神殿
神像を造る為、必要な素材を集めて、[聖真石]という乳白色の巨石塊を【合成】で生成。
未加工でも、これ以外には無いと思える位に綺麗です。削り滓も捨てません。
【農具】は許容範囲が広く、大工道具や石工道具にでも効果を発揮してくれますから、出来る事は判っています。其処は全く不安も有りません。
問題は俺の中にも、この世界の神様の姿というのは無いという事です。だって、会った事も無いですからね。
何かしら、参考資料が有れば楽なのに。
だからと言って適当には出来無いし、自分の中の神様像というのをモデルにした模倣も違うと思う。
それでは、どうするのか。
その答えが──無心。
所謂、トランス状態となり、降ろす事です。
アイデアやネタ出しではないんですけど、自力では無理となると他力本願──神頼みです。
勇者としての力を介して世界を逆に辿り、自分の中に、神様の姿を宿し、彫り出す。
……人任せならぬ、神任せなんですけどね。
神様の像を造るのに、その神様に頼るのは、どうかとは思いますけど、背に腹は代えられません。
ちゃんとした物を造る為には手段は選びません。非合法という訳でも悪事・犯罪でも有りませんからね。
──という訳で、ダンジョン探索を一時中断して製作に集中する事にしてから、三日。
はい、何とか完成しました。
ただ……う~ん……コレ、どうなんだろう?
出来上がったのは中央に全身を外套みたいな布で覆い、顔だけを出した人が居て、その人を背後──天から降りて抱き締めている美しい女性、という形。
女性の背中には石材とは思えないリアルな真っ白な翼。頭上には光環が生じています。神々しい。
多分、この女性が女神様で、この世界の神様。
……なんでしょうけど……
デザイン的には、これでいいのかな?
俺だけでは良し悪しを判断するのは難しいから、皆にも見て貰って、その反応で決めよう。
村の広場に皆を集めて、完成した神像を御披露目。
大歓声が上がった。その場にて両膝を着いて祈ったり、中には感動して泣いている人も居る。
大袈裟な気もするけど、皆の反応を見る限り、大丈夫な感じだから一安心です。
「うむ。やはり、主様に任せて正解じゃったのぉ」
「ああ、私達では、こうは造れないな。見事だ」
「流石です、アイク様っ!」
「アイクさ~ん、凄いで~す」
「神殿の内部装飾も一層豪華にしますも?」
「その方が良い気もしますが……どうなのでしょうか?」
「私は簡素な方が良い気がしますですぅ。その方が神像の存在感を更に強調出来ると思いますですぅ」
「嗚呼っ、これは正に旦那様を神が御認めになったという証の具現化ですのっ! 素晴らしいですのっ!!」
感激・歓喜する中で、一人だけ恍惚とした表情のエメのテンションが高いなぁ……って、ちょっと待って。
エメ、それって、どういう事?
…………え? 俺? これ、俺なの?
「何を驚いている。アイクが造ったのだろう?」
「いやまあ、そうなんだけどね……」
「何じゃ、ローザは聞いてはおらなんだか?」
「ん? どういう事だ?」
「主様も神の姿は知らぬ為、勇者である事を用いて……」
アルビナスがローザさんに説明をしてくれているけど、正直に言って耳を素通りしている様な感じです。
エメの一言から発覚した衝撃の事実。
女性が多いから鏡は作ってあるけど、俺自身は鏡なんて滅多に見ないし、使わない。
だって、身嗜みは妻達が整えてくれるから。あ、勿論、チェックしてくれるって意味でです。着替えなんかは自分でしますからね。
──とまあ、そんな訳で、俺は鏡を使いません。
だから、自分の顔が以前と──この世界に来る以前とは変わっている事に気付いてはいませんでした。
勿論、別人という訳ではないんですけど……
そっかぁ……これが今の俺の顔なんだ。
確かに面影は有る。でも、前よりも垢抜けたと言うか、大人びている様に思う。
はっきり言うと自分の筈だけど格好良い。
………………いや、感心してる場合じゃなかった。
これが俺なら、エメの言った通りだろう。
そして、女神様を母と見立てれば、俺は寵児になる。
勇者だし、英雄だから、可笑しくはないけど。
そういう意味ではないんです。
聖母像をイメージすれば判り易いと思う。
その腕に抱かれる者とは聖者に他ならない。
或いは、聖者となる赤子。
つまり、全身を覆う衣は“おくるみ”という事に。
この像を女神様が造らせたという事は、そういう事。
そして、俺と皆の歩む道を、未来を祝福してくれているという事でもある。それは素直に嬉しい。
──が、コレを神殿に置く? 皆が見て、崇める?
……………………うん、無理。はい、コレは無しで。
そう言ったら、大ブーイングが起きた。
しかし、俺の決定は覆りません。【領主】としての力を使ってでも却下します。
俺の精神が持たないのでダメです。
「むぅ……主様が強権を使ってでも拒むとはのぉ……」
「……アイク、本当に駄目なのか?」
「ローザさんまで……」
「私達とは“力の有る者”という事への認識──価値観が違うという事は理解はしている。そういう意味では私達も御前が嫌がる事はしないし、する気は無い。だが、これは実に見事な出来だ。破壊したりはしないだろうが、誰にも見られる事無く、忘れ去られるには惜しい」
「それは……」
「御前の事だ。自分の死後であれば好きにして構わないと思っているのだろう? しかし、それでは私達は自分達が生きている間は目にする事が出来無い。それは辛い」
……不味い。これは非常に不味い流れです。
既にローザさんに押し切られる結末しか見えません。
──が、此処で日和っていては俺の沽券に関わる!
どんな価値の、何の意味が有る沽券かは判りませんが、引いたら終わりです。だから、此処は強気に──
「それにだ。この像は私達の歩みを、未来を表している。御前との出逢いが私達の運命を変え、新たな生命の息吹を紡いでくれた。そう考えれば、この像とは女神様が勇者を寵愛しているのではなく、勇者の紡ぐ絆と繋ぐ生命を祝福しているのではないだろうか、と私は思う」
────駄目だ。自分でも納得してしまった。
女神様がローザさん達──俺との子供を産んでくれる妻にしか見えなくなり、俺が未だ見ぬ子供達にしか見えない様になってしまった。
……くっ……そうなると本当に神殿に相応しい。
ローザさんに【神託】【受神】みたいなスキルは無い。外部干渉の可能性は無しか。
「………………判りました」
そう俺が言うと勝鬨の様な大歓声が上がった。
そんなに俺を晒し者にしたいのっ?!
「皆、主様を尊敬しておるだけじゃ」
「はぁ~……でも、神殿には置かないから」
そう言うとピタッと静まった。ちょっと面白い。
まあ、ローザさん達からの圧も凄いんですけどね。
「村の神殿に設置する神像は、また俺が新しく造る」
「それでは、この像はどうする?」
「この像は別の場所に別の神殿を造って設置する」
「別の神殿をか?」
「うん。ユマデェ山──以前のエメが居て、ダンジョンが有った場所にしようと思う。あのダンジョンが俺にとって大きな岐路でも有った訳だから」
「ふむ……まあ、彼処であれば悪くはないのぉ」
「村の中よりも高地になるし、参拝する為に山を登るのも一つの洗礼──通過儀礼みたいになるからね」
まあ、村の皆にとっては軽々と行ける場所ではあるけど村から離れていて、隔離された場所だから俺の精神的には直接的なダメージが入り難い。これが重要。
俺の提案──決定なんだけど──を聞いて、話していた皆が納得した様に俺を見て静まった。
良かった。何とか最悪の事態は回避出来たみたいです。村の中に自分の像なんて要りませんから。俺には、そんな自己顕示欲は有りませんからね。遣るのなら俺の死後に。俺が生きている内は絶対に遣らせません。
二日後、代わりの女神像が出来上がった。
今回はトランス状態になる前に強く強く! 強くっ! 念を込めてから作業に入った。
その甲斐が有った様で、女神様だけの像になった。
我に返った時、その事に拳を握ったのは内緒です。
新たな女神像は直立し、両手を広げた姿。背中には翼が後光の様に広がり、頭上には光環が現れている。う~ん、不思議であり、謎であり、神秘的です。
僅かに上半身が前傾している為、正面に立つと女神様に抱き締められるかの様に錯覚します。我ながら凄い出来に驚くしか有りません。
また、見方を変えれば、女神様が慈愛を与えているかの様にも見えます。
…………最初の神像の影響かな?
この女神像を見ていると、傷付いた者・懺悔する者等、真摯に祈りを捧げる者であれば、全てを受け入れてくれるかの様な深い深い慈しみと、悩み迷える者とは向き合って信じて背中を押して送り出してくれているかの様に思う。神殿に相応しい出来でしょう。
そして、全ての生命を迎え、送り出す。
生と死。命の始まりと終わりを感じるのは、きっと俺の気のせいではないんでしょうね。
この世界を見守る女神様なんでしょうから。
因みに、神像に女神様の名前は刻まれていません。
「信仰は不要です」という事なんですかね?
或いは、神々の規定で自己アピール禁止とか?
そうだったら、地団駄を踏む女神様の姿が……
「────っ!?」
「女神様も可愛いな~」とか思っていたら、急に寒気を感じて身震いしてしまった。
流石に不敬だったかな?
神殿が完成したら、村を上げて盛大に御祝いしますから赦して下さい。年一で感謝祭を催しますから。
既に完成している礼拝堂の設置予定場所に女神像を置き皆の反応を窺うと──うん、大丈夫そうです。
既に十数人が遣って来て祈りを捧げていますから。
作業中だった面々も一時中断して参加し始めています。ああ、大丈夫。祈っていいから。
ただ、後で“先に祈ったマウント”を取らない様にね。そんな理由で揉める事自体が不敬ですから。
「今回の神像も素晴らしい出来じゃのぉ」
「そう? それならローザさん達やアルビナス達、始祖の像も造って飾る?」
「…………それは前回の妾達への意趣返しかのぉ?」
少し考えてから、顔を赤くしたアルビナスが俺の意図を察して睨んでくる。
判ってくれて何よりです。
「悪い気はせぬが……後世に残るのは……いや、それより自分の知らぬ所で皆に崇められるのは……」
此処で上手く反論すれば、俺の像を造れる。置ける。
そう考えたみたいで悩むアルビナス。
ブツブツと呟いているけど、かなりの劣勢みたいです。まあ、利点なんて無いでしょうしね。
信仰心や信奉者を集めたい神様とか、知名度や影響力等を高めたい権力者でもない限りはね。
──あ、兎に角、目立ちたい、自己顕示欲の塊みたいな人は別枠ですよ。意味が違いますから。
でも…………うん、悪くないアイデアかもしれない。
村の神殿ではなく、ユマデェ山に造る神殿に設置する。あの像は半分は俺なんだし。妻達にも……ね?
そうなると、こっそり造るべきだな。サプライズで。
…………いや、でも、それだとサプライズ返しが……
「主様、ユマデェ山の方は、いつ始めるのじゃ?」
「え? まだ先のつもりだけど…………まさか……」
「皆、遣る気に満ちておるぞ」
いつの間にか戻ってきていたアルビナスが訊いてきて、俺の方が吃驚する。
チラッと周囲の皆を見ると……うん、意識してる。
祈りながらだから、雑念です。集中しなさい。
……いや、それならと、先に話を聞こうとしない。
…………そんなに連続では遣るつもりは無いんだけど。
でも、遣る気が有る内に造ってしまう方が良いのかな?
…………でも、勢いだけで造るのもなぁ……
うん、ちゃんと考えよう。時間や期間の制限が有るって訳でもないんだから。




