としての務めです。
アイク様に御任せにはなりますが。アイク様に少しでも喜んで頂ける身体だと良いのですが。
こればかりは好みの問題ですからね。
因みに、私にとってはアイク様は好みです。最高です。強くて年下なのも個人的には嬉しいです。




